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思惑外れのiPhone5c買い始めた中国労働者の本音

 米Apple(アップル)が2013年9月に発売したスマートフォン(スマホ)「iPhone 5c」。5色のボディーカラーを用意したこのスマホは、同時発売した旗艦モデルの「iPhone 5s」に対して廉価版という位置付けで、今後の成長が期待される新興国での需要を主に狙っている。ところが、iPhone 5cは中国などで出足から販売不振が伝えられていた。しかし、ここにきて中国の労働者たちがiPhone 5cを買い始めているという。一体何が起きているのか。EMS(電子機器の製造受託サービス)/ODM(相手先ブランドによる設計・生産)企業・市場に特化した情報サービスを提供する、EMSOne編集長の山田泰司氏に解説してもらう。

Appleが中国でも廉価版として投入した「iPhone 5c」(以下、5c)の販売が低迷している。中国や台湾では同5cの不調を伝える情報が相次いでいる。

中でも注目されたのは、EMS世界最大手の台湾Hon Hai Precision Industry(鴻海精密工業、通称:フォックスコン)が、同5cの生産を打ち切り、旗艦モデルの「iPhone 5s」(以下、5s)の生産に注力するというものだ。

こうした情報は大半が市場関係者や金融アナリストによるものだったが、業界関係者の関心を集めたのは、台湾の経済紙「工商時報』(2013年11月16日付)の報道だった。フォックスコンのiPhone主力工場である中国河南省の鄭州工場で5cの生産ラインで働いている人物が同月中旬、ネットに書き込んだ内容を紹介したものだ。

「昨夜の生産台数はたったの200台だった」「ラインのリーダーは我々に、同5cとの最後の時間を大切にするよう呼びかけた」など、同工場での生産が間もなく終了することを示唆した。さらにこの人物は、鄭州工場において5cが「49」、5sが「5X」というコードネームで呼ばれているとした上で、「私たちのラインは間もなくコードネーム5Xの生産を始める」と披露。これらの情報は全て、ラインリーダーから聞いたものだとしている。

第4四半期の出荷は予測から35%下方修正

工商時報は11月26日付でも、Appleウオッチャーとして著名な台湾KGI証券のアナリスト、Kuo Ming Chi氏の最新レポートの内容を紹介した。同氏は、5cの2013年第4四半期出荷台数を、従来予測から35%下方修正し、724万台にとどまるとの見方を示した。

Kuo氏は、年末商戦など最盛期を迎える第4四半期においても、5cの販売が大きく改善することはないと予測。出荷台数が2013年第3四半期から11%減少するほか、旧モデル「iPhons 5」「iPhone 4S」の合計934万台をも下回るとの見方を示した。

このように、5cについては不振を伝える情報ばかりが目立つ。こうした中、上海で働いている中国人の20歳代前半の友人から最近、「産休で里帰りしている妻に5cを買ってやろうと思っている」という話を聞いた。さらに彼自身や、彼と同じような境遇にある同僚たちの話を聞いてみると、5cが中国で本格的に売れ始めるのはこれからなのかもしれない、と思わせるものがあった。

そこで今回は、筆者の周囲という極めてミクロな話ではあるが、中国の一大所得層である月収3000元(1元=約16.7円で約5万円)台の労働者たちの話を紹介することで、5cの今後の売れ行きを占ってみたい。

中国労働者の平均月収は5万円

この友人、周氏は22歳。上海から500kmほど内陸に位置する安徽省の農村出身で、中学を卒業後、16歳で上海に出稼ぎに来た。花市場の力仕事、美容師、ベビーシッターなど職を転々とした後、3年前から上海浦東国際空港にある物流会社の倉庫で働いている。

19歳の妻と7カ月になる娘は彼の実家に里帰り中である。月給は3500元(約5万8500円)で、妻は出産を機に上海の縫製工場の仕事を辞めたので、これが周家の世帯収入だ。職場近くに500元(約8350円)で借りているワンルームアパートに住んでいる。

150人ほどいる周氏の同僚は、管理者を除いて彼のような地方出身者で、18~28歳ぐらいまでの男性がほとんど。月給は、新人の時からほぼ3500元で、何年経っても昇給はないのだという。

ちなみに、iPhoneを製造しているフォックスコンのライン従業員も、残業代を入れると月給は3500元前後だと言われている。すなわち、3000元台というのは、現在の中国において、労働者の平均的な収入だということができる。

子供の写真を撮るために新調を決意

さて、周氏は田舎に帰省中の妻子と毎日、携帯電話で話しているほか、中国の代表的なSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「QQ」を使ってチャットをしている。

ただ、2人とも現在使っているのは2年前に1000元(1万6700円)強で買った中国Lenovo(聯想)のスマホで、最近動きがかなりモッサリしてきた。子供の写真を撮ったり送ったりするのにも非力だ。

2人同時にスマホを新調できればビデオ通話もサクサクできて、妻子と離れて暮らす彼にも便利だが、子供ができて以来、何かと物入りで予算的に厳しい。そこで、子供の写真を撮ることが最優先ということで、妻のスマホを買い替えることにした。そこにちょうど登場したのが5sと5cだった。

人気のゴールド5sは手が届かず

周氏が一番ひかれたのは、中国で最も人気のある「土豪金」ことゴールドカラーの5sだった。ただ、中国での価格は公式ショップ「Apple Store」で16Gバイトのモデルが5288元(8万8300円)。周氏の月給の1.5カ月分で、月給の1カ月分までと決めている予算を完全にオーバーしているため、食指は動かなかったという。

これに対して5cは給料1.3カ月分の4488元(約7万5000円)で、これも予算を上回る。そこで周氏は、予算内に収まる韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の「Galaxy」シリーズのローエンドモデルか、「中国のApple」として最近国外でも知られ始めた新興ブランド、Xiaomi(小米科技)の「小米3」のどちらかを買おうと考えた。

値下がりで一気に購入の選択肢に

ところが、2013年11月に入って状況が変わった。販売不振を受けて、5cの実勢価格が下がり始めたのである。「Taoba.com(淘宝商城)」などのネット通販サイトでは11月中旬、香港から密輸されたSIMフリー版が3100元(5万1770円)と、周氏の予算内に収まる水準にまで下落した。

「5cの値段がここまで下がると、Xiaomiの小米3やSamsungのGalaxyよりも、5cの方が圧倒的にいい、というのが同僚や仲間内の評判だ」(周氏)と話す。5cの相場が3500元、つまり彼らの月給を割り込んだ途端、「5cを買う」という同僚が一気に増えたのだという。

「僕たちのような給料が3000元台の人間にとって、100元、200元の違いでも生活に影響が出る。また、携帯電話の端末に出すお金は給料の1カ月分までと決めている人が大半です。例えば僕の場合、5cが4000元(約6万6800円)なら買わないけど、3500元なら買う。金額にすれば500元(約8350円)に過ぎなくても、それが、給料の1カ月分であれば安心だけど、1.2カ月分だと『今月や来月の生活は大丈夫かな』と不安になる」と周氏は話す。

世評では、5sと5cの価格差が800元(約1万3400円)しかないことから、5cについて「どこが廉価版なのか。旗艦モデルと大した差がないではないか」との声が相次いだ。ただ、5cを出すに当たりAppleが最も意識したと言われる中国市場において、800元というのは、周氏のような労働者の人たちにとっては、大きな価格差だったのである。それにしても、4000元台という価格設定は、やはり高すぎたようだ。

5cのカラー展開に高い評価

価格のことはよく分かった。では、同じ価格帯にある小米3やGalaxyのローエンドモデルなどの競合品に比べ、5cのどこが、周氏らにとって魅力的なのだろうか。

それは、ホワイト、ピンク、ブルー、イエロー、グリーンの5色のカラー展開と、この5色にブラックを加えた6色の専用ケースなのだという。「あんなにきれいな色は、Apple以外のブランドにはまったくない。中国の若者は、ああいう明るい色が好きなんだよ」(周氏)。Appleは5cのケースの色について、「他の何にも似ていない6つのカラー」と表現しているが、目論見は見事に当たっているようだ。

しかし、5sと5cが発売された際、周氏が一番ひかれたのは5sのゴールドだと言っていたはずだ。その点を尋ねると、彼は笑って、「中国人が一番好きな色は金色ですよ。

だけど、若者は5cの色も発表された時から大好きだった。でも、明らかに5cよりも性能が良くて、色もいいという製品が同時に出たら、それより劣るものを買うのは気分的に残念。もし、5sと同時発売でなく、1カ月でもずれていれば、5cの評判は、少なくとも若者たちの間では、出足から良かったと思うよ」というのが、周氏の分析だ。

需要向上を受け値上がり

周氏は5cの値段が下がり始めた2013年11月以降、携帯電話の小売り業者が数百軒も入居する上海駅前の「不夜城」と呼ばれるビルに週に1度は足を運んでいる。

すると、同年11月23日に訪れた際には、香港からの密輸品が3200元(約5万3400円)と、1週間前の相場よりも100元(約1670円)上がっていた。店員に聞くと、「あんたたちぐらいの若いヤツが買い始めたからだよ」と説明されたという。

今後、5cの需要がこのまま上向き価格も再び4000元に近づいていけば、周氏らの所得層の人たちはまた、5cに手を出しにくくなり、売り上げも鈍化するだろう。その分岐点こそが、Appleが付けるべきだった同5cの適正価格なのかもしれない。

(EMSOne 山田泰司)

[Tech-On!2013年12月2日付の記事を基に再構成]

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