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ガンダム30歳 長寿プラモの研究 (上)

人気アニメ「機動戦士ガンダム」のプラモデル、通称「ガンプラ」が7月、発売から30年の節目を迎える。製造・発売元のバンダイによると累計販売は4億個を突破し、長寿商品の存在感は薄れる気配がない。こだわりのもの作りやソフト事業との相乗効果――世代を超えた人気の秘密を探ると、多くの日本企業が参考にできそうなヒントが見えてくる。ガンダムビジネスの最前線を2回にわたって報告する。

伝説のガンプラマンに会う

JR静岡駅から車で約10分走ると、アニメに登場するガンダムの高さと同じ18メートルの3階建ての建物が見えてくる。湾曲した壁にはソーラーパネルが埋め込まれ、SF的な雰囲気を漂わす。約120人が働くバンダイホビーセンター。商品企画から設計、生産までを手掛ける世界でただひとつのガンプラ工場だ。

ここに伝説のガンプラマンがいると聞いて、やって来た。

黄色く日焼けした図面用紙に、一体のガンダムが手書きされている。アニメに登場するような、すらりと手足が伸び均整のとれた体型とは言えない。「直立不動」を思わせるどこかレトロで素朴な姿。今から30年前、300円で売り出されたガンプラ第一号商品の設計図だ。

歴史的な図面を引いたのは、ホビー事業部金型チームの村松正敏氏。ガンプラを世に送り出した伝説の人だ。今のように3次元CAD(コンピューターによる設計)といった便利な道具はなく、設計図をもとに木型を作って出来映えを確かめる手間のかかる作業が必要だった。村松氏が振り返る。「アニメの平面をどう立体にするか。辻褄を合わせるのが結構、大変だった」

苦労は報われ、ガンプラは大ヒットする。バンダイ社内では「20万個も売れれば成功」との声が大勢だったが、わずか半年で販売個数は100万に達する。全国の模型店ではいつも品切れで、入荷の情報が流れると小学生らが店頭に殺到した。社会現象だった。

進化し続けロングセラーに

それまでのロボットアニメは勧善懲悪の単純な筋立てばかり。人類が宇宙で暮らす時代の独立戦争を描いたガンダムの物語はシリアスで新鮮だった。次々と登場するガンダムなどの人型兵器「モビルスーツ」も魅力的。それをプラモデルにしたガンプラは、アニメ放映開始の翌年に発売、模型作りを楽しみながら空想の世界に浸れるという娯楽性の高さで、多くのファンをつかんだ。

もちろん、そうしたスタートダッシュの勢いだけで30年も長続きはしない。「これほどの発展は想像できなかった。自分が働く会社ながら感心する」。絶え間ない技術革新がガンプラ人気を支えてきたと村松氏は見る。では、30年間のガンプラの進化とはどんなものか。ここで実際の商品をみてみよう。

用意したのは2種類のガンプラだ。一つは村松さん設計の300円ガンダム。もう一つは2009年7月発売のガンダムで、価格は税込み1260円。ともに縮尺は144分の1だ。

箱をあけると、まず色の違いに気づく。初代の村松版ガンダムは部品がすべて白。胸は青、腹は赤とカラフルなガンダムに仕上げるには、塗料を使わなければならない。一方の09年版ガンダムは白だけでなく、赤、青、黄、グレーと初めから色のついた部品が入っている。そのまま組み立てれば、アニメに近い色使いのガンダムになる。

部品の数はどうか。村松版の約50個に対し、09年版は約150個と3倍だ。体の各部分をより多くの部品で構成し、精密さ、高級感を出す。肘や膝など関節が動く範囲も広い。アニメの名場面の「決めポーズ」をとらせやすそうだ。

ただ、部品が増えたからといって作るのが面倒とは限らない。村松版は組み立てに接着剤がいる。きれいに完成させるには手先の器用さも必要だ。09年版なら部品についた突起を、別の部品の穴にパチンとはめ込むだけ。接着剤のいらないスナップフィットという仕様になっている。

カギを握る射出成形機

より精巧なものを、より簡単に組み立てる――。ガンプラが30年間めざして来た方向性を一言で表せばこうなる。

それを象徴する「秘密兵器」がホビーセンターの一階にあった。17台の射出成形機。熱で溶かした樹脂を金型に流し込んでガンプラの部品を作る。部品はランナーと呼ぶ四角い枠に並んだ状態で成形される。できたてのランナーが専用の箱に次々と積み上げられていく。24時間フル稼働すれば、1日に7万枚のランナーを生産できる。

近づいてランナーをよく見ると、部品の色はすべてが同じというわけではなく、1枚の中に複数の色が混在している。塗装いらずのガンプラを効率よく量産するために開発した多色成形技術だ。一枚のランナーの中に最大4色の部品を一度に成形できる。バンダイが成形機の有力メーカー、東芝機械と共同開発した。3色までの成形機は市販されているが、4色対応は世界でここだけだという。子供でも手軽に作れるスナップフィットも、金型の精度を上げ、部品寸法の微妙な調整を可能にしたことで実用化した。多色成形機、金型ともに特許をとっている。

バンダイの持ち株会社、バンダイナムコホールディングスによると、09年度のガンダム事業の売上高はグループ全体で346億円。同社にとって最大の稼ぎ頭で、「仮面ライダー」の1.7倍、「ドラゴンボール」の2.8倍だ。ガンプラを筆頭にフィギュア(人形)、映像ソフト、ゲームなどさまざまな商品がある。値の張る大型業務用機器の発売があったかどうかなどで年度ごとにばらつきはあるが、年間400億円前後を安定的に売り上げてきた。10年度は前年度に比べ4%の増収を見込む。他のキャラクターより事業の収益性も高いという。

バンダイの上野和典社長が話す。「一般に玩具の世界では、半年で投資を回収しなければならないが、商品の息が長いガンダムは3年で回収しても構わない。長期にわたり事業を継続するという前提があれば、思い切った投資もできる」。なかでもガンプラは最重要の商品。コストカットのため玩具の生産は大半が中国など海外にシフトしたが、先端技術の固まりで付加価値の高いガンプラはメード・イン・ジャパンでも採算が合うという好循環が生まれている。

上野氏からもらった名刺には、「CGO(チーフ・ガンダム・オフィサー)」という肩書きが「社長」より太く、大きく印刷してある。経営トップ自ら特定キャラクターの責任者を務めるのは異例で、ガンダム事業の重みがわかる。「ファンの要求水準は高い。下手な商品を出せばそっぽを向かれる」。上野氏の危機意識は強い。

若手の発想でカイゼン

ガンプラ30年の歴史の一ページ目に名を刻む村松氏は現在62歳。定年後に再雇用され、金型の管理業務を通じて技術の伝承に励む。モビルスーツにちなんだ「ザク松」のニックネームまで持つ有名人だが、偉ぶったところはない。むしろ、次々に新しい技術を編み出す若いガンプラマンたちの能力を高く評価する。「今のように関節が動く設計はとても考えつかなかった。私にとっては宇宙人みたいな存在」と村松氏は言う。

そんな「宇宙人」世代のひとり、ホビー事業部企画開発第二チームの西沢純一サブリーダーにも話を聞く。入社14年目の33歳だ。

西沢氏は代表作として、税込み2万6250円とガンプラとしては最高額の商品を見せてくれた。部品点数は1000を超す。簡単なボタン操作で肘や膝などの関節を動かしたり固定したりできる機構や、LED(発光ダイオード)とモーターを組み込んで体の一部を光らせる仕掛けなどを盛り込んである。こうしたガンプラ初の技術は簡易版などの形で、値段の安い製品にも順次応用していくという。

ガンプラは同じキャラクターでも、その時々の新技術を使って繰り返し商品化される。同じ車名の自動車が何年かおきにモデルチェンジされるのに近い。主役のガンダムの場合、村松版以来、約20種類が発売済みだ。30周年を受けてバンダイが夏に投入するガンプラの新シリーズ「RG(リアルグレード)」も、第一弾はガンダム。価格を税込み2625円に抑えながら、上級の「MG(マスターグレード)」シリーズ(主要価格帯3150-4200円)に匹敵する質感や関節の動きを実現する。工場で成形するときにあらかじめ複数の部品を組み合わせてモジュール化しておき、ランナーから取り外せば内部構造は出来上がり、という効率化のアイデアを採用する。

RGも担当する西沢氏が語る。「ガンプラは作るたびに新しい発見がある。ゴールはなく、どんどん進化する」

実物大の"ガンプラ"も登場

ホビーセンターと目と鼻の先にある東静岡広場。ここに7月24日、高さ18メートルの"実物大"ガンダムの立像が姿を現す。すでに地鎮祭は終わり、設置工事が間もなく本格化する。

ガンダム立像は、1年早く09年に30周年を迎えたアニメ放送を記念しての企画。ファンのすそ野をさらに広げようと、バンダイナムコグループの映像音楽コンテンツ会社、サンライズが中心となって推進した。まず09年夏に東京・お台場に展示し、415万人の見物客を集めた。

実は立像の「モデル」もガンプラだ。立像の制作・設置を請け負った乃村工芸社とサンライズのチームがまず取り組んだのはガンプラの組み立てだった。いろいろなタイプのガンダムのガンプラを組み立て、下から見上げたときの見栄えなどを考慮して、腰はこれ、脚はこれという具合に、それぞれのいいところを選んで、立像として理想的な体型のガンダムを作り上げた。「その3次元画像から立像の図面を起こした」。サンライズガンダム事業部企画営業チームの志田香織マネージャーは説明する。

立像の骨組みには日本製の鉄骨を用い、繊維強化プラスチックの外装パネルはタイで生産した。当初はお台場での展示後、廃棄処分する計画だったが、高須武男バンダイナムコホールディングス会長の「巨大なゴミを作るな」の一言で方針を転換。再利用できる設計に改めた。立像は分解すると輸送用の大型コンテナ25個に収まり、保管や移設ができる。ゴミではなく、「巨大なガンプラ」になったといえる。

バンダイナムコグループには「ぜひ立像を設置したい」と、国内外から誘致話が持ち込まれている。静岡市のケースもその一つ。同市はプラモデルの製造品出荷額が日本一で、大掛かりな模型イベントを夏に開く。集客の目玉として、ガンダム立像に白羽の矢を立てた。

「富士山を背景にガンダムがそびえ立つ姿を見るのが楽しみだ」。小嶋善吉市長も興奮している。30歳のガンダム。国民的キャラクターの風格が出て来た。(電子報道部 村山恵一)

=「ガンダム30歳 長寿プラモの研究(下)」は5月18日に掲載します。

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