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京都で実現なるか、「日本版ロードプライシング」

1200年の歴史を持つ京都市で、最新のITを使ったロードプライシング(道路課金)の検討が始まろうとしている。同市が、車依存型社会からの脱却に向けて2010年1月に策定した総合交通戦略の一環だ。ロードプライシングは日本では阪神高速5号湾岸線で導入されているだけで、一般道での実施例はない。同市での検討が「日本版ロードプライシング」の確立につながるのか、注目される。

ロードプライシングは、道路の使用に対して料金を徴収する仕組みである。海外では、シンガポールや英国ロンドン市、スウェーデンのストックホルム市などが導入し、都心部の渋滞解消などに効果を上げている(表1)。

表1 海外におけるロードプライシングの実施例
都市名施策名導入時期概要
シンガポールERP(Electronic Road Pricing)1998年9月車載機器と道路上に設置したゲートが通信することで自動的に料金を徴収する。それ以前は、通行許可証を制限区域手前で購入していた。区域内の通行量によって料金が変動する。未払いの車については、ナンバープレートをゲートのカメラで撮影し罰金を課す。
英国ロンドン市Congestion Charging2003年2月市の中心部に乗り入れるための料金を、事前に指定場所で支払うことを義務付け、その際にナンバープレートの番号をデータベースに登録。制限区域内にあるカメラでナンバープレートを自動認識し、データベースと照合する。未登録で進入した場合、当日夜までに支払わないと罰金を課す。
スウェーデン・ストックホルム市Congestion Charging2007年8月平日のラッシュアワーの時間帯に、市中心部に18カ所あるコントロールポイントを通過するたびに課金する仕組み。無線ICタグとカメラを使って車両を特定し、時間帯によって異なる料金を徴収する。

京都市がロードプライシングに着目するのは、観光地などへの混雑期の流入規制や、都心部を通過する交通量の制限といった用途を期待するためだ。年間5000万人の観光客が訪れる同市において、観光ビジネスの拡大と環境負荷低減の両立を図ることは、大きな課題の一つだ。

日本でのロードプライシングは、1968年7月に「都心通行賦課金構想」が打ち出されるなど、発想としては古くからあるものだ。しかし、実際に導入となると話が変わる。例えば、鎌倉市。1995年から2001年まで「鎌倉地域交通計画研究会」を設置してロードプライシングの導入を検討したものの、一部商業者からの反対で実現しなかった。同研究会の関係者によれば、「鎌倉市には車で入れない、という噂が広まってしまったため」という。東京都も2003年に素案作りを始めたが、目立った進展はない。

そうしたなか、京都市でのロードプライシング導入への期待が高まっているのは、京都には政策実行のための諸条件がそろっていると考えられているためだ。道路行政を管轄する国土交通省内には「京都で実現できなければ、ほかでは実現できない」といった声もあるほどである。

具体的には、盆地の中心にあって外部から入りづらい、限られた空間を多数の歩行者が利用するといった地理的条件に加え、京都議定書ゆかりの地として環境への意識が高い、進取の気質がある、「京都人」としての誇りがある、人口の10分の1が学生であることから産官学の連携が容易、といった好条件に恵まれている。

条例改正で90年度比「40%削減」へ

1997年12月に京都議定書締結の舞台となった同市の成長戦略は、「環境未来都市・京都」の実現である。(1)環境、経済、社会のそれぞれで新たな価値を創造すること、(2)絆を強める新しい京都流ライフスタイルの確立、(3)新たな発展モデルの構築と持続可能な都市経営、といった目標を掲げる。

市長の門川大作氏は、成長戦略として新たな価値やライフスタイル、発展モデルなどを模索する理由を、「1200年の歴史があるといっても単なる"古都"ではない。常に改革を続けてきたことで、今の京都がある。変わり続けることが重要だからだ」と説明する。ITを施策に取り入れることも改革の一つというわけだ。

京都市はこの3月に向けて、成長戦略の実行プランとなる「京都市地球温暖化対策計画」の作成を急いでいる。2010年9月に改正が議会で可決され、この4月から施行される「京都市地球温暖化対策条例」において、門川市長が"挑戦的"と呼ぶ、温暖化ガスの削減目標を掲げたからだ。

改正前の目標は、2010年までに1990年度比で10%の削減。これは、2008年時点で達成している。今後は、2020年度に25%削減、2030年度に40%削減の中間目標を達成し、2050年度に大幅削減による低炭素社会の実現を目指す。

地球温暖化対策計画の実効策の一つが車依存社会からの脱却であり、その活動を同市は「歩くまち・京都」と呼ぶ。そこでは、電車やバスといった公共機関の利便性向上や、歩行者を中心とした道路機能の見直し、カーシェアリング、エコカーへの転換などを推進する。

公共機関の利便性向上では、市の東西と南北に走る地下鉄の最終接続時間を合わせたり、地下鉄の最終列車とバスの最終便を連携させたりして、利用者増を図る。道路機能の見直しでは、パークアンドライド(自宅から自動車で鉄道の最寄り駅やバス停まで行き、そこに駐車して鉄道やバスで都市中心部などに行く仕組み)の通年実施や、カーシェアリングの普及を後押しする。

ITを使った施策では、冒頭のロードプライシングのほか、「EV交通情報通信システム」を開発し、到着予定時刻や乗り継ぎ案内、観光情報提供など、市民と観光客それぞれの利便性を高める計画だ。これらに先立って、2011年2月10日からはEV(電気自動車)バスの実証実験を開始した。

交通行政以外にも、地域産木材の活用推進や、森林整備、再生可能エネルギーの利用拡大、地域エネルギー・マネジメント・システム(CEMS)の構築など、計画は実に盛りだくさんだ。いずれかの施策に特化せず、数々の取り組みを並行して進める理由を門川市長は、「"目玉施策"だけでは、環境問題は解決できない。継続のためには地域ぐるみの活動に広げなければならず、総合的な取り組みが重要だ」と説明する。

地元への愛着が推進力に

こうした計画が立案できるのも、京セラやオムロンなど、京都に本拠を置く環境技術やセンシング技術に強い企業の存在や、京都大学をはじめとする学術研究拠点の存在は無縁ではない。そして、「京都が好き」「京都人だから」といった市民の自負心が、活動の推進力になる。京都市副市長の由木文彦氏は、「明確な意志や理想をベースに、環境を変えてこそ意味がある。先端技術の使いこなしを含め、新たな街づくりを推進したい」と意気込む。

世界各地で展開されている「スマートシティ」のプロジェクトは大きく、新興国などの新規開発型と、先進都市での再開発型に分かれる。再開発型の方が、ライフスタイルの変化を強いる分、市民の合意形成を含め、その推進は困難だとされる。

ただ、再開発型の成功例とされるオランダのアムステルダム市や米国ニューヨーク市の共通点として、「アムステルダムっ子」「ニューヨークっ子」といった、それぞれの街に住むことへの自負心が強いことが指摘されている。「京都人」の場合も、歩くことの不便さや、高い利用料金を求められても、環境への負荷軽減を進めるというライフスタイルに価値観が見いだせる可能性は高い。

京都市におけるスマートシティ実現への取り組みは、日本版ロードプライシングといったテクノロジーの観点はもとより、都市計画の観点からもモデルケースになりそうだ。

(日経BPクリーンテック研究所 志度昌宏)

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