頭痛や耳鳴りの原因「首こり」を解消 - 日本経済新聞
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頭痛や耳鳴りの原因「首こり」を解消

ゆがみリセット学(7)

竹井仁

 猫背であごを突き出す姿勢、ストレスでぐーっと歯を食いしばる習慣、同じものを凝視しなくてはならないデスクワーク――。このような日々の姿勢の問題が、首の後ろ側の鈍い痛み、頭痛、耳鳴り、目のかすみを呼んでいます。まずは悪い姿勢で凝り固まった後頭下筋群をマッサージ。さらに簡単な体操で内側から筋肉を緩めて血流アップ。仕上げに「いい姿勢」を体に再学習させる筋膜ストレッチ。今回はフルコースで凝りを解消しましょう。

うなじや首の後ろが凝る。凝るだけではなく鈍い痛みも。頭やこめかみがズキズキする。目がかすむ。耳鳴りがする。腕がしびれることもある──こんなふうに「首こり」は、さまざまな不調を引き起こすきっかけになる、注意が必要な症状です。

このとき凝っているのは、首の後ろの4つの筋肉からなる「後頭下筋群」。後頭下筋群は、頭の後頭骨から頸椎2番までを、縦や斜め方向に立体的につないでいる筋肉群です(下イラスト)。

私たちが見たい物を見て、嗅ぎたいものを嗅ぎ、聴きたいものに耳を傾けるときにこの筋肉群の微細な動きが欠かせません。では、後頭下筋群がなぜ凝るのか。最も大きな要因となるのが長時間の「座り姿勢」です。あなたの座り姿勢をイメージしてみましょう。猫背であごを前に突き出していませんか?

猫背になると目線は自然と下向きになりますが、それでは見たいものが見えないので猫背の状態で顔を正面に向けることになる。すると、首の後ろにある後頭下筋群に頭の重みが一気に集中し、筋肉はぐっと縮まって硬直します。さらに、「同一のものを見続ける」ことも悪化を促します。後頭下筋群は目の動きとともに動く一方で、頭を固定する役割もあります。パソコンの画面のあちこちに視線を移すには、両方の働きが常に要求されます。すると、首の後ろはずーっと緊張状態に。後頭下筋群が硬くなると、その表面を覆う僧帽筋も硬くなるので、うなじから肩全体に重だるい鈍痛がする、という人も多い。あごを突き出すことで、首の皮膚が伸びて、結果として二重あごの原因にもなります。

もちろん職場のストレスも首こりを悪化させます。イライラすると無意識のうちに歯をぐっと食いしばり、眉間にシワを寄せ、肩に力が入るもの。このような姿勢も首の後ろを硬直させてしまうんです。

首には頭、目、耳につながる神経が集中している

このように、デスクワークは首こり要因のオンパレード。日中はデスクワークをしていて朝夕の通勤時はスマホの画面を凝視、なんていうのは、はっきりいって最低です(笑)。これでは首が休む暇がない。せめて電車の中では車窓からの風景をぼんやりと眺めましょう。

後頭下筋群が凝ると、ここに密集している後頭下神経、大後頭神経、小後頭神経といった神経が圧迫されます。これらの神経は、頭の後ろ側や耳、目など幅広いエリアを支配しているため、圧迫されると耳鳴りがしたり、目がかすむようになる。頭痛が起きることもあります。また、緊張しやすく歯を食いしばる癖の人は、かみしめる筋肉と連絡している三叉神経が圧迫を受け、こめかみがズキズキ痛むこともあります。首には自律神経も通っているので、冷や汗をかいたり全身が冷えるなどの不調も現れやすくなります。

首の周囲に湿布を貼ることは、炎症を抑えて痛みを抑えるという意味では有効ですが、筋肉をほぐすわけではないので、一時しのぎにしかなりません。

首こりの自覚症状があるならば、「硬くなった筋肉群が神経を取り囲んで押さえつけているんだ」という意識を持ちましょう。そうすれば、悪化する前にセルフケアの大切さを実感できるはずです。

首こりの改善法は、凝っている後頭下筋群をほぐすこと、と非常にシンプルです。

まず、その場で気持ち良さを実感できるのが「もみもみマッサージ」です。首が凝りすぎて手を挙げるのもつらい、というときは、机にひじをついて行うといい。それでもつらいときは、大きなクッションを机に置いて頭をもたせかけて行うと首にかかる重みが軽くなり、さらにほぐしやすくなります。

首の後ろの、たくさんの神経が走っているラインを上から下にほぐしていきましょう。最初は「頭と首のつなぎ目」から。後頭下筋群は骨のすぐ近く、奥の方にあるので、表面的に行うだけではほぐれません。指を奥に差しこむような気持ちで圧迫し、力を弱めずに首の内側方向へ小さな円を描くようにほぐしていきます。さらに下に移動しながら小さな円を描いていくと、ぱんぱんに張った僧帽筋もほぐすことができます。

ストレスを強く感じている人は、かみしめ癖があると思うので、かむ筋肉と連動しているこめかみもほぐします。こめかみに指を当てて歯を食いしばると、こめかみが盛り上がるのを感じるはず。この位置をゆっくりとほぐしていきます。

丁寧にほぐしてみると、意外な場所にこりこりと固まりのようなものを感じるなど、思った以上に凝っていることに気づくはずです。首の後ろがほぐれれば視界がスッキリして仕事の能率も格段に上がりますよ。

首の凝りを外側からほぐしたら、次は体の動きをつけながら深層部からほぐしましょう。

「丸まり&反らし体操」では、両手を後頭下筋群の辺りに置き、あごを引いて後頭下筋群を伸ばします。さらに背中を丸めることで僧帽筋もしっかりと伸ばす。起き上がったら、両ひじを後ろに引いて胸を開きます。これで猫背も改善していきます。この一連の動きで、後頭下筋群が奥の方からじんわりとほぐされます。

今回はほぐす対策に加えて、仕上げに筋膜ストレッチを行いましょう。筋膜とは、筋肉を覆う薄い膜のこと。猫背であごを突き出す、という悪い姿勢を常にとっていると、筋膜の一部分がねじれたりひきつれたりして、硬くなってしまいます。こうなると、いい姿勢をとろうとしても筋膜に引っ張られてなかなか難しい。実は凝りをほぐしたときこそ、筋膜を理想的な位置に正す絶好のタイミングなんです。座り姿勢における筋膜リセットに効果的なのが「腕の押し引き体操」。まずは体の軸を意識しないで両腕を前に出し、次に後ろに引いてみて。前に出したときに体がぐらぐら揺れ、後ろに引くとあごが出るようなら、筋膜が悪いバランスで固まっている証拠。ポイントは、天井から頭がつり下がっているように体の中心軸を意識すること。軸を意識し、ぶれないように注意しながら両手を前、後ろに動かすことで筋膜に「正しいつながり」を教えこみましょう。

筋膜に再学習をさせるには、軸を安定させる「Stability」と動かす「Mobility」の組み合わせが重要。ここでは最も効果的な前後運動を紹介していますが、軸さえ意識すれば、平泳ぎの動きをしてもなんでもいいんですよ。気づいたときにこまめに行い、体の軸が安定するようになれば、普段の座り姿勢がきれいになって首こりも起こりにくくなる。もちろん、二重あごもスッキリしますよね。

効果がないときは別の病気が疑われることも

今回紹介する対策は、1回行えば、首の後ろの血流が高まるため、その場で楽になります。1回で状態が良くなるのが当たり前だからこそ、「何も変わらないとき」は注意した方がいい。首の後ろをもんだり、運動をすることによって症状が悪くなったりフラフラするとき、また、常に頭にうずくような痛みがあるときは別の病気が疑われるので医師に相談しましょう。

なお、もみもみマッサージは、交通事故やスポーツによる負傷でむち打ち症になったことがある人、転倒して2~3日気持ち悪かった、という経験がある人は行ってはいけません。このような人は首を支える靱帯が緩んでしまっている可能性があります。マッサージで筋肉を緩めることによって筋肉の首を支える力が弱まり、気持ち悪くなるなどの症状が現れる恐れがあるためです。首まわりはデリケートな場所なので、取り扱いには注意してくださいね。

【今回のポイント】
こまめに後頭下筋群をほぐし、姿勢でも筋膜リセット!
 首こりは、頭痛や目のかすみ、耳鳴りなどさまざまな不調のもとになる。今は首こりしか感じないという人も悪化する前にセルフケアを始めよう。デスクワークの合間にこまめに後頭下筋群を緩め、座り姿勢を良くすることも忘れずに!
竹井仁(たけい・ひとし)
首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科教授。1966年、愛媛県生まれ。筑波大学大学院修士課程(リハビリテーション)修了。2002年、医学博士(解剖学)学位取得。理学療法士。医学的知識に基づいた筋力トレーニング、リハビリテーションを研究する。著書に『不調リセット』(ヴィレッジブックス)などがある。

(ライター 柳本操、構成/日経ヘルス 宇野麻由子)

[日経ヘルス2012年1月号の記事を基に再構成]

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