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吉祥寺の「復権」目指し、駅と街を大改造

昭和時代にひと通りの再開発を終えた東京・吉祥寺で、"再々開発"ともいえるまちづくりが始まっている。鉄道事業者が駅を大幅にリニューアル。行政はまちづくりのグランドデザインを実行に移す段階に入った。歩行者とバスが交錯しないように回遊性を高めたり、風俗街の環境浄化を図ったりといった、将来に向けた施策を進める。「安全で歩いて楽しいまち」をコンセプトに、相対的地位が低下しつつある吉祥寺の再浮上を狙う。

吉祥寺駅北口を北東から見る。赤い屋根の右側は仮設駅舎。2013年度の竣工を目指し、内部を大幅にリニューアルしている(写真:ケンプラッツ)
吉祥寺駅南口方面を南東から見る。京王電鉄が既存駅ビルを解体中だ。2014年春の竣工を目指し、新駅ビルを完成させる(写真:ケンプラッツ)

JRと京王ともに駅をリニューアル中

[上] JR吉祥寺駅の2階平面図。3カ所の改札をすべて2階に集約する ※変更の可能性あり(資料:JR東日本)

街の玄関口である吉祥寺駅では今、改修工事が真っ盛りだ。JR中央線と京王井の頭線が乗り入れており、どちらの駅も2014年春までの完成を目指している。

JR部分の工事は2009年に始まった。既に改札の外にある商業施設のリニューアルを終えている。かつて「吉祥寺ロンロン」の施設名で営業していた店舗が「アトレ吉祥寺」として生まれ変わり、テナントも一新した。

JR吉祥寺駅の1階平面図。南北を貫く自由通路を直線にする ※変更の可能性あり(資料:JR東日本)

2011年8月現在、駅の改札とコンコースが工事中だ。これまで1階と2階に分散していた改札をコンコースがある2階に集約。動線をシンプルにして、京王井の頭線との乗り換えをスムーズにする。2階のコンコースと3階のホームを結ぶエレベーターは設置済み。全体を2013年度までに完成させる予定だ。

京王部分は、2011年までにホームのリニューアルを終えた。現在、1970年に竣工した駅ビルの建て替えに取り掛かっている。

既存の駅ビルは「吉祥寺エコービル」(ターミナルエコー)として営業を始めた。後に、家賃値上げを巡ってテナントが相次いで撤退してゆき、長年「幽霊ビル」と皮肉られていた。1996年に手芸用品・ホビー材料などを販売する「ユザワヤ」が入店してにぎわいが戻ったものの、「入り口の場所が分かりにくい」「老朽化が進んでいる」などの問題点が指摘されていた。

京王電鉄は2004年にこのビルを取得。現在は取り壊しの工事中で、2014年春までに新駅ビルを完成させる。地下2階・地上10階建てで延べ床面積は8493坪になる。設計者は日建設計だ。

さらに、駅の南北を行き来するための自由通路を、JR、京王電鉄、武蔵野市の3者が協力して改修する。現状は幅が最小4mと狭くクランク状に折れ曲がっている。改修によって、幅を原則16mに広げてまっすぐにする。駅北口のサンロード商店街とほぼ直線でつながるようにして、街全体の回遊性を高める。

高架下を使った商業施設「アトレ吉祥寺」。地下1階・地上2階の3層構造だ。2009~10年の改修前は「吉祥寺ロンロン」として営業。東西に約400mと長い(ロング)ことから付いていた名称だ(写真:ケンプラッツ)
新しい京王吉祥寺駅ビルのパース。建物の左側部分に南口を整備する(資料:京王電鉄)

ついに南口に駅前広場を整備、「ぶぶか」の一角に

京王吉祥寺駅ビルの建て替えと並行して、武蔵野市が南口広場の整備を進めている。

現状の南口は、幅が狭くて広場もないなど課題が多い。改札のある2階から階段を降りると、いきなり歩道のない細い道路(パークロード)に出る。パークロードは一般車両などの通行を制限しているものの、路線バスが1日に約500本到着し、駅から丸井や井の頭恩賜公園(井の頭公園)に向かう人の流れを妨げている。

パークロードの南側に並行して、幹線道路の井の頭通りが通っている。駅に向かう路線バスがわざわざ狭いパークロードを通るのは、駅付近にバスがUターンできる場所がないからだ。パークロード経由で駅に到着したバスは、乗客を降ろした後に2回右折。井の頭通りに出て、丸井の前付近で始発客を乗せている。バス乗り場が駅から離れていているのも不便だ。

吉祥寺駅南口。階段を降りるとすぐバスが通る道路となる(写真:ケンプラッツ)
パークロード(左)と井の頭通り(右)を見る。写真左のバスが向かう先に吉祥寺駅南口がある。客を降ろした後に2回右折して、写真右の井の頭通りを手前方向に進んで客を乗せる(写真:ケンプラッツ)
丸井付近に設けてあるバスの発車場。歩道をバス停として使用している(写真:ケンプラッツ)
吉祥寺駅南口には、交通整理に当たる係員が常駐し、バスが近づくと笛を吹いて歩行者に注意を促す。駅前の風物詩だ(写真:ケンプラッツ)
吉祥寺駅南口方面の整備内容。パークエリアと呼んで、井の頭公園の雰囲気が感じられる商業空間と居住環境の調和・融合を目指す(資料:武蔵野市)

こうした問題を南口広場の整備で解消する。バスがUターンできるスペースを確保して、広場も設ける。バスは発着便とも井の頭通りを走るようにして、パークロードは歩行者優先にする。

南口広場の整備は2000年に都市計画決定しており、現在は用地買収にかかっている。井の頭公園を連想するような、木や空が望める玄関口にする。整備面積は1900m2、バスのUターンに最低限必要な面積とした。2014年度の完成を目指す。広場を整備する予定地は、寿司店「三ツ浜」や人気のラーメン店「ぶぶか」がある一角だ。

駅前広場を整備する予定地。寿司店「三ツ浜」がある一角だ(写真:ケンプラッツ)
駅前広場を整備する予定地を反対側から見る。「油そば」が人気のラーメン店「ぶぶか」がある(写真:ケンプラッツ)

井の頭公園に通じる道路を拡幅・無電柱化

駅の南口は、人気スポットの井の頭公園に近い。アクセス路の七井橋(なないばし)通りを整備する。七井橋通りの幅員を現状の4mから6~8mに広げる。電柱・電線を地中化するなど景観に配慮して、おしゃれな通りになるよう整備する。

武蔵野市では駅南口と井の頭公園に挟まれた地区を「パークエリア」と呼んでいる。七井橋通りを拡幅することで、商業空間としてのにぎわいが増すことを期待する一方、居住環境との調和にも配慮する。公園とのつながりが感じられる良好な住宅地でもあるからだ。七井橋通りから路地に入ると閑静な住宅街が広がっている。地区計画の導入などを検討する。

市有施設に武蔵野公会堂がある。1964年の竣工で老朽化が進んでおり、建て替えも含めて市有地の利活用方法を検討する。

七井橋通りの井の頭公園方面を見る。電柱や電線が街並みの美観を損ねている(写真:ケンプラッツ)
井の頭公園付近の住宅街。開発を進めるに当たっては、こうした居住環境と調和させる(写真:ケンプラッツ)
井の頭公園の井の頭池に架かる七井橋。この池が神田川の源流だ(写真:ケンプラッツ)
武蔵野公会堂。外壁の色から「パーブルホール」の愛称がある。2014年には築50年となり、建て替えなどを検討している(写真:ケンプラッツ)

ハモニカ横丁は建て替えられるか、北口は防災性に難あり

吉祥寺サンロード商店街。小型で古い店舗も多い。時間帯によっては配送のトラックも入り込む(写真:ケンプラッツ)

北口も整備を進める。古くから吉祥寺の核となってきた地区だ。

市が注力するのは安全性や快適性の向上。高度成長期に竣工した建築物が多く、耐震性が低かったりバリアフリーでなかったりといった課題がある。この地区の法定容積率は最大700%であるものの、前面道路が狭いために未消化となっているケースが多い。共同化による建て替えを促す方策を検討していく。

防災上の課題を抱える地区の一つに、人気スポット「ハーモニカ横丁(ハモニカ横丁)」がある。戦後すぐ建てられた駅前商店街で、こぢんまりとした約90の店舗から成る。エリア内を縦横に走る通路は幅員が最小1m程度で、建築基準法の要件を満たす道路には該当していない。横丁の西側では道路拡幅が都市計画決定しているものの、横丁側がセットバックしていない状態が続いている。

過去に建て替えの話が出ては消えていった。借地であることに加え、最近では店舗のオーナーが高齢でリタイヤするのを機に、第三者に貸し出すケースが増えている。時が経つほど話をまとめにくくなる構図に陥っている。

武蔵野市は行方を見守り、関係者が立ち上げることを期待する。「大阪ミナミの法善寺横丁のように、2.7m幅の通路を復活させた例がある。市としても相談に乗りたい」(都市整備部吉祥寺まちづくり事務所の大塚省人所長)

ハーモニカ横丁を南西から見たところ。低層の木造建築がひしめき合っている(写真:ケンプラッツ)
ハーモニカ横丁の入り口。写真中央の赤い小龍包店の両側が通路になっている(写真:ケンプラッツ)
ハーモニカ横丁の内部。防災上の問題を抱える一方、レトロな雰囲気を残してほしいとの声も強い(写真:ケンプラッツ)
吉祥寺駅北口の整備内容。駅に近い地域をセントラルエリアと呼び、防災性の向上やまちの雰囲気づくりを進める(資料:武蔵野市)

共同集配センター設置でトラックの進入をなくす

北口も「交通整理」が課題だ。

南口のパークロードと同様に、北口も平和通りを走る路線バスが商店街に向かう人の流れを妨げている。バスの本数は南口より多く1日700本にも上る。迂回して吉祥寺大通りを走らせるといった策が考えられるものの、東急百貨店前にバス停を設置できなくなるといった問題が出てくる。関係者が引き続き検討を続ける。

店舗などに納品・集荷するトラックが商店街に入り込んでいるのも解決すべき課題だ。納品は午前11時くらいに集中。ちょうど買い物客が増え出す時間帯だ。

そこで武蔵野市では、共同集配の仕組みを構築した。3月に商店街の北側に荷さばき用の共同集配送センターを竣工させ、物流の拠点としている。運送事業者はここにトラックを止めて荷物を台車に積み替える。台車を使って店舗に納品・集荷する仕組みだ。2006年以降、学識者や事業者からなる検討委員会で議論を深めてきた。

まず大手事業者が参加した。2~3年で他の事業者にも広げていく。

2011年3月に竣工した荷さばき用の施設「共同集配送センター」。トラックを商店街に進入させないようにする(写真:ケンプラッツ)
吉祥寺駅北口広場。バスやタクシーの乗り場も含め、将来の利用方法を検討する。現状は広場を移動可能なフラワーポッドで囲むなど、暫定的な使い方にとどめている。イベント時にはステージを設営している(写真:ケンプラッツ)

キャバクラはどうなる? 環境浄化を引き続き推進

武蔵野市がイーストエリアと呼ぶ歓楽街の、高架に面した部分。夜はネオンが輝かしい(写真:ケンプラッツ)

商業の街に付き物の歓楽街。吉祥寺では駅東側の地域が該当する。一般の飲食店に混じって風俗店が点在している。

市はこの地域をイーストエリアと呼び、長年、環境浄化を推進してきた。きっかけは1976年にストリップ劇場が進出しようとしたこと。1983年に環境浄化条例などを施行し、翌84年に一部地区を環境浄化特別推進地区に指定することで、風俗関連営業に制限を加えた。

87年には地域内に吉祥寺図書館を設置した。例えばラブホテルは、風営法では200m以内で営業できず、市条例では100m以内で新築ができない。市の施策は一定の成果をもたらした。

イーストエリアの内部。一般の飲食店に混じって風俗店が点在する。イーストエリアは高架の南側まで連なっている(写真:ケンプラッツ)
1987年に開設した市の吉祥寺図書館。環境浄化のシンボル(写真:ケンプラッツ)

今後も環境浄化に取り組む。地区内に優良な店舗を誘致するために、細分化された土地・建物の共同化を促す。そのための策を検討していく。暫定的に自転車駐輪場として利用している市有地についても、隣接地権者との共同ビル化を視野に入れる。

道路の整備も進める。地区を南北に貫く市道を6mに拡幅し、街路樹を植えるなどする。既に北側の区間は整備が進んでいる。

拡幅予定の市道。写真左のヨドバシカメラの建物で、2001年まで近鉄百貨店が営業していたことから、この地区は俗に「近鉄裏」と呼ばれていた(写真:ケンプラッツ)
市道の北側。写真中央の建物は、セコムホームライフが分譲した主にファミリー向けのマンション。仮囲い部分には、サンウッドが分譲マンションを建設中だ(写真:ケンプラッツ)
さらに北に進むと整備が終わっている(写真:ケンプラッツ)

グランドデザインを実行に移す段階に

まちづくりの指針については、有識者で構成する検討会が2007年に「吉祥寺グランドデザイン」を取りまとめ、中期の方向性や将来像を示した。今年3月には「吉祥寺グランドデザイン推進計画」を取りまとめ、いつ何を実行するか具体的な施策を示した。

吉祥寺駅付近は1969年に当時の国鉄が、隣の三鷹駅までの連続立体交差と複々線を完成させた。1974年までに伊勢丹(現・コピス吉祥寺)、東急百貨店、近鉄百貨店(後の三越・大塚家具、現・ヨドバシカメラ)、丸井などの大型商業施設が開業した。道路の拡幅などハード面の主な整備はこの時期に終えていた。

当時は商業地として多摩地区でナンバーワンの地位にあったものの、時代とともに相対的な地位低下が目立ってきた。立川や町田で開発が進んだからだ。特に立川は同じJR中央線沿いに位置することもあり、手ごわいライバルとなった。激化する都市間競争の中で、吉祥寺が魅力ある街であり続けるための施策が必要とされている。

ケンプラッツの取材に応じた武蔵野市都市整備部吉祥寺まちづくり事務所の大塚省人所長。同事務所は市役所本庁を離れ、吉祥寺の武蔵野商工会館にオフィスを構える(写真:ケンプラッツ)

武蔵野市ではここ十数年、JR中央線の三鷹駅から先の連続立体交差に関する事業に取り組んでいた。事業費を負担したほか、市西部の武蔵境駅で、駅前広場を設けたり、図書館を核とした複合施設「武蔵野プレイス」を建設したりといった都市整備に注力していた。

吉祥寺まちづくり事務所の大塚省人所長は「武蔵境駅周辺の事業はひと通り仕上がった。これからは投資を再び吉祥寺に振り向けて、まちの魅力を高めていきたい」と意気込んでいる。

(ケンプラッツ 高槻長尚)

[ケンプラッツ 2011年8月10日掲載]

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