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英国流「パズドラ」も大ヒット スマホ誘導で大手しのぐ

ジャーナリスト 新 清士

スマートフォン(スマホ)ユーザーを中心にガンホー・オンライン・エンターテイメントのパズルゲーム「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」の大ヒットが続いている。海外に目を転じると、パズドラに並ぶような勢いで大人気を集めるパズルゲームが登場した。英キング(ロンドン)の「キャンディ・クラッシュ・サーガ」だ。フェイスブック向けゲームで注目され、スマホへのユーザー誘導に成功。先行する大手ゲーム各社を抜き去った創業10年の新興企業の戦略を検証した。

コンティニュー課金方式を採用

グーグルプレイの「キャンディ・クラッシュ・サーガ」ページ

調査会社アップアニーの6月26日の発表によると、キャンディ・クラッシュ・サーガは米アップルのコンテンツ配信サービス「アップストア」で5月にダウロード数、売上高ともパズドラを抜き、全世界で初めて1位に立った。米グーグルのアンドロイド端末向けコンテンツ配信サービス「グーグルプレイ」では、売上高の1位はパズドラだが、キャンディ・クラッシュ・サーガはダウンロード数で1位、売上高では2位につけている。

キャンディ・クラッシュ・サーガは2012年11月にリリースされ、米国ではゲームソフトの各種売上高ランキングで1~2位を獲得。日本でもじわじわと人気が高まっている。

キャンディ・クラッシュ・サーガは無料でゲームを開始し、途中で課金する形式だ。大ヒットの要因はパズルゲームとしての完成度の高さに加え、日本で「コンティニュー課金」と呼ばれる方式を採用したことが大きいとみられる。

キャンディ・クラッシュ・サーガのイメージ図(キングのサイトのプレスキット画像から)

日本で一般的なカードバトルゲームの課金方式である「ガチャ」の場合、ユーザーは「無駄なカードが出て損するのではないか」という不安が大きい。これに対し、コンティニュー課金はユーザーが「ゲームを進めたい」という明確な目的をもって課金を受け入れるため、納得性が高いとされる。

キャンディ・クラッシュ・サーガは大人気ゲーム「テトリス」と同じような「落ちものパズル」と呼ばれるジャンルだ。落ちてくるキャンディを消して決められた条件をクリアする。面を進めるに従いクリアはだんだん難しくなっていくが、一気にキャンディを消せる幸運に恵まれることもある。登場するキャンディはランダムで、何回も繰り返せば課金なしで、用意されている400面すべてをクリアすることも不可能ではない。

 ただし、キャンディを動かせる回数には制限が設定されている。時間制限はなく、画面を見つめながらどの順番でキャンディを消すと最適な方法でクリアできるか、かなり悩むこともある。

キングのウェブゲームの公式ページ

なかなかクリアできないような場合、救済措置として課金を選べる。85円でキャンディを追加で5回動かせる権利を得たり、ゲームを有利に進めるための特殊なキャンディを購入したりできる。あと一手、キャンディをうまく動かせばクリアできるようにみえると、思わず課金を選んでしまう。ゲームの仕組みが明瞭である分、課金は他のソーシャルゲームより敷居が低い。ただ、課金を繰り返し選んだからといって、簡単にクリアできるというわけでもない。

遊んでいるユーザー層は25~45歳の女性が中心という点も注目される。展開がゆっくりしているパズルゲームは女性にアピールしやすく、女性は一度遊び始めると長期間にわたって遊んでくれる傾向がある。

ジンガ抜きフェイスブック向けゲームでトップに

キングは03年創業のゲーム会社だ。パソコン向けウェブブラウザーでゲームサービスを提供するポータルサイトからスタートした。現在は150タイトルのゲームをウェブで展開している。

大きく注目されるようになったのは、昨年4月にフェイスブック向けにキャンディ・クラッシュ・サーガをリリースしてからだ。それまでフェイスブック向けのゲーム市場は、世界最大のソーシャルゲーム会社の米ジンガ(サンフランシスコ)など数社による寡占状態で、新しいゲーム会社が成功する余地はないと考えられていた。

ジンガはマイクロソフトから新CEOを招いた(写真はジンガ公式ページ)

ところが、キングは後発にもかかわらずフェイスブック向け市場で急成長した。特に今年に入ってから人気はうなぎ登りだ。月に一度はキングのゲームを遊ぶユーザー数は1月に約7000万人だったが、その後急増。7月に入って約1億5000万人に達した。このうち、月に一度はキャンディ・クラッシュ・サーガを遊ぶユーザーは7月9日時点で約4500万人で、フェイスブック向けゲームでトップだ。

一方、ジンガのゲームユーザーは昨年9月に3億人を超えていたが、その後、衰退傾向が加速している。7月上旬時点でジンガのユーザーは1億4600万人にまで減少、キングに首位の座を明け渡してしまった。

米マイクロソフトのインタラクティブエンターテインメントビジネス担当プレジデントとして家庭用ゲーム機のXbox事業を4年間統括してきたドン・マトリック氏が7月1日、ジンガの最高経営責任者(CEO)になるとの電撃移籍が発表され、全世界のゲーム関係者に衝撃を与えた。業績悪化に苦しむジンガの立て直しを期待されての移籍とされる。

 キャンディ・クラッシュ・サーガがフェイスブックで成功した理由は何か。キングCEOのリカルド・ザコニ氏は昨年7月のゲーム商談会「カジュアルコネクトシアトル」の講演で、サイトで展開していたゲームのうち最も人気のあるゲームを選んで持ち込み、サイトからフェイスブックへの移行を促したことを挙げている。

ユーザーの関心は上位タイトルだけ

「カジュアルコネクトシアトル」で講演するキングのザコニCEO

また、もともとのウェブサイト版では「キャンディ・クラッシュ」という単なるパズルゲームだったが、それに簡単なストーリーを加えて「サーガ」とした。自分の友人のゲームユーザーが、どこまでゲームを進めているのかがわかるソーシャル機能を追加したことも人気を後押ししたようだ。

キングはフェイスブックのゲーム市場で成功した後、そのユーザーをスマホ版に移すことを目指した。昨年6月まずスマホ向けに1タイトル、続いて11月にキャンディ・クラッシュ・サーガをリリースした。急いでタイトル数を増やしたりせず、ゲームシステムを繰り返し改良し、クオリティーが高い状態でリリースすることを重視した。現在でも提供しているゲームは3本だ。

スマホ向けゲームの人気は、ランキング上位のゲームに集中しやすい傾向がある。大半のユーザーはアプリのダウンロードをする際に表示されるランキングを見て、最終的にダウンロードするかどうかを決めることが多いためだ。

キングの各プラットフォーム展開戦略。フェイスブックからスマホへの移行が目標と明確に記している(カジュアルコネクトシアトルの講演時の画像)

しかも、スマホの小さな画面では、すぐにチェックできるのはランキングの上位10タイトル程度。iPhoneの場合、ランキング50位までを見ようとしたら、10回以上は指で画面をスライドしなければならない。下位のタイトルは存在しないのも同然といえるだろう。

一方で、一度10位以内に入ってそれが継続できると世界的規模で人気がさらに広がっていく、というサイクルに乗ることが多い。これは家庭用ゲーム機のゲームソフトでは起こらなかった現象だ。爆発的にヒットしたパズドラの成功にも、こうした要因があることは間違いない。

つまり、スマホアプリはスタート直後にどうやって人気を獲得するのかがカギになるのだ。調査会社フィクスによると、iPhone用アプリをダウンロードして起動するユーザー1人当たりの獲得コストは約1.3ドル。昨年のクリスマスシーズンには1.67ドルにも達しており、多くの企業にとって広告宣伝費が負担になっている。しかも広告宣伝費をかけても成功するかどうかは不透明だ。

 キングの成功では、低コストでスマホのユーザーを獲得できたことが大きい。ポイントはスマホへの誘導に工夫を凝らしたことだ。

パソコンでフェイスブック版のキャンディ・クラッシュ・サーガにログインすると「スマホ版でも動作するか確認しますか」と聞いてくる。そのボタンを押すと、自分の所有するスマホ版のフェイスブックにメールが配信され、すぐにゲームをインストールできるよう誘導する仕組みになっている。ザコニ氏は「スマホユーザーの50%がフェイスブックにアクセスしている」と述べていた。

ユーザー課金率30%と高く

キャンディ・クラッシュ・サーガのフェイスブック版のゲーム画面(写真は筆者のアカウントページ)

効果的な誘導により、フェイスブック版で遊んでいた数千万人のユーザーの一部を大きな宣伝広告費をかけずにスマホ版へそのままシフトさせることに成功したわけだ。スマホ版のダウンロード数は12年12月だけで1000万となり、ランキング上位に登場した。

ジンガの場合、iPhoneやiPad向けにゲーム57タイトルを展開している。ただ、無料の広告付き版や有償の広告なし版などラインアップは混乱気味だ。フェイスブックで成功しながらスマホ版との連動がしっかりできているゲームも少ない。ジンガの苦戦は、ソーシャルゲームの主戦場がフェイスブックからスマホに移りつつあるなか、その切り替えに失敗したことも一因と考えられる。

パズルゲームで成功したキングは株式上場を視野に入れ始めたようだ。キャンディ・クラッシュ・サーガの課金率はユーザーの30%と明らかにしている。一般に10%以下といわれるソーシャルゲームの中ではかなり高い。フェイスブックよりも、少額課金決済の仕組みがしっかりできているスマホの方がユーザーの利用金額は高い。キングは売り上げについて全く明らかにしていないが急速に伸びているのは確実だろう。

ただ、11年12月に上場したジンガの株価は初値が11ドルだったが、業績悪化で現在は3ドル前後まで下落している。ゲーム業界は競争が激しく、ゲーム会社の業績は浮沈が激しいだけに、キングの上場に対して慎重な意見も多い。それでも、パズドラやキャンディ・クラッシュ・サーガに続いて、スマホ向けソーシャルゲーム市場の急成長の波にうまく乗って大ヒットするゲームは今後も登場してくるだろう。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。

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