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ベンチャー企業が試みる新型SNS、世界に挑む

ミニブログ「Arrow」じわり利用増

「Arrow」でのやりとりの例。最初のメッセージ(左)に返事が返ってくる

「寒い!暖かいところへ旅立ちたい」。スマートフォンのアプリでこんなメッセージを発信して約5分。どこかにいる誰かから「うん、うん。俺のところは軽く雪がちらついたし」と返事が返ってきた。

空に矢を放つように匿名で「つぶやき」を発信すると、世界のどこかにいる誰かに届き、その人から「返信の矢」が帰ってくる――。フェイスブックやツイッター、ミクシィとも違うこんな仕組みの新型ミニブログ「Arrow(アロー)」の利用者がじわり増えている。ベンチャー企業「Green romp(グリーンランプ)」(東京・練馬)が今春、日米でサービスを開始。9月にアンドロイドアプリ、11月にiPhoneアプリを公開したのを機に、登録ユーザー数が10万人を突破し、年内に20万人に達する勢いだ。

1つのメッセージは最大200文字で、内容は上司や取引先の愚痴から、夫婦関係の悩み、旅行先や夕食の献立の相談まで何でも良い。発信するとランダムに選んだ世界中のユーザーの誰かにすぐ届く。受け取った人は返事を打ち返すが、「専門的な質問だった」「良い言葉が見つからない」など返信が難しい時は、別の人に返信を委ねる「TaraiMawashi(たらいまわし)」機能で、回答できる人までバトンを順送りすることも可能だ。「約7割は最初の受け手が直接返信し、たらい回しされても大多数は短時間で返事が来る」(同社)という。

一連のやりとりは匿名で行うのが大前提。ユーザー登録に必要な情報はメールアドレスだけで、実名や年齢などは不要だ。逆に個人が特定されないよう、ユーザー名は他のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やメールで使っているアカウントと同じものにしないよう呼びかけている。

なぜこのような仕組みを考えたのか。「既存のSNSで感じるしがらみを気にしなくてもいい、『SNS疲れ』しないサービスを作りたかった」。グリーンランプの野田貴大社長はこう話す。

フェイスブックやミクシィなどのやりとりの主な相手は、職場やサークルの仲間、母校の同窓生ら。いわば「リアルな関係」をネット空間上に持ち込むサービスだ。場所や時間を選ばず知人とつながり、人脈を活用できる。ただ、現実世界の様々な知人がみているので、ありのままの本音を書き込みにくい側面もある。

「Arrow」のパソコン版のやりとりの画面。新着のメッセージが届いた。

一方のArrowは、完全に匿名で見ず知らずの人とやりとりするため、気兼ねなく本音を表に出せる。「現実世界を拡張し、補う便利なツールとして使うフェイスブックが『ネクタイを締めたSNS』なら、Arrowは自然体の『パジャマ姿』かな」。Arrowの開発・管理担当者はこんな表現をする。

匿名で自由につぶやくことなら、ミニブログ「ツイッター」やネット掲示板でも可能だ。だが、必ずしも反応が返ってくるわけでは無い上、フォロワーや反応の数で「人気度」が一目瞭然という側面もある。「反応してもらえる発言をしようとプレッシャーを感じる」(開発・管理担当者)。発言に対し多数の人から非難が殺到する『炎上』が起き、個人が特定されてしまうケースもある。

対するArrowは1対1の「キャッチボール形式」でやりとりをする仕組み。返事をしばらく待つことはあっても、原則として必ず返ってくる。街中に立て札を立てるような掲示板などと違い、手紙と同様に届く相手が限られるので、多くの人によって「炎上」するリスクも低いと言える。

「SNSや携帯端末の発達で、情報を得たり、人脈を生かしたりするのに便利な時代になった。でも、最初にネットに触れたときに感じた、夜の海のように見えないけど広くて自由な世界の魅力を生かすサービスが欲しいと思っていた」(野田社長)。

もちろん今後への課題は残る。匿名であることの「弱点」も考慮し、不快な発言をした人を受け手が通報し、問題がある人に警告を与える仕組みなども準備した。ふたを開けてみると暴言などはほぼ無かったものの、汚い言葉が飛び交うのを防ぐために使えない単語を設定していたため、意図しない形で一部のメッセージの送信を止めてしまう事態も発生した。今後様々な層の利用者が増えることに伴い、監視が難しくなる恐れもある。

スマートフォン向けアプリの登場を機にArrowの利用者は増加している

収益モデルも模索中だ。現在は「広告収入で運営費を何とかまかなえている状態」(同社)。利用者増加に伴うサーバー増強やさらなる開発費捻出のためにも、企業と協力してメッセージ機能を使った企画を考える必要なども出てくるだろう。

走り出して間もないArrowのサービスだが、将来に向けた目標は壮大だ。現在使える言語は日本語と英語のみで、話せる言語が同じ利用者間でやりとりするようになっている。利用者の9割超が日本語話者で、残りは米国や日本を中心とした英語話者が少しいる程度だ。これをアジアや欧州などに広く浸透させたい考え。言葉の壁を打ち破り、本当に世界中の人とやりとりできるようにするため、自動翻訳の仕組みも念頭に置いているという。

既存のサービスに飽き足らない気持ちが新サービスを生むきっかけになることは多い。グリーンランプも「今までのSNSを超える何かを作りたい」と感じていた野田社長らの仲間が集まって立ち上げた。「旅先の列車で一期一会の会話が弾むように、インターネットで北海道のおばあさんが地球の裏のアルゼンチンの若者と会話する。そんな時代をつくりたい」(野田社長)。

グリーンランプによると、現在の利用者はビジネスマンや主婦などを中心に30~40歳代のウェブサービスを使いこなしている人が中心。これを様々な年代に広げるとともに、来春以降はまず米国でのPRに力を入れるという。2012年中にユーザー数100万人を達成するのが当面の目標だ。

様々なサービスが生まれては消えていくウェブの世界。米ハーバード大の学生交流のツールとして始まったフェイスブックのようなサクセスストーリーが、日本発でも出てくるだろうか。グリーンランプをはじめとする国内ベンチャーの挑戦が試される。

(電子報道部 宮坂正太郎)

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