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ヒートアップする中国自動車メーカーのEV開発熱

中国の自動車市場は、2010年に生産量、販売量ともに世界一になった。巨大市場を狙って、世界各国の自動車メーカーが攻勢をかけているが、そこに大きく立ちはだかっているのが、近年急速に実力を付けている中国国内の民族系メーカーだ。

これら中国メーカーは、ガソリン車についてはエンジンなど基幹技術を日本や欧米メーカーに頼る状況からなかなか抜け出せない。しかし、今後伸びが期待される電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEVまたはPHV)では話が違う。中核部品である電池やモーターなどでキャッチアップできる余地が大きいと、自主開発の動きが活発になっている。2011年4月21~28日に中国・上海で開催された上海モーターショーにおいても、そうした中国メーカーのEV開発熱が会場内に満ちあふれていた。

同モーターショーには約90社の完成車メーカーが出展した。中国メーカーはこのうち約30社を占めた。このほぼすべての中国メーカーが、EV、PHEV、燃料電池車(FCV、これは2社のみ)といった新エネルギー車を出展した。しかも特徴的だったのは、多くの中国メーカーがEVやPHEVのカットモデルを展示し、構成要素である電池パックやモーター、電力制御ユニットなどの主要部品を展示し、その技術力をアピールしていたことである。

例えば、携帯電話機向けのリチウム(Li)イオン電池事業から出発し、自動車分野に参入したBYD社は、2008年に市場投入したPHEV「F3DM」のカットモデルを展示した。エンジンや電力制御ユニットを見せるだけでなく、ガソリンと電流の経路なども分りやすく示していた(図12)。

図1 BYDのPHEV「F3DM」のカットモデル前部。右が電力制御ユニット、左にガソリンエンジン
図2 BYDのPHEV「F3DM」のカットモデル中央部。ガソリンと電流の二つの経路を示している。床下にLiイオン電池を配置

さらに同社は、深セン市に50台納入したタクシー仕様のEV「e6」(図3)や、赤外線LED(発光ダイオード)と撮像素子を使った居眠り警報システムを展示し(図4)、EVの実用化で先行すると共に、周辺システムまで独自開発していることを来場者に強く印象付けていた。

図3 BYDのEV「e6」のタクシー仕様。右に見えるのが充電器
図4 BYDの居眠り警報システム。運転者の目を画像認識して、一定の時間を超えてまぶたが閉じると警告を出す

1999年に自動車生産を始めて急成長を遂げた民族系メーカーである吉利汽車は、2012年に発売する予定の小型EV「全球鷹EK」のカットモデルを展示(図5)。前部にモータ、インバータ、床下にLiイオン電池パックを搭載している様子まで示した。さらに同社は、電動バイクを収納可能なEVコンセプトカー「McCar」を展示し(図6)、技術だけでなく、新しいEVライフまで提案しよういう意気込みを感じさせた。

図5 吉利汽車のEV「全球鷹EK」
図6 吉利汽車の「McCar」。電動バイクを収納するコンセプト

電池リサイクルや新プラットフォームの展示も

電池をリサイクルする手法まで踏み込む展示を行っていたのが、長安汽車である。使用済みの電池パックを解体して、材料ごとにリサイクルするするスキームを模型を使って説明していた(図7)。

図7 長安汽車のLiイオン電池のリサイクル工程の模型

同社は、独ボッシュなどの海外企業や清華大学などと連携してEVやPHEVなどの新エネルギー車を開発し、2015年に15万台の新エネルギー車を販売する計画(長安汽車は「G-Living戦略」と呼ぶ)を掲げている。そうした開発を通じて、電池技術をはじめとするEVやPHEVのコア技術を社内に蓄積するのが狙いである。材料技術の電池リサイクルの試みは、そうした技術蓄積の一環だとみることができよう。

中国メーカーが開発した新エネルギー車向けの専用プラットフォームが展示されていたのも特徴的だった。例えば、三大国有自動車メーカーの一つである第一汽車は、EV用の新プラットフォーム「A00」を展示(図8)。日産自動車の「リーフ」のように、床下にLiイオン電池を配置する構造でである(図9)。

図8 第一汽車のEV用プラットフォーム「A00」
図9 第一汽車のEV用プラットフォーム「A00」に搭載されるLiイオン電池パック

A00のホイールベースは2400mmである。第一汽車は、ホイールベース2675mmのEV「奔騰B50EV」の生産を開始したが、これは排気量1.6Lのガソリン車「奔騰B50」をベースとしている。今回のA00ではプラットフォームをEV向けに最適化することで、より完成度を高めることを目指している。

長城汽車も、SUV(スポーツユーティリティービークル)向けに次世代PHEVの新プラットフォームを展示した(図10)。シリーズ方式(エンジンは発電のみに使い、モーターだけで走行する)のPHEVであり、3気筒エンジンで発電し、容量17.5kWhのLiイオン電池パックを積み、前後のモーターを駆動する。こうした各要素の特徴や仕様についてパネル展示し(図11)、技術レベルの高さをアピールしていた。

図10 長城汽車の次世代PHEV用プラットフォーム
図11 長城汽車の次世代PHEV用プラットフォームの説明パネル

ここまで上海モーターショーに出展された主要なEVやPHEVをざっと見てきたが、中国メーカーが開発した新エネルギー車にはいくつか共通点がある。

一つは、8~9割の新エネルギー車がリン酸鉄リチウムを正極に使ったLiイオン電池を採用していること。BYD社をはじめ、中国の電池メーカー各社がリン酸鉄リチウム系電池の開発・製造では世界でも先行していることから、自主開発路線と歩調を合わせるように中国の新エネルギー車の「標準」となりつつある。

ただし、同電池は安全性は高いものの、電圧が低いためにエネルギー密度が稼げない。こうした理由から、日本の自動車メーカーは現在のところ採用していない。今後、中国のリン酸鉄リチウム系電池を使った新エネルギー車が、国内市場だけでなくグローバル市場でも普及していくのか、注目されるところだ。

「十城千輌プロジェクト」が開発を後押し

中国メーカーが新エネルギー車の開発に力を入れている背景には、中国政府の政策がある。新エネルギー車の推進政策にはいくつかあるが、中でも効果が高いと見られているのが「十城千輌プロジェクト」だ。

これは中国25都市で2009年から2012年までの4年間にわたり、新エネルギー車の販売時に補助金を交付するというもの。ハイブリッドやクリーンディーゼル車への補助金は1台3000元だが、新エネルギー車と位置づけられるPHEVは最高5万元、EVは最高6万元、FCVは最高25万元と桁違いの補助金を支給する。

中国メーカーとしては、迫る2012年の最終年度に向けて、駆け込み需要を狙いたい。これが新エネルギー車の開発に拍車をかけているという面もある。中国のEV開発熱が補助金頼みの一過性のものなのか、中国政府の新エネルギー政策がさらに強化されて一気に普及に向うのか、今しばらく様子を見る必要があろう。

また、上海モーターショーを回って気になったのが、完成車メーカーが新エネルギー車を一生懸命アピールしようとする割には来場者には人気がなく、展示車の周辺は閑散としていたこと(図12)。一方で、欧州メーカーの高級車の周りは黒山の人だかりだった(図13)。新エネルギー車の魅力をどうアピールしていくかについては、欧米や日本でも同様の問題を抱えているが、中国市場でも今後取り組まなければならない課題である。

図12 EVの周りはひともまばら
図13 欧州ガソリン高級車の周りは黒山の人だかり

(日経BPクリーンテック研究所 藤堂安人)

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