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AKB人気は本当か 新世代の音楽チャート作れ

ネット時代に合った新しい音楽の総合人気チャート作りに米ビルボードが挑戦している。上位100曲を毎週紹介する「ホット100」を昨年12月、国内向けに一新。CD販売やネット配信、ラジオでの再生回数に加え、CDレンタルやミニブログツイッター」の動向も加味して算出するよう改めた。

現在日本では、オリコンが発表するCD販売チャートで楽曲の人気度合いを測ることが多い。その集計結果の正確さには定評があるが、ネット配信や動画投稿サイト「ユーチューブ」などの普及で消費者の音楽の聴き方が多様化。実際の人気度と必ずしも一致しないとの指摘もある。ネットの反応などにも"網をかけた"ビルボードの新チャートが根付けば、再び消費者がチャートに関心を持ち音楽と触れ合う機会が増える可能性がある。1998年をピークに落ち込みが続く国内音楽市場に活気を戻す起爆剤になるかもしれない。

CD販売ではアイドルが上位独占の不可思議

1959年から音楽チャート「ホット100」を手がける米ビルボード。同社は知名度を生かしブランドを冠したライブハウスも運営する。国内では都内と大阪の2カ所にある。

「日本の音楽ファンが好んで聞いている楽曲が何かを正確に反映した総合チャートを作りたかった」。こう語るのは、ビルボードの日本事業を担当する阪神コンテンツリンクの礒崎誠二次長だ。同社は阪神電気鉄道の子会社で、阪神タイガースの販促のほか、提携先のビルボードのブランドを冠したチャート作りやライブハウス運営を手掛けている。

オリコンが発表するCD販売チャートを眺めると、ほぼ上位を毎週アイドルが独占している。理由の一つが握手券の存在だ。ここ数年、アイドルが握手会の入場券をCDに同梱するのが常態化している。枚数が多いほどアイドルと語る時間が長くなるため、握手券目当てに何枚もCDを買うファンも少なくない。

中でも、女性アイドルグループAKB48が例年5~6月に開催する「総選挙」と呼ぶイベントでは握手券の代わりに投票券が同梱され、複数枚購入が過熱。お気に入りのアイドルの順位を押し上げようと「100枚単位は当たり前。中にはCDを1000枚買った強者もいる」(熱心なファンの一人)という。楽曲の人気度合いとCD売り上げの間の相関関係が崩れつつある。

2013年のCDシングルの年間チャート(オリコン調べ)
1位さよならクロール(AKB48)
2位恋するフォーチュンクッキー(AKB48)
3位ハート・エレキ(AKB48)
4位So long !(AKB48)
5位EXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~(EXILE)

オリコンのチャートはCDショップのPOS(販売時点情報管理)データを基に統計処理したもの。当然、握手会や総選挙などイベントの動向が色濃くランキングにも反映される。結果として2013年の年間チャートでは1位から4位までをAKB48の作品が独占。姉妹グループも含めると実に7作品がトップ10に入った。AKB48は確かに多くのファンに支持されているのは事実だが、世の中にはさまざまな音楽を楽しむファンがいる。オリコンチャートを楽曲の人気を表すバロメーターに位置付けることに違和感を感じる消費者は多いだろう。

ビルボードの試みは、いわば昔のテレビの音楽番組「ザ・ベストテン」で実施していたチャート作りを現代版にアレンジして再生させようというもの。90年代ごろまでは音楽番組がテレビで人気を集め、レコードの売り上げだけでなく消費者からの投票も受け付けるなどしてランキングを算出していた。世相を反映したものとして若者を中心に消費者の側も強く支持していた。

阪神電気鉄道の子会社阪神コンテンツリンクが、ビルボードの日本事業を担当している。2008年から音楽チャートの日本版の公開をはじめ、時代に合わせて改良を繰り返している

ビルボードは今の時代感をチャートに盛り込もうと、複数のデータを基に統計処理する手法を古くから採用している。ホット100は米国で誕生した59年当初から、レコード販売だけでなくラジオでの再生回数やジュークボックスの利用回数も加味している。各地の人口率やラジオの平均聴取率なども考慮してある計算式を導き出し、チャートを作ってきた。

ネット配信が始まればアップルのiTunesストアの販売動向を盛り込み、動画共有サイト「ユーチューブ」で音楽を楽しむ人が増えれば米グーグルから再生回数の情報提供を受けて対象に加える。最近も英スポッティファイなど定額で聴き放題のサービスが普及する現状を踏まえて計算式を作り直している。

総合的に人気度を判断すべきと考えたビルボード

「音楽は国ごとに聴くスタイルが違う。日本型の計算式を考え出す必要があった」(礒崎次長)。日本版ホット100は08年に始まったが、当初からラジオの再生回数とCD販売を組み合わせている。10年にはiTunesストアの販売動向を追加。昨年12月にCDレンタルとツイッターも対象に加え、指標を5つに増やした。「ようやく消費者の肌感覚に合うチャートになり、消費者も遠巻きながらその輪に参加している感覚で楽しんでもらえる」(礒崎次長)レベルに達したとの実感がある。

CDレンタルの指標を加えたのは、日本の音楽市場の特性を踏まえるためだ。音楽市場で世界第2位の日本では、音楽コンテンツの総売り上げの8割がCDなどのパッケージ。音楽配信は米国の60%に比べると少なく、16%にとどまる。

オリコンのCD販売チャート(3月10日~16日)
1位桜、みんなで食べた(HKT48)
2位君がいない、あの日から…(Acid Black Cherry)
3位サクラあっぱれーしょん(でんぱ組.inc)
4位With You/With Me(9nine)
5位光のシグナル(Kis-My-Ft2)
6位カリフォルニー(ケツメイシ)
7位STARTING OVER(青山☆聖ハチャメチャハイスクール)
8位前しか向かねえ(AKB48)
9位The World’s End(堀江由衣)
10位パラレル(KEYTALK)

問題はこの数字には含まれない音楽の聴き方があることだ。日本レコード協会が消費者が楽曲を入手する手段を調べたところ、CDの購入は30.7%、音楽配信のダウンロードが10.9%だった。ところが18.4%の消費者はCDレンタルを利用していた。レンタルショップから借りるのに加え、家族やこっそり知り合いから借りてパソコンで録音している消費者も少なくないとされる。貸し借りが多い楽曲は購買されなくても支持されている証左。ビルボードはこの状況を含めることにした。

後者のツイッターの加算は、日本ではラジオの力が米国などに比べて相対的に下がった状況を踏まえた工夫だ。日本レコード協会調べでは、消費者が新しい楽曲を知ったメディアの順位でラジオは5番目。一番多いのはテレビ番組で、2番がテレビCM、3番が動画共有サイトだった。ラジオでの再生回数だけでは、瞬間風速的な人気の上昇をもはや正確には把握できないとビルボードは考えた。

そこで目をつけたのが、テレビやネットを見ながらツイッター上でリアルタイムにつぶやく消費者が多い現象。音楽に関するつぶやきを分析すれば人気のある楽曲を知るヒントが得られるはず。「発売前からテレビCMや動画共有サイトでよく聴かれたり、CDシングル未発売で何かのきっかけで人気に火がついたりしたケースもきちんと追える」(礒崎次長)

新しい指標の採用に当たり、外部に協力をあおいだ。CDレンタルでは、世界最大級の楽曲・映像関連データ事業を手掛ける米グレースノートが持つデータベースを活用。「iTunes」などパソコンの音楽再生ソフトの多くがグレースノートの技術を標準搭載する。消費者がCDをパソコンにセットして録音すると、ネット経由でアルバム名や楽曲名を検索して登録するためだ。グレースノート側は検索結果をデータベースに記録しており、参照すればレンタルや貸し借りで消費者がどの楽曲をより多く録音したかが分かる。

ツイッターに関しては、NTTデータと交渉しデータ提供を受けた。NTTデータはツイッターから全投稿を収集して再販する権利を得ている。アーティスト名と楽曲名の両方を含む投稿がどれぐらいつぶやかれたかをカウントしている。楽曲名だけでないのは、「桜」など一般名詞の曲だと音楽関連のつぶやきかどうか判定できないためだ。

ロックバンドと初音ミクのコラボ、実は2位だった

こうして生まれたビルボードのチャートの一例をみてほしい。3月10~16日の週間ランキングで上位10曲をオリコンのチャートと比べると、1位は女性アイドルグループHKT48の「桜、みんなで食べた」は変わらない。ただ、11位以下だった楽曲がいくつかランクインしている。人気ロックバンドBUMP OF CHICKENの「ray」が2位に、女性シンガーソングライターRihwaの「春風」が6位だった。逆にオリコンでは8位だったAKB48「前しか向かねぇ」などが10位以下にダウンした。

rayはロックバンドが仮想アイドル「初音ミク」とデュエットした異色の楽曲で、最新CG(コンピューターグラフィックス)を駆使した幻想的なプロモーションビデオがネット上で大いに話題になっている。ツイッターの投稿数は1位で、HKT48の3倍以上もつぶやかれた。BUMP OF CHICKENと初音ミクのファンの双方で人気が出たことから、iTunesの販売も1位とよく売れた。Rihwaも似た傾向だ。7位の赤い公園や9位のwacciのように、ラジオの再生回数で"稼ぎ"それがツイッターでも話題になって消費者の耳によく届いた楽曲もある。

洋楽は日本では下火で売れない――。音楽業界の関係者の間でよくささやかれる話だが、その常識もいい意味で裏切られている。大ヒット中のディズニー映画「アナと雪の女王」の主題歌である「レット・イット・ゴー」(イディナ・メンゼル)が11位に、男性グループでザ・ビートルズの再来とも称される英国出身のワン・ダイレクションの「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」も20位。2曲ともCDシングルは発売されていないにもかかわらずだ。

ビルボードの総合チャート「ホット100」(3月10日~16日)
順位(オリコンの順位)曲名(アーティスト名)ラジオ順位CD販売順位ネット配信順位レンタル順位ツイッター順位
1位(1位)桜、みんなで食べた(HKT48)96位1位20位2位2位
2位(10位以下)ray(BUMP OF CHICKEN)3位1位1位
3位(2位)君がいない、あの日から…(Acid Black Cherry)181位3位14位10位7位
4位(3位)サクラあっぱれーしょん(でんぱ組.inc)74位2位11位9位
5位(6位)カリフォルニー(ケツメイシ)4位6位7位29位29位
6位(10位以下)春風(Rihwa)33位18位2位4位5位
7位(10位以下)絶対的な関係(赤い公園)2位20位27位52位11位
8位(5位)光のシグナル(Kis-My-Ft2)50位5位3位4位
9位(10位以下)東京(wacci)1位155位199位59位
10位(4位)With You/With Me(9nine)26位4位59位79位13位

集計期間の3月10~16日はアナと雪の女王が劇場公開された週であり、ワン・ダイレクションもNTTドコモがテレビCMを大量投下し注目度が急上昇したタイミング。多くの消費者が1度は耳にしたであろう楽曲が上位に来ており、CD販売ランキングだけでは説明がつかない人気の様子が見て取れる。

指標別にチャートを並べ替えてみても興味深い。CDレンタルだけのチャートでは、ポップスグループSEKAI NO OWARIが昨年5月にリリースした「RPG」が24位(総合は97位)。総合182位だった女性ダンスグループE-Girlsの「ごめんなさいのKissing You」も昨年10月の発売ながら33位となった。レンタルではロングヒットも少なくないわけだ。

RPGは11年にメジャーデビューしたSEKAI NO OWARIの代表曲。ただ旧譜のため、現在はCDショップの店頭を眺めると目立たない場所に置かれている。ところが「セカオワ(グループの通称)の存在を親友から教えてもらい、CDを借りたら大好きになった」(都内在住の高校生のファン)というケースが少なくない。口コミで人気の裾野が広がり、スマートフォン(スマホ)で毎日聴こうとパソコンでCDを録音するファンが次々と現れている実態がチャートから読み取れる。

EXILEの妹分として11年にデビューしたE-Girlsは、歌って踊れてかわいいと同世代である女子中高生の間で熱狂的な人気がある。礒崎次長は「彼女たちをまねしてカラオケで歌って踊りたいファンが多いのではないか」と推測する。実際カラオケ店「ジョイサウンド」を運営するエクシング(名古屋市)によると、3月に店内で歌われた曲のランキングで同曲は14位。CDは買わないが、レンタルとカラオケで夢中になって音楽を楽しんでいる若者の姿が、チャートからも裏付けられたといえよう。

次はワールドチャートを作りたい

ホット100はビルボードのウェブサイトで誰でも無料でみられる。将来的にはレコード会社向けに有料サービスも始めたい考え。600位までのランキングを公開し、指標別に分析できる機能などを検討している

ビルボードは現状に満足していない。礒崎次長は「さらに正確に世相を反映すべく精度を高めたい」と将来展望を明かす。アップル以外のネット配信事業者にアプローチし、売り上げデータを供給してもらえないか交渉を進めたい考えだ。ユーチューブの再生回数など、米国で対応済みの指標についても国内のデータが入手できないか、グーグルなどに打診していく。米国ではリアルタイムで人気チャートを更新する試みのため、米ツイッターと提携している。

「最終的なゴールはワールドチャートの創出。その前に『環太平洋版ホット100』を数年後に作りたい」(礒崎次長)。ビルボードはカナダなどでも音楽チャートを集計しており、各国のデータを合算すれば原理的には国境を越えたランキングが作り出せる。

海外の大物タレントと同じ土俵で勝負できるワールドチャートができれば、日本人アーティストが海外を意識した創作活動を始める契機になるはず。今回のビルボードの取り組みでは、アイドルブームの中でもファンの支持を再確認でき大いに勇気づけられた歌手やバンドも多いはず。ランキングには力があるわけで、2020年に控える東京五輪に向けて、言語の壁で守られ「鎖国」状態だとの声も上がる日本の音楽市場の姿そのものが数年後にがらりと変わってもなんら不思議ではない。

(電子報道部 高田学也)

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