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スマートシティ成功のカギは「全体的アプローチ」

 スマートシティを構築するための新たなアプローチが注目を集め始めた。成功の要素は「スマートメーター」や「スマートグリッド」に加え、「全体的アプローチ」や新サービスが大きなカギになってきた。スマートシティのあり方を議論する国際会議「Smart City Week 2012」(2012年10月29日から11月2日、パシフィコ横浜)を通じ、新たな都市構築ビジネスの方向性が明らかになってきた。

「スマートシティを構築するには、全体的アプローチが必要だ。簡単ではないが、この方向性は明らかだ」――。世界各地のスマートシティプロジェクトで存在感を示すスイスの多国籍企業ABB。同社でスマートグリッド(次世代電力網)の責任者を務めるJochen Kreusel氏は、こう力を込めて講演した。

「全体的アプローチ」は、英語で「Holistic Approach(ホリスティックアプローチ)」もしくは、「Integrated Approach(インテグレイテドアプローチ)」と表現される。日本語では、全体的、総体的、統合的というニュアンスを持っている。

ホリスティックアプローチという用語は、最近、医療や看護、健康、教育などの分野でよく使われている。人間存在を身体、感情、思考など多次元に捉えるとともに、自己、他者、共同体、社会、国家など全体的な視点で調和を目指すアプローチを指す。

スマートシティの構築も、スマートグリッドというエネルギー技術だけでなく、運輸や通信、廃棄物などの社会インフラに加え、人の意識や行動、法規制の変革までを含めた全体最適を目指すことが必要と、Jochen Kreusel氏は強調する。

具体例として、スウェーデンのストックホルムにおけるロイヤルシーポートプロジェクトを挙げ、「スマートメーターを導入しただけでは大きな変化はなかった。重要なのは、人の意識を変えるにはどんな情報が必要かだ」と、反省も込めて述べた。

新たな都市サービスの開発が不可欠

英インペリアルカレッジ・ビジネススクール副校長のDavid Gann氏も、同様の問題意識を表明した(図1)。「都市の問題は、交通、健康、エネルギー、食糧など、行政や企業の別を問わず、縦割りの組織でサービスを構想していること。さまざまな要素の融合によってインフラ間の相互作用を促すことが必要」と強調。その有力な手段として、「センサーネットワークとICT(情報通信技術)によって分野横断で膨大な情報を集め、新たな都市サービスを開発しないかぎり、スマートシティは実現しない」と述べた。

新たな都市サービスの一例が、パリで始まった電気自動車(EV)による乗り捨て型カーシェアリング「オートリブ」である。既に約2000台のEVを約700ステーションで運用している。管理センターは、EVの充電状況や位置情報をICTによって常に監視する。

現在、会員数は4万人近くに増えている。この調子で利用者が増えれば、3年程度で黒字化も可能という。事業を請け負った仏ボロレのDidier Marginedesチェアマンアドバイザーは、「世界の他の大都市にも、クルマを共有する生活スタイルは根付くはず。オートリブのシステムを展開したい」と意気込む。オートリブは、交通とICTの融合がライフスタイルを変える好例だ。

日本でも全体的アプローチがスタート

これまで日本で「スマートシティ」というと、スマートグリッドに代表されるエネルギーインフラとICTの融合というイメージが強かった。しかし、海外では、電力だけでなく、熱供給、交通、上下水道、廃棄物などをさまざまな社会インフラ、そして、高齢化対策や教育や医療、ライフスタイルを含めた人の意識、行動にまで、スマートシティの構成要素が広がりつつある。日本でもようやく、こうした認識が広がってきた(図2)。

内閣府が推進する環境未来都市がその典型だ。内閣官房の猪熊純子 地域活性化統合事務局次長は、「IT(情報技術)を使った社会インフラのスマート化は不可欠。先行するエネルギーに続き、交通や健康、見守りなどの分野でもスマート化が進む」との見方を示した。

経済産業省が4地域(横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、北九州市)で進める次世代エネルギー・社会システム実証プロジェクトでも、電力システムに加え、地域熱の利用やコージェネレーヨン(熱電併給)システム、EV,、プラグインハイブリッド(PHV)の活用など次世代モビリティなど、広がりを持ち始めていた。

自治体の関係者によるパネルディスカッションでは、その具体事例が示された(図3)。例えば愛知県豊田市は、「当市のプロジェクトの特徴は、モビリティの変革を軸にしている」と強調した。小型EVを使ったカーシェアリングを市内で展開しつつ、クルマや公共機関など交通に関するデータを集め、最適に管理するプロジェクトを紹介した。

そして、将来的には交通情報管理システム(TDMS)とエネルギー情報管理システム(EDMS)を統合して最適に管理する構想を示した。エネルギー、交通、気象など、地域のさまざまな情報を収集・分析して、地域全体として最適な対応を割り出し、サービスとして提供する。それは、市民の住み方、移動の仕方に意識変革をもたらすと期待する。日本でも全体的アプローチを志向する動きが出てきた。

5つのメッセージを採択

国際会議[注]の閉幕に当たり、ステアリングコミッティは、「Smart City Week 2012メッセージ『スマートシティを成功させる5の要素』」を採択した。メッセージは「スマートシティを成功させる5つの要素」からなる。

具体的には、(1)魅力的なコンセプト、(2)市民本位のインフラ、(3)新しいサービスの創造、(4)持続可能な運営、(5)日本の経験をアジアへ、世界へ――である。昨年のスマートシティ宣言に盛り込まれたアイデアの方法論を示したものだ。

今回、特に強調されたのが、「新しいサービスの創造」だ。ステアリングコミティを代表してメッセージを読み上げた日経BPクリーンテック研究所の望月洋介所長は、「新サービスの創造とは、民間や公共、業種や業態にとらわれず、社会と市場のニーズに対応するサービスを生み出すこと」と、その真意を解説した。これは、全体的アプローチの効用面を表現したものである。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

[注]「Smart City Week 2012」は5日間の会期中、展示会入場者とコンファレンス受講者を合わせた来場者は約40カ国から2万2000人を超えた。国際会議と専門セミナーを合わせたコンファレンス受講者数は6982人と、昨年の5514人を大きく上回った。2013年の「Smart City Week 2013」は、10月21日から10月25日、横浜市のパシフィコ横浜で開催される予定

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