「中の人」交代に潜むツイッター企業活用のリスク
ブロガー 藤代 裕之
ミニブログ「Twitter(ツイッター)」の利用で成功した企業例としてしばしば取り上げられるテーブルマーク(旧加ト吉)。同社の人気アカウントの運用が2010年末でストップする。「当初の目的を達成した」とツイッターで理由を説明しているが、運用担当者が退職することから「退職に伴うものでは」との声もある。ソーシャルメディアでのコミュニケーションは「人」が前面に出るだけに「中の人」と呼ばれる担当者が重要だが、それだけに担当者の交代がリスクになり得ることを理解しておく必要がある。

テーブルマークのツイッターアカウントは、以前の社名を使った「うどんのカトキチ(@KATOKICHIcoltd)」と、現社名の「テーブルマーク(@TableMark)」がある。うどんのカトキチは、「おそれいりこだし」「ありカトキチ」など担当者が飛ばすダジャレに人気が集まり、メディアへの露出が増えて関連書籍も発売された。フォロワーは約3万人に達している。一方、テーブルマークのフォロワーは10分の1の約3000人にとどまる。「テーブルマーク ツイッター」とネットで検索しても、うどんのカトキチが上位に表示される状況だ。
社名をテーブルマークに変更したなどの事情があっても、ソーシャルメディアは日々のコミュニケーションの積み重ねが資産となっていくだけに、別アカウントへの移行が難しい。人気アカウントを停止することに対しては、「企業とユーザーのコミュニケーションとして継続したほうがいい」「担当者個人が有名になっただけだ」といった指摘もある。アカウント停止の本当の理由はわからないが、できれば避けたかったのではないだろうか。
謝罪、中止に発展した例も
これはテーブルマークに限った問題ではない。ソーシャルメディアを使ったコミュニケーションが増えれば増えるほど、企業アカウントの位置づけや「中の人」の選び方が重要になっていく。

オウケイウェイヴが運営するハウツー共有サイトのアカウント「OKGuide(@OKGuide)」は11月下旬、関係の薄いツイートに「OKGuideもよろしく」といった一方的な返信をし、一部のネットユーザーから指摘を受けた。@OKGuideのプロフィル欄には、インターンの大学生が担当していると書かれていた。結局、オウケイウェイヴは12月になり、企業の公式アカウントである「OKWave(@okwave)」で、@OKGuideのアカウント運用を停止・処分すると謝罪した。
フォロワーから様々な要望や依頼が飛び込んでくる企業アカウントを担当するのは簡単ではない。自社の商品・サービス内容や課題、他社との比較、ネットでの評判など多くの知識が必要だ。ソーシャルメディアによるコミュニケーションは、企業が消費者と直接やり取りする「最前線」であり、ちょっとした対応ミスがイメージダウンにつながる可能性もある。企業アカウントであってもコミュニケーションの一貫性が必要で、「中の人」を選ぶことも代えることも簡単ではない。
リスクを運用で工夫する

日本の企業は社員を定期的に人事異動させることが多く、担当者の入れ替えはいずれ起きる。それを踏まえて、運用で工夫している企業もある。
例えば、NTTの「NTT広報室(@NTTPR)」やNHKの「NHK広報局(@NHKPR)」などは、「中の人」のキャラクターがはっきりしていて、「お硬い」企業にもかかわらず人気が高い。NTTは担当者を男性社員の「リーマン」と女性社員の「大手町OL」と複数にしており、それぞれの「人となり」まで見えるほどだ。
複数担当制は、企業としての対応に一貫性を持たせるために担当者同士がコミュニケーションを密にする必要がある。ただ、担当者の病気やけが、転退職といった事態にも対応しやすく、ノウハウの共有が進む利点もある。
今後は人気がある企業アカウントの「中の人」を引き抜くといった事例も出てくるかもしれない。「中の人」を育成するにも、定期異動を前提にするのか、専門職として処遇するのか、企業の規模やソーシャルメディアへの期待度によって取り組み方は違っていきそうだ。
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。