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インターネットの「自由」はどこまで守られるのか

米ネット大手 規約変更の意味

ITジャーナリスト 小池良次

2月1日、米フェイスブックは上場時の時価総額が約7兆円ともいわれる新規株式公開(IPO)を申請した。同社の上場が成功すれば、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は、既存のインターネット世界とは違う新しいサービスとして広く認知されるだろう。その一方で、既存のインターネットは大きな方向修正を求められている。米ツイッターや米グーグルで相次ぐ規約変更を見ながら、曲がり角に来たインターネットの「自由」とネットビジネスを考えてみたい。

大論争を呼んだツイッターの「国別規制」

1月26日、言語や地域を問わず広く書き込みを公開してきたツイッターは、その原則を変更し「国別のブロック規制を導入する」と発表した。

今回の国別ブロックにより、クレームを受けた書き込みについてはその国のユーザーが閲覧できないようになる。同社は、歴史的な背景からナチズムを賛美する書き込みに対して拒絶感を持つ欧州の事例などを紹介し、ブロック導入に理解を求めている。

これに対し「現実的で仕方がない対応だ」とする賛成派と「表現の自由を国境によって阻害する行為」という批判派が米国の世論を二分した。両者の主張は、ここ数年議論が繰り返されている「ウェブ危機説」を再燃させた。

インターネットの価値は「自由な情報公開と流通にある」と言われてきたが、ウェブ危機説はその原則が、SNSや携帯電話向けアプリケーションなどで阻害されているという考え方だ。

多くのネット系識者が、この原則を支持している。なかでも、ブラウザーの発明者で"ウェブの父"として知られているティム・バーナーズ・リー氏は「ウェブによる情報の公開と制限のない流通は、技術革新による社会の繁栄と自由を守るために不可欠だ」とまで主張している。

ツイッターの「国別ブロック」は、まさにインターネットが原則としてきたオープンモデルのあり方を問い直している。賛成派は該当国以外では自由に情報が流通することを重視し「表現の自由を最大限に確保しようとしている」と評価する。一方、反対派は「ツイッターは中国進出などを意識して、表現の自由を意図的に制限した」と非難している。

 興味深いのは、両者が同じオープンモデルの原則を論拠に賛否を論じている点だ。しかし、ウェブ危機説の観点から言えば、ツイッターによるブロック問題はそれほど大きな影響を与えないだろう。逆に、冒頭で触れたフェイスブックの大型上場こそ、こうしたオープンモデルを根本から問い直す大きな出来事といえる。

オープンモデルを否定して成長したフェイスブック

インターネットの「どんな情報も公開され、誰でも利用できる」という原則は、広告やサブスクリプション・モデル(ソフトの課金型販売)と結びついてネットビジネスを支えてきた。その頂点に立つのが、検索連動広告サービスで独占的な位置にいるグーグルだ。「グーグルの検索になければ、インターネットに存在しない」という言葉に象徴されるほど、数年前までその影響力は巨大だった。

この言葉をあっさり葬ったのが、フェイスブックだ。フェイスブックのコンテンツはグーグルの検索にはヒットしない。

フェイスブックには、毎日15億~20億件の投稿が飛び交い、月間の利用者数は8億5000万人を超え9億人に近づいている。全世界にいるネットユーザーの半分以上が同社のサービスを使っており、そのトラフィックはグーグルを優に追い越している。フェイスブックは、巨大なコンテンツを抱えながら、グーグルに左右されないビジネスを展開している。

この独立性は、フェイスブックがインターネットを支えてきたオープンモデルを基本から否定しているためだ。フェイスブックに代表されるSNSは、情報公開やリンクを原則とする既存ネットサービスとは違う。その意味で「ポスト・インターネットの世界であり、インターネットとは別の存在」と考えるべきだ。

オープンモデルというインターネットにおける最大の長所は、同時に最大の短所でもあった。

すべてを公開するインターネットは、プライバシー情報を安全に取り扱うことができない。ユーザーは電子メールではスパムの弊害に悩まされ、ウェブでは煩雑なプライバシー規定に疲弊している。ログイン名とパスワードの管理に追われ身動きがとれなくなったユーザーも増え続けている。こうした課題に、情報公開を原則とするインターネットは有効な解決策を提供できなかった。

一方、情報流通の制限を基本にしたフェイスブックは、初めてこうした課題に答え、個人情報を取り扱えるビジネスモデルを提供した。既存のホームページにも、それぞれ個人情報の保護規定がある。しかし、実際に利用する数百、数千というホームページのそれぞれで、規定を常に監視することは不可能だ。

もちろん、フェイスブックに書き込んだ個人情報が「安全」とはいえない。しかしユーザーはフェイスブックのプライバシーポリシーだけを監視すればよく、その負担は大きく軽減される。

グーグルのポリシー一本化が引き起こす混乱

1月24日、グーグルはプライバシーポリシーの一本化を柱とする個人情報保護規定の変更を発表した。同社は検索サービスから電子メールやオンラインのドキュメントソフトなど60種類を超えるサービスを提供している。それぞれにプライバシーポリシーがあってサービス連携が円滑にできないため、3月1日からポリシーを統一する。

この規定変更には、多くの批判が集まった。米国のメディアは「サービス統合による利便性の向上」よりも「ユーザーの行動が赤裸々になること」への懸念を表明した。連邦議会の下院議員は、米連邦取引委員会(FTC)に対してポリシー変更の合法性を諮問した。これは2010年にFTCが個人情報保護でグーグルを捜査し「ポリシーの強化」で和解したため、その和解規定に今回の変更が抵触しないかを懸念している。

ウェブ危機説の観点から考えても、今回のポリシー統合は混乱をもたらすと予想される。具体的には、グーグルが11年に始めたSNS「Google+」とのサービス連携だ。

既に述べたように、グーグルのサービスは情報公開を原則とするオープンモデルを基本にしてきた。例えば携帯アプリのロケーションサービスは、あくまで携帯アプリ上での利用を想定している。しかし、ポリシーが一本化され流用が可能になれば、将来SNSのアプリケーション開発者もこの情報に容易にアクセスできるようになる。

フェイスブックなどのSNSは「投稿」という行為によって公開情報もプライベート情報として取り扱われる。ところがグーグルのポリシー一本化は、そうしたユーザーの認識過程を経ないため、ユーザーの混乱を引き起こすことになりかねない。

グーグルが、強い地位にあるインターネットビジネスをてこに、SNSでもフェイスブックを追撃したい気持ちは良く分かる。しかし、安易なポリシーの一本化は問題を複雑化させ、ユーザーの混乱を招くだろう。

AOLから米ヤフー、そしてグーグルへと進んできたネットビジネスの覇権争いは、フェイスブックの上場により新たな局面を迎える。7兆円という桁外れの新規上場ではあるが、インターネットとは違う世界を切り開いた功労者と考えれば、同社の時価総額は安いかもしれない。

グーグルがポスト・インターネット時代にも生き残れるのか。あるいはフェイスブックという新勢力が頂点に立つのか。個人情報を安全で自由にやり取りできる新たなネットサービスを狙って、いま頂上決戦が始まろうとしている。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)など。

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