中外製薬、多様な人材確保
~人事担当者インタビュー(1)
――12年の採用予定人数は。
中外製薬の富樫守・人事部長
「12年春の全体の採用は130人前後で、各部門の採用数・比率とも11年とほとんど変わらない予定だ。大きく分けて4分野で採用しており、営業部門の医薬情報担当者(MR)は85人程度、研究者は20人程度、臨床開発部門は15人、安全性保証部門は10人を採用する計画だ」
――製薬業界は研究開発の効率が落ちてきたといわれるが、研究職の採用方針は。
「最近注目が集まっているバイオ分野と、従来主流だった低分子分野でそれぞれバランス良く採用していきたいと考えている。過去の技術と思われている低分子系の技術でも、抗体と組み合わせて使うなどバイオ技術との『ハイブリッド医薬品』などは有望な分野だと思っている」
「将来どの技術が実用化につながるかは予想がほとんど不可能なため、できるだけ多様な研究分野の人材を採用したい。高い専門性や独自技術が必要なら中途採用で対応できる。当社の基盤が弱い中枢神経系や糖尿病関連の研究者の採用にも力を入れたい」
臨床開発、人手足らず 海外での研究機会増える
――製薬業界で特に人材の引き合いが強い分野はあるか。
「新薬の安全性と有効性を検証する臨床試験を進める臨床開発分野だ。各社の業績を支えてきた大型薬の特許が相次ぎ切れ、後続薬が出てこない『2010年問題』の影響だ。後発薬にシェアを奪われないよう、各社とも大型薬の形を飲みやすくしたり、他の薬と配合したものを開発したりして市場を守る戦略を採っている」
「1つの薬を他の病気にも使えるようにする事例や他社から製品を買ってきて臨床試験するといった事例が増えている。規制当局との細かなやりとりや臨床データの解析など専門性が高い職種だけに人手が足りない状況が続いている」
――選考の仕方や選考の際に重視する点は。

「書類審査やグループワークなどで選考しており、特に変わったことはしていない。粘り強さや誠実さなど人格的な面を重視している。薬というのは副作用を伴うこともある難しい商品だ。問題が発生した場合の対応などには倫理観や誠実さが求められる」
「当社は業界でもおっとりした社風といわれる。だが、09年春からは業界トップを目指すとの目標を掲げている。年功序列の要素を薄め、優秀な若手の登用を増やしたい」
――入社後の教育体制は。
「外資系企業なので社内で使う言葉はいずれ英語になるのかといった問い合わせが増えているが、今のところその予定はない。英語が必要な部署で必要となる社員が必要な語学力を持てば十分だと思っている。ただ、当社の親会社であるスイスのロシュとのやりとりの中で、会議や書類作成で英語を使う機会は増えている」
「社員の語学力への意識はロシュの傘下に入ってからは高まっている。語学研修制度もあり、語学学校に行く場合は半額の補助が出る。特に英語を使わない部署でも対象となる。日本の若者は海外に出る意欲が弱くなったといわれるが、ロシュのグループ会社になってから、海外に出るチャンスを求めて当社の門をたたく学生は増えている」
――ロシュとの人材交流は。
「ロシュとのグループ内の人事交流を活発化させている。海外で研究するチャンスもますます増えるだろう。人材の多様化が目下の課題で、海外出身の人材や女性らの割合は職場の中で増えていくはずだ。異なる技術系列にある海外出身研究者との交流が刺激になり、技術革新のきっかけになることを期待している」
「ただ、何もしないままでは組織の多様性は進まない。今後は国内の大学と提携し、一定数の外国人留学生の研究者らを毎年紹介してもらうような仕組みを導入していきたい」
(聞き手は兼松雄一郎)
[日経産業新聞2010年11月16日付の記事を再構成しました]