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変わる日本の起業家支援、ソーシャルで世界進出も容易

ブロガー 藤代 裕之

ソーシャルメディアやスマートフォン(高機能携帯電話)の世界的な普及などでネットサービスの開発環境が大きく変わり、起業家向けの事業支援が国内でも活発になってきた。クラウドコンピューティングによってサーバーを安価に利用できるほか、英語でサービスを開発すればソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「ツイッター」「フェイスブック」が持つ億単位のユーザーに簡単にアピールできるなど、世界市場を容易にターゲットにできるためだ。

こうしたソーシャルメディアと連動させたサービスは数人でも開発でき、ヒットすれば急激にユーザーを増やせるだけに事業支援会社にも魅力がある。米シリコンバレーで起業を意味する「スタートアップ」といった用語も飛び交い、まさしくシリコンバレー流の起業環境が国内で整備されつつある。

ベンチャー支援会社が国内でも続々

シリコンバレーでは、Y Combinator(Yコンビネーター)や500 Startupsといった、立ち上げたばかり(アーリーステージ)の企業支援に特化したベンチャーキャピタルが注目を集めている。初期のベンチャーや個人にまずは少額を投資するほか、オフィス環境の提供や著名企業家によるアドバイスなどの育成も行う。その代わりに数%から十数%の株を受け取るという仕組みだ。500 Startupsの場合、「インキュベーションオフィス」と呼ぶ施設などを3カ月間も提供されるが、事業内容のプレゼンテーションで認められなければ次には進めない。支援を受けるだけの厳しい競争がある。

Open Network Labの「Demo Day」ではチームごとに事業アイデアをプレゼンテーションする

日本でも2008年設立のサムライインキュベート(東京都品川区)や09年からスタートアップを支援しているサイバーエージェント・ベンチャーズ(東京都渋谷区)、11年9月に法人化したOpen Network Lab(オープンネットワークラボ:ONL、東京都渋谷区)など、支援会社が次々と立ち上がっている。

このほか、98年にネットエイジ(現在ngi group)を立ち上げたり「Bit Valley構想」を提唱したりした西川潔氏も、今年からスタートアップを支援する会社として新たにネットエイジを立ち上げ、「スタートアップファクトリー」として支援し始めた。西川氏はミクシィを上場させるなど日本のネットベンチャーの中心人物として知られる。KDDIは11年5月に「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」と呼ぶ支援プログラムを発表している。

支援プログラムの中には、米国のそれに似ているケースもある。たとえばKDDI∞Laboの場合、同社の六本木にあるオフィスで3カ月間、支援を受けながら開発できる。東京のオフィス費用は高いので、立ち上がったばかりの企業には負担減になるし、ネットワーク環境も整備されているので便利だ。また、専門家からアドバイスを受けられることも大きなメリットで、アドバイザーとしてKDDI社内だけでなく、SNS企業のグリーや位置情報サービスのコロプラ、AR(拡張現実)ソフトの「セカイカメラ」で知られる頓智ドットの役員らが並ぶ。ベータ版の開発までは定期的に指導してもらえるし、開発後はKDDIのアプリ販売サイト「au one Market」も活用できる。

企業だけでなく省庁関係者も強い関心

Demo Dayではプレゼンした各チームのブースを設け、参加者と交流できるようにしている

 10月21日に開催された、ONLの「Demo Day」を見学してみた。会場にはスーツ姿の参加者が多く、ベンチャーキャピタルや一般企業の担当者、省庁関係者もいた。

ツイッターのほかにもSNSの「リンクトイン」の日本語化を展開するデジタルガレージ傘下のONLは、世界に通じるネットサービスを開発できるエンジニアなどの育成を目指している。開発の場所や設備、国内外の著名な起業家、ベンチャーキャピタリストとの人脈を提供されるのは他社の支援プログラムと同様だが、デジタルガレージ取締役で米MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏をはじめ、米ツイッターやネットサービスの米エバーノートを立ち上げたメンバーもいるなど、グローバルマーケットを意識して指導している。

Demo Dayでは、3カ月の育成機関で考えたサービスやアイデアを7チームが発表していた。既に億単位で投資を受けているチーム、米国などで事業拡大しようとしているチームもあった。多くが20代で著名な大学・大学院を出たり企業を辞めたりして参加している人だった。

プレゼンに対して審査員からの投票が行われた結果、「ゴミ拾い」について情報を共有・発信して「世界をきれいにする」というSNSの「PIRIKA (ピリカ)」が大賞に選ばれた。その後、懇親会があり、会場の後ろにはプレゼンした各チームのブースが設けられた。ここで参加者と名刺交換したり事業について説明したりして、スムーズに人脈のネットワークを作れるように工夫している。

優秀な人材をいかに早く見つけるかがカギ

スタートアップ支援の取り組みは、いまや大学生・大学院生向けにも広がっている。

学生エンジニアを中心とした2カ月間のサービスやアプリケーションの開発キャンプ「ブレイクスルーキャンプ」や、ベンチャーキャピタルで多くのネット経営者が集まるカンファレンスを開催するインフィニティ・ベンチャー・パートナーズ(東京都世田谷区)は、最前線で活躍する経営者によるディスカッションのイベントを大学生・大学院生を対象に参加費無料で提供している。起業家にとってはありがたいイベントだが、支援会社からすれば起業家マインドを持った優秀な学生を早く見つけるための施策ともいえる。人材獲得が勝負になるだけに、既に争奪戦が激しくなっている。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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