2019年8月19日(月)

日米外交60年の瞬間 第3部

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「事件」だった朝鮮戦争 サンフランシスコへ(22)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2012/1/14 7:00
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トルーマン米大統領がソ連にメッセージを送ったのは、当然ながら計算の結果だった。米側が停戦交渉を軍事的問題だけを話し合う場と考えていたのに対し、ソ連はそれに同意する姿勢を表面ではとりつつも、政治問題も取り上げる意向とみられていたからだ。

微笑作戦といえば、冷戦時代のソ連がしばしば使った手である。が、トルーマンの対ソメッセージも、微笑作戦だった。

■二正面作戦迫られた新聞

1951年7月10日付の日経社説は、これを扱うために1本通しで解説している。見出しは「停戦会談の開始と朝鮮事件の解決」だった。

現代の読者は違和感があるだろう。いまは朝鮮戦争と呼ばれる事態は当時、「事件」と呼ばれていたのである。書かれているのはソ連に対する強い警戒感である。

社説だけではない。1面に社説の2倍もある大きさの「国際情勢展望」と題するコラムがある。筆者は「長汀百里」とある。見出しは「停戦の後にくるもの」「今度は政治的侵略?」「ソ連 反共陣営の強化阻止狙う」とやはりソ連に対する警戒感にあふれている。

「朝鮮事件」と同様、いまになるとわかりにくいのが、「停戦」と「休戦」である。停戦のうえで休戦協定を結ぶための交渉をするのが10日から始まる会談である。これをどう呼ぶのか。

停戦したうえでの交渉だから「停戦交渉」ではある。だが休戦を目指す交渉だから「休戦交渉」でもあった。当時の新聞の表記も乱れている。

確実なのは停戦より休戦の方が、期間が長いとされている点であり、これはいまの日本語でも例えば「停学」より「休学」は期間が長いニュアンスがあるのを考えればわかりやすい。

朝鮮での交渉には日本人記者、カメラマン18人の取材が認められた。日経は外報部次長の木原健男記者を派遣した。いまの新聞ではあり得ないが、当時の日経は木原記者の顔写真入りで記者派遣をニュースとして扱い、1面で報じた。

海外駐在記者が特派員と呼ばれた時代である。海外取材は、それほどまでに特別なことだった。日経だけでなく、当時の日本の新聞界では、どの社も似たり寄ったりだった。それは1970年代初めまで続いた。

木原記者ら日本人取材団の現地入りは11日であり、交渉初日の取材はできていない。初日のニュースはUPIが伝えた。UPI電の共同通信訳は、この時点で会談の名称を「休戦予備会議」とした。

■APが対日講和条約最終草案を入手

UPI電によれば、国連軍側が交渉をしている地域に幅16キロの中立回廊地帯を設置するよう要求し、共産側はこれを拒否した。長い交渉の始まりである。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

当時の新聞を見ていると外交担当記者たちはさぞ忙しかったように思える。本来は朝鮮での交渉の始まりを1面トップに据えるべき7月11日付朝刊は、AP通信ワシントン支局のモリス・ハリス記者が入手した対日講和条約の「最終草案」が飾っている。前文、第1章平和、第2章領土……と条文を掲げている。

対日講和条約の内容や条文をめぐる報道はこれまでもなされており、既視感もあるのだが、日本の新聞はこれを小さく扱うわけにはいかなかったのだろう。見出しを拾えば、内容がわかる。

「対日講和条約の全容 極東委各国へ回付の最終草案」「賠償より技術提供」「戦前条約の復活可能」「撤兵条項を明記」「中国参加の途も考慮」「琉球・小笠原米が信託」「千島・樺太の領有権放棄」などたくさんの見出しが躍っている。

確認されていない報道ベースの文書について社説で論評することは、いまはほとんどないが、講和を待つ当時の日本にとり、このAP電は、米政府の公式発表に近い意味を持ったのだろう。日経はまたも1本ものの社説を書いた。結果的にその判断は正しかった。

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