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日本人が一度手放した穀物が蘇生、「麦ご飯」人気のワケ

日経BPヒット総研 西沢邦浩

 エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、5人のヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。いまを象徴するキーワードから、話題の理由、面白いワケなど、「ひみつ」を明らかにします。今回のヒットワードは【穀物】。あの穀物に世界が注目し、日本での売れ行きも拡大しているのです。

「糖質制限」「炭水化物抜き」といった食事法が人気を集める一方で、まさに炭水化物である大麦が売れている。

市場調査のインテージの調べによると、スーパーや量販店における大麦(精麦)の市場規模は、2011年4月~2012年3月の2011年度に比べ、2012年度は20.3%増、2013年度は2012年度比27.5%増と大きく伸び、23億円を超えた模様。

伸び悩む発芽玄米や、ここ2年は6~7%の安定した伸びを示すミックス雑穀といった健康志向の穀物に大きく水を開ける伸長ぶりだ。

世界が評価する食物繊維源としての大麦

大麦市場拡大の理由の一つは、大麦に含まれる食物繊維とその健康効果にある。

そもそも白米100グラムに含まれる食物繊維量はたったの0.5グラムなのに対し、大麦は9.6グラムと約20倍近い食物繊維を含む(「日本食品標準成分表2010」より)。

さらに、その質にも特記すべき特徴がある。

食物繊維は大きく、水に溶ける「水溶性繊維」と溶けにくい「不溶性繊維」の2つに分けられるが、米の繊維の多くが不溶性であるのに対し、大麦は3分の2近くが水溶性。食物繊維源といえば名前が上がる野菜のほとんどに多いのも不溶性繊維で、水溶性繊維を多く含む日常的な食材自体が限られているのだ。

そして今、水溶性繊維はその機能性で注目を集めている。便のかさを増し、便通改善を促すのが主な機能である不溶性繊維に対し、水溶性繊維は腸の中にいる乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる善玉菌が好物の餌であり、腸を介して全身の健康に深く関わっていることが次々と解明されてきたからだ。

実際に、大麦に含まれる水溶性繊維のβ-グルカンは、日本を除く、米国や欧州、オーストラリアなどの先進国で「食後の血糖値上昇を抑える」「心疾患のリスクが減る」「コレステロール値が低下」といった、機能性表示が許されている。

世界が認める大麦パワー
効果有効なβ-グルカンの量認めている国
食後の血糖値の上昇を抑える1食中の糖質30グラム当たり4グラム以上欧州(EFSA※1)
正常な腸機能の維持 大麦由来の食物繊維として1日25~30グラム 韓国
排便促進効果  1日3グラム以上欧州(EFSA)
心疾患のリスクが減る 1日3グラム以上※2 米国、カナダ、欧州(EFSA)
コレステロール値が低下1日3グラム(1グラム×3回)以上オーストラリア、ニュージーラント

※1 欧州食品安全機関のこと。 ※2 米国とカナダは1日3グラム(0.75グラム×4回) 以上

1960年にはしっかり食べていた大麦、現代の"新商品"で蘇生

実は、日本人は1960年には国民一人当たり年間約8.1キログラムの大麦を食べていたが、この50年で消費量は40分の1近くまで落ち込んでいた(農林水産省「平成23年度食料需給表」より)。

パサパサして白米に交ぜたときの食感が良くないことが大きい。白米に比べると、日本で食用に作付けされてきた「うるち」という種類の大麦は炊き上がった直後も冷めた後も白米の2倍以上硬い。その昔、白米不足の中で「麦ご飯」を食べていた年長者に大麦嫌いが多いのもそのためと考えられる。

しかし、おいしい大麦、もちもちした食感を持つ「もち麦」が出回るようになって市場が動き始めた。

これが、もう一つの大麦市場拡大の理由だ。

白米同様、大麦にも「うるち」と「もち」の2種類がある。日本では、寒冷地型のもち麦が育ちにくいため、主にうるち麦が栽培されてきた。硬い食感のうるち麦を少しでも食べやすくしようと、押しつぶした押麦や白米のような形状に精麦した米粒麦に加工されて店頭に並んできたが、大麦消費量は回復しなかった。

そんな中、2012年春あたりから、米国やカナダといった寒冷地で作られているもち麦がスーパーなどの店頭に並び出した。

もち麦の硬さは白米とほとんど変わらない。そのため、うるち麦を交ぜた麦ご飯とは違い、「おいしく食べられて健康実感が得られる」という声が消費者から上がり始めたのだ。現在は、炊飯用として「もち麦ごはん」(はくばく)、レトルトタイプの「大麦生活」(大塚製薬)、冷凍食品として「もち麦炊き込みごはん」(ニチレイ)といった商品が市販されている。

~手軽にもち麦が摂れる商品~

[左]もち麦を50%使用したレトルトタイプの麦ご飯。1食分150グラムに食物繊維が4.5グラム(うちβ-グルカンが3グラム)。209kcal、200円(税別)。大塚製薬 [右]冷めてもモチモチ感が続くもち性の大麦。100グラムに水溶性食物繊維が9.0グラム、不溶性食物繊維が3.9グラム。720グラム(60グラム×12袋)、430円(税別)。はくばく

話題の糖質制限で検討されるべきリスク

「糖質制限」「炭水化物抜き」が人気を博す理由として挙げられるのは、効率的に体重が減ることや血糖値を上げる糖質自体の摂取量を抑えるため、糖尿病患者が血糖値管理を行いやすいことなど。

しかし、このような食事法を実行しているにもかかわらず、糖質と炭水化物の違いがよく分かっていない向きも多いようだ。

炭水化物=糖質+食物繊維。そして糖質は、吸収がよく血糖値を上げやすい、砂糖、ブドウ糖といった糖類やでんぷん、消化吸収されにくく水溶性食物繊維と同様に腸内の善玉菌の餌になるオリゴ糖などで構成される。

つまり、炭水化物を抜くということは、食物繊維類の摂取量も激減するおそれがあるということにほかならない。1955年と現在を比較してみても、摂取量が減っているのは穀物からとる食物繊維量なのだ。

~食物繊維不足の原因は穀物からの摂取量減~

日本人の成人が1日に摂取する食物繊維量は、1955年には20グラムを超えていたが、今では14グラム程度に減少。特に穀物からの摂取が減っている

炭水化物摂取量を極端に減らしたときに腸の健康は確保されるのか、大腸がんのような疾患が起こるリスクは高まらないのかなど、長期的な研究をもとにした安全性エビデンスの取得が望まれる。

私たちがとるべき炭水化物とは?

確かに甘いジュースや菓子などに含まれる"糖類"は控えたほうがいいだろう。摂取量が多いほど心血管死のリスクが高くなるという大規模調査が2014年4月に報告されている(JAMA Intern Med.;Apr 1,174(4),516-24,2014)。世界保健機関(WHO)も2014年3月に、「肥満などの疾病予防のため、砂糖は1日25グラム(ティースプーン6杯程度)に」という指針を発表した。

残念ながら白米や精白した小麦を使ったパンなども食物繊維をほとんど含まないため、食後血糖値が上がりやすい食材だ。

精製した穀物を多く摂る人は体脂肪が増えやすい(Am.J.Clin.Nutr.;92,5,1165-71,2010)、血糖値が上がりやすい食事をする人で糖尿病発症リスクが高い(Metabolism;61,1,47-55,2012)といった研究もあるので気をつけるに越したことはなさそうだ。

しかし、白米にヒエやアワといった食物繊維の多い穀物を交ぜたり、玄米に替えたり、パンだったら、全粒小麦を原料に使用するなどすれば血糖上昇は緩やかになる。ただ、これらの穀物類に多く含まれるのはやはり不溶性の食物繊維だ。

そこでついに、私たちの健康維持に欠かせない食物繊維摂取量を増やしながら、特に摂りにくい水溶性繊維がしっかりとれる身近な穀物として、"忘れられた穀物"大麦に脚光が当たり始めたというわけだ。

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白米が不足していた時代に、日本人が"やむにやまれず"食べていた「麦ご飯」がいかに健康的な主食だったかが科学的に解明された時、すでに私たちはこの食材をほぼ手放していた。

しかし、もち麦という"新素材"を発見した企業の商品開発努力により、"奇跡の食材"は新たに心血を注がれ、日本に健康的な食卓を取り戻しつつある。

また、農水省も日本で育成できるもち麦の開発に力を入れているので、いずれ国産のもち麦も食べられるようになるだろう。

関心を持たれた方は、現在発売中の「日経ヘルス」6月号の記事、「老化の進行を抑え、糖尿病のリスクを下げる"穀物繊維"のチカラ」を読まれたい。

西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員・日経BP社コンシューマ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見をもとに、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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