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ネットで暴露被害 難しすぎるプライバシー防衛

ブロガー 藤代 裕之

2013年はネットでの炎上が相次いだ。炎上すると批判的なコメントが寄せられるだけでなく、プライバシーが暴かれ、その痕跡がネットに残り、リアルの生活にも影響する。ネットは気軽に情報発信できる場ではなくなりつつある。個人をどう守るのか、事業者も含めて具体的な対応策を構築すべき段階にきている。鍵は被害を大きくする過度な「情報統合」を防ぐことだ。

ネットで拡大する「私刑」

情報統合で、ネットでの発言はまとめられ、個人が特定されることもある

大学生によるテーマパークやコンビニエンスストア、飲食店での迷惑行為、あるいは復興庁など省庁職員による発言が問題になるなどツイッターを舞台にした「炎上」が昨年は相次いで起きた。炎上の原因をネットを使う際のリテラシー欠如に求める意見があるが、学生や社員への教育を徹底すれば防げるものではない。

まず、失言や暴言の範囲はあらかじめ定義されているわけではない。誰かが問題だと思えば批判を受けることもあり得る。いくら慎重に言葉を選んでいても、何が問題になるか発信した時点では分からない。発信したことを忘れているという人も多いだろう。だが、アーカイブに蓄積された過去の発言に言いがかりをつけて「燃やす」こともできる。炎上は、攻撃はたやすいが、守るのは難しい。

炎上を正義感による行為とみれば違った側面が見えてくる。炎上する際によくあるパターンが、当事者以外からの「そのような行為は問題ではないか」という批判だ。問題を起こした人が法で裁かれる前に、人々がそれぞれの正義を振りかざしてネット上で制裁する状況を、筆者は2008年に「私刑化」と呼んだ。あるタレントをネット上で殺人犯扱いした人たちは、警察の取り調べに対して、「許せない」という正義感からそのタレントを犯人と信じ込んで批判したことが分かった。

しかし、自ら正しいと考えている事象については相対化することが難しく、冷静さも欠くため、適切に対応することは難しい。そこで、何らかの制度的な対応が求められることになる。

手間がかかりすぎる被害回復

炎上は単一のメディアでは起きない。ツイッターが発火点だとしても、NAVERまとめ、ツイッターでの発言をまとめるtogetter、まとめブログなどに一度集約されて多くの人が見るようになる。ネットニュースサイトが素早く記事化することもある。集約された情報が、さらにツイッターやフェイスブックで拡散する。このように複数のメディアが使われ、展開のスピードは速い。誤った情報であっても一度拡散してしまえば修正は難しい。

拡散過程で多数のユーザーが関わることになり、炎上の当事者は無数のネットユーザーを相手にしなければならなくなる。一方で燃やす側は、一人一人の関与が薄いため責任感も乏しい。集約された情報をリツイートしたり、シェアしたりすることも炎上に加担していると言えるが、当事者意識はさらに薄くなる。

復興庁職員のツイッターでの発言はtogetterにまとめられている

情報が複数メディアに拡散することは被害回復にも大きなハードルとなる。削除要請した場合はプロバイダ責任制限法に沿って、削除が進められる。しかし、悪意を持っている場合は通知した瞬間に海外サイトなどに情報をコピーするという手段も使える。下手をすればいたちごっこになる。対応にかかる手続き、時間を考えれば、泣き寝入りせざるを得ないという人も出る。実質的には機能不全で、完全に削除することは難しい。

複数メディアによる拡散の過程は、燃やす側の当事者意識を薄くし、被害回復も難しくするという構造的な問題を抱える。忘れられる権利なども検討されているが、表現の自由とのかねあいで線引きが難しく、実現までには時間がかかりそうだ。

情報統合こそが問題

より深刻なのは、炎上に付随するプライバシー暴きだ。氏名や所属する大学・企業、自宅住所や写真までネットに公開されてしまうことは大きな問題だ。間違った情報が個人に紐(ひも)付けられて拡散し、就職や転職に影響する事例もある。

匿名のアカウントでも、ネットに存在する情報を統合することで個人を特定することができる。多くの場合は、フェイスブックやミクシィといった個人情報が多く書き込まれているソーシャルメディアと、ツイッターアカウントが照合されるが、ツイッターの書き込みを分析すれば住んでいるエリアや働いている業界が推測でき、そこから絞り込むこともできる。復興庁職員が被災者らに不適切な発言をしていたケースでは情報公開請求により公務と照合が行われた。他にも、過去の新聞記事、企業のリクルートページに掲載されていた先輩からのコメントや大学の研究室にある名簿などからも情報が集められる。

この情報統合こそが問題なのだ。何らかの歯止めをかけることは検討されてもいいだろう。具体案としては、別々のサイトやサービスに存在している個人の情報を本人の許可なく統合することの禁止が考えられる。これにより発言への批判とプライバシー暴きがリンクすることを避けられる。ブログやまとめサイトの運営者は、情報統合に手を貸し、プライバシー暴きでページビューを稼ぎ、利益を得ている側面もある。発言者に安心を提供できる取り組みが必要だ。

知らぬ間に進むデータ化

人や物のデータ化も一層進む。ソーシャルメディアの投稿だけなく、会員カードによる買い物履歴、血圧や心拍数といったバイタルデータ、年金や医療のデータ化も進んでいる。顔認証を使った店頭での行動分析も進むだろう。グーグルグラスのようなウェアラブルコンピューターや、首からぶら下げて自動的に一定間隔で撮影するカメラの登場により、知らない間に撮影されてしまう可能性は高まっている。

クローズドなサービスだからといってデータが守られる訳ではない。米国で人気のサービス「Snapchat」から460万人分のデータが流出したが、このようなデータ流出は様々なサイトやサービスで起きている。情報流出もあってはならないことだが止められない。

あらゆる行動のデータ化や流出、第三者への不用意なデータ提供で、ユーザーが公表されたくないセンシティブなデータがソーシャルアカウントと統合されてしまう危険もある。そして、本人も知らない間に利用されてしまい、不利益を被る可能性すらある。情報統合は、データの流出やビッグデータの分析にも関係している。

昨年、東日本旅客鉄道によるスイカ履歴の販売問題で「勝手に売るな」「気持ち悪い」といった批判の声が上がった。確かに人々は自らソーシャルメディアに限らず大量の情報をさまざまな企業に自ら登録しているが、よくわからない使われ方は望んでいない。

個人情報の流出問題はこれまで、どこまでが個人情報か、あるいは、いかに安全にデータを管理するかという視点で議論されてきた。人々は情報を投稿し、データは流出する。個人情報の流出は止めることができない。そこで、情報統合に歯止めをかけることで、勝手に自分の情報が使われてしまうという問題は避けられる。むろん他にも方法はあるだろう。大事なのは、一度ネットで情報が広がれば終わりという状況を変え、安心して利用できる環境を作っていくことだ。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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