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次の競争軸はエネルギー、「湾岸の顔」超高層マンション

五輪で変わる東京(5)

 2020年東京五輪の開催が決まり、都市の大改造が加速し始めた。東京は今後どんな姿に変貌するのか――。日経BP社が発行した「東京大改造マップ2020」では、東京23区内で計画されている大規模開発や交通インフラなどの情報を網羅的に収集。「東京の未来地図」を作成した。連載「五輪で変わる東京」の第5回では、湾岸シフトが進む東京のマンション市況の今後を、日経アーキテクチュアの独自調査や専門家の分析などを基に予測した。

図1は、東京23区内で2014年以降に完成する延べ面積1万平方メートル以上のマンション(複合施設を含む)の建設地を示したものだ。棒グラフの色は事業者を、高さは延べ面積を示す。この図を基に、今後住宅地として開発が進むエリアと、事業者の動向を占ってみよう。

大手の寡占化が鮮明に

延べ面積1万平方メートル以上のマンション計画は計149件で、その延べ面積の合計は522万平方メートル。事業者(複数社の場合は、標識設置届で先頭に記載されている会社)ごとの延べ面積を計算すると、522万平方メートルのうち大手デベロッパー6社が279万平方メートルを供給する(図2)。10万平方メートルを超える大規模プロジェクトを持つ三井不動産(90万平方メートル)や住友不動産(86万平方メートル)が上位に立った。

マンション市場では、事業者数が年々減少し、寡占化が進んでいる。不動産経済研究所の調査によれば、首都圏でマンションを手掛けるデベロッパーの数は、1990年代のピーク時で約500社あった。当時の民間分譲マンションの供給量は年間8万~9万戸で推移していた。

その後、2008年のリーマン・ショックで新興系デベロッパーが次々と倒産、撤退。2012年には、マンションを手掛けるデベロッパーが150社まで減った。一方、2012年の供給量は約4万6000戸。供給量の下げ率に比べ、デベロッパー数の下げ率のほうが大きい。それに伴って、大手の割合が大きくなっている。

不動産経済研究所の福田秋生取締役は、この傾向が今後も続くとみる。「大手と組んでマンション開発を手掛ける中堅デベロッパーが増えた。日本銀行の金融緩和によって資金が大手に流れ、その資金で新たな土地を仕込みやすくなった面もある」とその理由を語る。

住宅市場に詳しい東京カンテイの井出武主任研究員は、大手の価格帯も変化しているとみる。「リーマン・ショック前なら、大京やダイア建設といったマンション専業のデベロッパーが手掛けていた比較的安い価格帯も、今は大手が売り出している。大手の価格帯が下に伸びた印象だ」

超高層の割合は20%と史上最高

図1からは、各社のプロジェクトの規模と注目エリアもうかがえる。大規模マンションの計画は、23区内でも、品川区、港区、中央区などの都心部に集中しており、延べ面積が数万平方メートルの大規模物件が目立つ。その多くが20階建て、30階建てクラスの超高層マンションだ。

こうした傾向は既に竣工したマンションにも見られる。長谷工総合研究所の調査によれば、首都圏で2013年に供給されたマンションにおける超高層(同調査では地上20階建て以上と定義)の戸数割合は、調査史上最高の20.9%。5戸に1戸は超高層物件という計算だ。都内で超高層マンションの建設が相次いだ2005年、2006年を割合で上回った(図3)。

長谷工総研の酒造豊取締役は、「都心の再開発が増加していることが主因だ」と分析する。「2000年代半ばは、郊外に500~1000戸を中密度で開発するプロジェクトが多かったが、徐々に減ってきた。今は『大規模=超高層』になっている。今後も超高層マンションの割合は20%前後で推移するのではないか」と言う。

時計回りで開発進み「次は湾岸」

東京カンテイの井出主任研究員は、開発の歴史を振り返り、「時計回り」の法則について解説する。

図4の地図3点は、東京カンテイが竣工時期別にマンションをプロットしたものだ。東京五輪の選手村予定地である中央区晴海から、半径8キロメートル以内の物件を対象としている。

住宅開発エリアの変遷を見てみよう。1982年以前に竣工した物件では、港区と渋谷区など都心部に供給が集中。1983年~2002年では都心部の供給は減り、開発用地を求めるように台東区などの城東エリアへシフト。2003年以降はそのシフトがより鮮明になった。時計の針が進むように、供給エリアが移動している。

「針は今後も進み、次のターゲットは晴海や豊洲、有明などの湾岸部になる。開発用地が多く、マンション供給が増加するのは間違いない。判明しているだけでも、勝どき以南の湾岸部で1万戸の供給が予定されている」と井出主任研究員は話す。図1を見ても分かるように、1万平方メートル以上のマンション開発は湾岸部に集中している。

湾岸部は、築地市場から機能が移転する豊洲新市場や五輪選手村、競技施設など注目プロジェクトが目白押しだ(図5)。2016年3月に開通予定の環状2号線や、晴海と銀座を結ぶバス輸送高速システム(BRT)、新交通システム「ゆりかもめ」や東京メトロ有楽町線の延伸など、構想・計画中の交通インフラが複数ある。

売りは「安全+α」

技術面で注目を集めるマンションも多い。豊洲地区に建設が進む「スカイズタワー&ガーデン」はその1つだ(図6B)。このプロジェクトは、デベロッパー大手6社が売り主に顔をそろえたことでも話題を呼んでいる。

平面形状がY字状の「トライスター形」の超高層で、総戸数は1110戸。2014年8月下旬の竣工を予定している。

施工者の清水建設は、積層ゴムによる免震構造とダンパーによる制振構造とを組み合わせた「ハイブリッド免制震システム」を初めて採用した。

ほかにも、住友不動産が「超高層マンションの集大成」(住宅分譲事業本部の青木斗益副本部長)と位置付ける「ドゥ・トゥール」(地上52階建て、1450戸)(図6E)や、事業者の鹿島が設計・施工を担当する「勝どきザ・タワー」(地上53階建て、1420戸)(図6D)などは、安全性を前面に押し出している。ドゥ・トゥールは免震構造を採用、ザ・タワーはダブルチューブ架構とオイルダンパーを併用する形式を初採用した。

安全を強調する傾向は、2011年3月の東日本大震災以降、湾岸部に限らず超高層マンション全体で顕著だ。長谷工総研の酒造取締役は「2011年~2012年は、震災の影響で超高層に対する不安が生じ、供給時期を先送りした物件もあった。事業者が積極的に安全を説明することで、エンドユーザーの理解はある程度得られたのではないか」と話す。

安全に対する認識が浸透したところで、今後のマンションの「売り」は別の部分に移りそうだ。不動産経済研究所の福田取締役は、「省エネや蓄エネ、創エネに取り組むデベロッパーが大幅に増えた。エネルギーの『見える化』がトレンドだ。この動きは今後も広がっていくだろう」とみる。

五輪後に供給過多の可能性も

不動産経済研究所によれば、1都3県の2013年のマンション供給戸数は、前年比22.8%増の5万6000戸の見込み。増加要因として、アベノミクスによる経済効果と、価格上昇前の駆け込みを挙げた。

同社の調べでは、2013年(1月~11月)の東京都区部の販売単価は、前年比6.6%増の85.4万円/平方メートルだった(図7)。福田取締役は「2013年に高額物件が竣工したためで、全体的に上がっているわけではない」としたうえで、「湾岸部では地価は上がる。労務費高騰によって建築コストは全国的に上昇しており、今後は販売価格が上がっていくだろう」と続ける。

不動産市場に詳しいみずほ証券の石澤卓志チーフ不動産アナリストは、「上昇率は東京東側の下町エリアのほうが大きいだろう。東京の不動産価格は西高東低だが、交通インフラの整備などで東西の差は縮まるはずだ」と話す(図8)。

湾岸部を中心に、五輪開幕までマンションの価格が上がり続けることを複数の専門家が予想する。では、五輪後はどうか。選手村は五輪後に住宅地になることが決まっている。最低でも数千戸規模となる見込みだ。

「計画通りに交通インフラが整備されるのか。選手村はどんなスケジュールで販売されるのか。売り方によっては供給過多になる可能性は十分あり、場合によっては価格暴落も起こり得る」と不動産経済研究所の福田取締役は指摘する。

湾岸部は住宅地としては発展途上。交通インフラの整備計画、地価や労務費の上昇など、マンション市況に影響を与える要因がいくつもある。企画・設計段階で、これらの動向を読み解き、五輪後を見据える必要がある。計画者の力量がこれまで以上に問われる時代になるだろう。

(日経アーキテクチュア 島津翔)

[日経BPムック『東京大改造マップ2020』の記事を基に再構成]

[参考]日経BP社は2014年2月3日、「東京大改造マップ2020」を発行した。東京五輪決定で活気付く都市改造の最新動向を、日経アーキテクチュア、日経コンストラクション、日経不動産マーケット情報、日経ビジネスの各雑誌の記者が取材。建設・建築にとどまらない"東京改造"の影響を、詳細な地図を交えて分かりやすく解説。東京で暮らす都市生活者、東京で働くビジネスパーソンはもちろん、「ビル」や「鉄道」、「地図」や「街歩き」に興味を持つ人も楽しめる。

東京大改造マップ2020 (日経BPムック)

編集:日経アーキテクチュア
出版:日経BP社
価格:1,050円(税込み)

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