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回らない・安くない…回転ずし、都心攻略で「変身」

「105円均一」でデフレの波をとらえた低価格回転ずしの成長に陰りが生じている。大手3社の国内店舗数が1000を超え、主要立地の郊外で競合が激化、既存店売上高が前年割れし始めた。原材料価格上昇も収益を圧迫する。各社は空白地帯の都心部に活路を求める。そこで挑む新事業モデルは「回らず」「安からず」。従来の強みをかなぐり捨て、再成長を模索する。

元気寿司 高速レーンのみ、商品ロス「ゼロ」

10月下旬の午後8時、JR渋谷駅近くの繁華街にある「魚べい 渋谷道玄坂店」は全90席の大半が学生や仕事帰りの会社員で埋まった。元気寿司が7月に開いた都心1号店。回転ずしチェーンなのに、おなじみの回転レーンが見当たらない。

店内にあるのは、注文を受けた皿を直接客席に届ける3段重ねの高速レーンのみ。郊外の出店余地が狭まるなか、同社はこの店舗モデルで新規立地の都心に攻め込む。

注文したすしが届くまでの時間は原則1分以内。シャリ玉を自動的に皿に盛りつける最新鋭のすしロボットも導入した。「商品の鮮度ではどの店にも負けない」(小柳明地区マネジャー)

最近、回転ずしでは出来上がりから時間がたったレーン上の皿を敬遠する客が増えている。従来の魚べいでは、回転レーンに併設した高速レーンでの売上高が全体の約7割と3年前より30ポイント高まっている。

元来、回転ずし業態は売上高に占める商品・食材の廃棄ロス比率が平均6%前後と、外食業界でも高い水準にある。元気寿司は5%前後に抑えているが、原材料価格の上昇を受け「合理化に一段と取り組む必要に迫られていた」(佐伯崇司社長)。出店コストの高い都心部ならなおさらだ。

直線型の高速レーン3列のみが並ぶ渋谷の店は商品ロスが実質ゼロ。厨房のすし作りはロボット2台が主にこなす。レジと注文用タッチパネルを連動させたため料金計算は皿を数える必要がなく、廃棄の手間もかからないので、ピーク時の従業員数は約15人と従来より5人減った。

回転レーンをなくし、高速レーンのみにした「魚べい 渋谷道玄坂店」(東京都渋谷区)

同社が都心部での展開を目指すのは同タイプの小型店。カウンター席のみの渋谷の店は客の滞在時間が約30分と従来店より3割短い。回転率が高いため、通常より3割狭い約250平方メートルの面積で、105円均一を維持しつつ採算がとれている。「牛丼店と同サイズ(約170平方メートル)でもいける」(佐伯社長)。出店費用も低く、機動的な出店が可能とみる。

一見「高速レーンずし」はいいことずくめだ。実際、業界の頭痛のタネである原材料費と人件費の上昇を克服できるとあって「今後の主流になるかもしれない」という声が業界に広がる。ただし不安材料もある。

すしは外食業界の中でも昼食と夕食の間の集客力が低い。賃料の高い都心部では、この「アイドルタイム」が重くのしかかる。同社は渋谷の店でパフェなどデザートを導入し、カフェ需要取り込みをもくろむ。だが、ファストフードや喫茶店が集積する都心部では、この分野の競合が激しい。

客を視覚で楽しませる回転レーンを取り払ってまで挑む都心で、新モデル店はスタート時の好調を維持し続けられるか。同業他社の関心は高い。

スシロー 「189円」導入、ぜいたく感でシニア狙う

「毎月厳選5ネタ! 1皿189円」。高級ネタを使ったすしの横にこんな文字の入った写真が、回転レーンの上に掲げられている。業界最大手、あきんどスシロー(大阪府吹田市)が7月下旬に改装開業した「スシロー 高槻唐崎店」(大阪府高槻市)。都心部攻略モデルの1号店だ。

改装開業後、189円の商品を販売する「スシロー 高槻唐崎店」(大阪府高槻市)

1995年以来、同社が料金体系を変えるのは事実上初めてとなる。人気メニューの「長崎県産 連子鯛昆布〆」は刺し身を日高昆布で挟み1~2晩寝かせる手間のかかる一品。これら高価格品は約90種類あるネタのごく一部とはいえ、デフレ基調のなかでの導入に同業他社は驚きを示した。

同社は国内で2012~20年度に年30~35店の新規出店を計画。20年度に総店舗数を現在の約2倍の約600店に増やす考えだ。だが、主力立地である郊外ロードサイドは今や同業他社がひしめく。手薄だった都心部開拓は必須だ。出店・運営コストの高いこの新規立地で採算を確保するため、同社は高価格品導入による客単価引き上げという戦術を選択した。

豊崎賢一社長には勝算もあった。業界では00年前後から親子3世代の利用が浸透し、シニア層も増加。今では来店客の約3割を60代以上が占める。この層は若い家族客に比べ、少しぜいたく感のある商品を要望する傾向がみられる。

実際、フタを開けてみると10月の売れ筋トップ10に189円が3品入った。「狙い通りにシニアを獲得している」(豊崎社長)。客単価も改装前より50円上昇。客数も5%増え、店舗売上高は約10%伸びた。

新モデルは「都心部を中心に順次広げる」(吉川尚樹執行役員開発部長)方針。もっとも、数多い低価格チェーンとの比較にさらされる都心部で189円の神通力がどこまで威力を発揮できるか、客単価50円アップ程度で高コストを吸収しきれるかは未知数だ。

そもそも200円を下回る「189円」は、従来の「安い」店舗イメージを守るギリギリの値付けだった。高価格品の種類も「これ以上増やさない」と、豊崎社長はさらなる単価アップの手立ては今のところ考えていない。都心での採算を安定させるには、主要顧客と想定される会社員ら、来店客数の上積みが必要となる。

くらコーポ ラーメン導入、他業態から顧客を奪取

ゆっくり回るすしを、別のレーンに載った丼が追い越していく。くらコーポレーションの「無添くら寿司」が今夏約20店に試験導入した、サイドメニューも運べる高速レーンだ。同社はすし以外のサイドメニューを40品目そろえる。売上高に占める割合は10%台半ば。天ぷらなどのおかずのほか主食のうどんもある。

うどんなどの商品を流せる高速レーンを導入した「無添くら寿司 加賀屋店」(大阪市)

さらに同社は11月、主食メニューにラーメンを追加する。カツオやサバ、イワシなど7種類の魚介類からダシを取った特製スープのしょうゆ味で367円。これをバネに3年後には、すし以外の売上高比率を3割に高める方針を打ち出す。

ラーメン発売に合わせて開発したのが新型高速レーン。ベルトなどを改良し、容器の中身がこぼれないよう滑らかに減速する。先行導入店では麺類の販売が従来比20%高まった。新レーンは数年以内に全国約300店の大半に設ける計画だ。

鮮度管理が厳しいすしは他の外食業者が手を出しにくい「キラーコンテンツ」(田中邦彦社長)。だが、田中社長には「すしはいずれ、採算がとれなくなる可能性がある」との危機感がある。回転ずしチェーンの原価率はほぼ4~5割と外食業界のなかでも高い。ここに最近、原材料高が追い打ちをかけている。コメの仕入れ価格は直近1年間で10%上昇した。

年20店ペースの出店を計画する同社はライバル同様、都心対策も迫られている。すし以外の充実は、郊外での他社との差別化に加え、都心部で他業態からの顧客奪取につなげる狙いがある。

特に「すしより原価率が低く、単価は高い」麺類は、すしへの依存度低下と都心部での収益拡大という二兎(にと)を追ううえで有望な商材とみる。手堅く集客できる看板商品のイメージを維持しつつ、どれだけサイドメニューの幅を広げるか。田中社長は最適なバランスを模索中だ。

(小川悠介)

[日経MJ 2012年10月31日付]

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