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脱ページビュー主義 新経済ニュースアプリの挑戦

ブロガー 藤代 裕之

スマートフォンを舞台にしたニュースアプリが多数リリースされ競争が激化している中、経済ニュースに特化したのが、ユーザベース(東京・港)が運営する「ニューズピックス」だ。ソーシャルメディアで話題を表示したり、編集者が記事を選んだり、するのではなく、業界の専門家らが記事をピックアップし、コメントを付けることで、新たなニュースとの出会いと理解を促進する。

発見と理解の欲求を満たす

ニューズピックスをダウンロードすると、テーマを選択した後に、フォローすべきオススメのユーザーが表示される

ニューズピックスでは、アプリをダウンロードし、テーマを選択すると経営者や専門家のフォローリストが表示される。リストに並ぶのは、ドワンゴの取締役などを務める夏野剛氏、慶大教授の竹中平蔵氏、グロービス代表の堀義人氏、GMOインターネット社長の熊谷正寿氏らだ。ニュース記事とともに、経営者らが記事に付けたコメントを読むことができるのが魅力となっている。

運営しているユーザベースは証券会社で同僚だった梅田優祐さんと新野良介さんが2008年に創業、ともに共同経営者を務める。

ニューズピックス開発のきっかけは、証券会社時代に社内のアナリストがニュースを選んで「この動きには注目」といったコメントを付けていたのが参考になったという経験だ。以前は、専門家の情報を得るためには、電話をかけたり、ヒアリングしたり、アナログで情報を集める必要があったが、ソーシャルメディアが登場し専門家のコメントを可視化できるようになった。

「自分は投資銀行に勤めていて金融のニュースは理解しているつもりだったが、ブログで現役のバンカーが買収スキームについてコメントしているのを読むと理解が深まった。個人ブログや専門家がソーシャルメディアで発信している情報も必要だと実感した」と指摘する。その体験から記事とコメントが融合したニューズピックスが生まれた。記事を読んでも十分に理解できない際に、専門家によるコメントが理解を助けてくれるというわけだ。

「ニューズピックス」を運営するユーザベースの梅田優祐共同代表

梅田さんは「人には発見と理解の欲求がある」と説明する。人による記事の選択は、興味があるニュースに出合う機会を増やすことにもつながっている。経済とジャンルを絞っていることで、ソーシャルメディア上で話題になる前に、ニュースに触れることもできる。

昨年9月にリリース。東洋経済オンライン、ダイヤモンド・オンラインなどの60の経済メディアが閲覧でき、20代、30代がメインユーザーで大学生も多い。最初はあまりコメントが付かず、サービスが盛り上がらず苦労したという。同社ではアプリを利用してもらうように専門家に一人ひとり会って依頼した。その結果、竹中氏や夏野氏が積極的にニュースを選ぶ(ピックすると呼ぶ)ようになった。さらにタイムラインにコメントを掲載するようにインターフェースも改善した。

ビジネスパーソンの不便を解消する

同社はニュースアプリ専業ではなく、SPEEDA(スピーダ)と呼ばれる企業分析サービスを提供している。スピーダは、国内の約3万5千社、海外180カ国の約25万社の財務データ、役員や株主の情報、専属のアナリストが分析した550業界のデータが利用でき、金融機関やコンサルティングファーム、経営企画部やマーケティング部門などで国内400社が契約している。

力を入れたのはユーザーインターフェース(UI)。専門家が使う分析ツールは難しくなりがちだが、シンプルで、直感的に、使えるように工夫した。「提供されているサービスに利用者が合わせなければいけないというのはBtoCではあり得ない。ビジネスパーソンの不便を解消したかった」という。

なぜBtoBのサービスを展開していた同社が、ニュースアプリに乗り出したのだろうか。ひとつは、企業分析にニュースは切り離せない情報であること、もう一つは経済に興味を持つ人の裾野の拡大だ。

今のところ、ニューズピックスは大学生や若いビジネスパーソン、スピーダは企業内の専門家と、利用者層が違うため別の名前で展開している。将来的に両者の融合を目指している。

ページビュー頼みは限界

記事に対してコメントが並ぶニューズピックスの画面

「利用者は増えているが、ユーザー数やページビュー数を追っているわけではないのでエンタメには走らない。重要なのはユーザーからの課金モデルを作ること」と梅田氏は話す。

コンテンツに専門家が付与したコメントがニューズピックスの価値だが、同社はもともとのコンテンツを生んでいる訳ではない。新規の記事を書くにはコストがかかるため、スマートフォンのニュースアプリには一般に、コンテンツへのただ乗り批判がある。いくらページビューを誘導するからといって、ネットの広告料では取材網や記者が維持できず、内容の薄い、扇動的なコンテンツが量産されがちになるという現実もある。

「有料プランは始めたばかりで利用者は少ないが、ページビューモデルの先には未来がない。ニュースのアグリゲートだけではダメで、ちゃんとユーザーからお金をもらって、コンテンツを作る人に循環させる仕組みをつくらないと崩壊する」と、2月から8つの新聞や雑誌の購読が可能な月額1500円(税別)の有料プランを開始した。

同社では編集チームを作り独自コンテンツ作成に乗り出す予定もある。既にスピーダでは、アナリストの分析という独自コンテンツを作成している。社員は112人で、社内にアナリストは20人抱える。データを整理し、見やすく提示するプラットフォームと独自コンテンツの組み合わせを同社では「Tの字型モデル」と呼んでいる。ソーシャルメディア上に存在する多くのコンテンツをプラットフォームで再整理するとともに、存在しないコンテンツを独自に作り、差別化する戦略を立てている。

無料が中心のニュースアプリの世界に有料課金を浸透させ、良質なコンテンツを作るための環境を構築することができれば、ネットにおけるニュースの世界に新たなコンテンツ提供者を生む可能性もある。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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