ドコモが繰り返すスマホ障害、"通信品質"の看板揺らぐ
NTTドコモは7日、同社の携帯通信ネットワークで相次いでいる不具合について原因と対策を発表した。7月25日と8月2日、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けメールシステムなどで大規模な障害が発生。同社では2011年6月から12年1月にかけて頻発した通信トラブルを受け、年度末に総点検を実施したが、今回も不具合を防げなかった。ソフトバンクモバイルやKDDI(au)とのユーザー獲得競争でドコモは「通信品質」を強調しているが、その看板と信頼が失墜しかねない問題といえる。

2週間で連発した事故
ドコモによると、直近の2件の障害は、昨年頻発したスマホ向けサービスなどを巡るトラブルとは直接関係ないという。7月25日には一部ユーザーの「spモード(ドコモのスマホ向けメールサービス)各種設定」の情報がほかのユーザーから閲覧・変更可能になってしまった。
ドコモのspモードでは、ユーザーを「A面」「B面」と呼ぶ2つのサーバー群に分けて分散制御している。25日にB面のシステムソフトを更新した際、誤って「A面」用の設定ファイルを書き込んでしまった。このためB面のユーザーがA面ユーザーの設定情報にアクセスできる仕組みとなった。メール設定の際に入力するパスワードに「0000」(初期設定時)など同じ数字を使っていた場合、B面のユーザーがA面ユーザーの「spモード各種設定情報」を閲覧、変更できる状態だっという。
不具合が発生していた時間は25日の1時41分から13時37分までの約12時間。設定情報を変更したユーザーは5380人強で、それと同じ人数の設定が変えられたことになるため、合計で1万人強に影響が及んだ。
ドコモは昨年12月にユーザーのメールアドレスをほかのユーザーのものに書き換えるという「通信の秘密」にかかわる障害を引き起こした。今回はメールの中身などは見えなかったが他人のメール設定を変更できてしまうという大問題となってしまった。
その1週間後の8月2日のトラブルは、海外の携帯電話事業者とのローミングを仲立ちするNTTコミュニケーションズの機器故障が原因。通信をつなぐ処理をする「共通線」と呼ぶ回線が、接続・切断を繰り返す不安定な状況に陥り、海外ローミングの音声・パケットがつながりにくい状態になった。
この影響は、国内通信に利用している「IP-SCP」と呼ぶサービス装置にも及んだ。IP-SCPの信号処理能力が大幅に低下したことで、ユーザーの端末は圏外表示になるなどつながりにくくなる事象が、2日の18時15分から19時42分までの約1時間半続いた。障害の範囲は全国に及び、最大で145万人が影響を受けた。
新体制となったドコモに痛手

今回のトラブルは、6月に加藤薫氏が社長に就任し、新体制となったドコモにとって大きな痛手となる。昨年から今年初めにかけて頻発した通信障害を受け、社長を本部長とする「ネットワーク基盤高度化対策本部」を設置。「設備及び体制の総点検」などを進め、組織・業務・設備を見直し、3月末に総務省に報告して以降はトラブルが発生していなかった。
しかし今回、短期間に2度の障害を起こしたことで、同社の「総点検」に漏れがあったことを露呈したといえる。7月25日のトラブルは「範囲としては総点検の中に入っていたが、(誤ったファイルで更新しない手順を盛り込むなど、点検の)深さは不十分だった」(岩崎文夫副社長)と認めている。また他社のネットワークとの接続による回線異常が影響することまでは「予測できなかった」(同)という。
NTTドコモは、米アップルの人気商品「iPhone」を扱うKDDIとソフトバンクモバイルとの競争で苦戦を強いられている。通信高速化ではLTEサービスをいち早く開始するなど先行していたが、年内にはソフトバンクとKDDIもLTEの商用サービスを導入する。通信サービスのエリアの広さでは依然強みを持つが、後発の2社もインフラ整備を急ピッチで進めている。
他社との競合の中で、ドコモは「安全・安心、『つながる』を使命として取り組んできた」(岩崎副社長)。実際ユーザーからも"通信品質"は支持されてきたが、一連の障害によってその信頼は大きく揺らいでいる。7日の記者会見でも「ドコモには不具合を繰り返す根本的な問題があるのではないか」との質問が出るなど、急増するスマホに対応できない技術面、組織面での問題がクローズアップされている。
岩崎副社長は「(ユーザーからの信頼を再び得るためには)実績の積み上げで応えるしかない」と苦しい発言に終始した。国内のスマホユーザーは現在、3000万前後に達し、年度内に5000万に近づく勢いで伸びている。通信システムはより複雑になっており、技術的な対応も難しさを増している。ドコモは背水の陣でインフラを構築・運用する必要がある。
(電子報道部 松本敏明)