改善すべきは「労働生産性が低い」日本人の働き方
「日本人の労働生産性は低い」――こんな言葉を聞いたことはありませんか? 「こんなに働いているのに、なぜ…!?」そう思う女性も多いことでしょう。しかし、これは事実です。
「要領が悪い働き方をしている」という事実

OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、2011年の日本人一人あたりの総労働時間は平均1700時間。他の先進国と比べると実に200~300時間も長いのです。また、1時間あたりの労働生産性はアメリカの約60ドルに対して約40ドルと、低い傾向にあります。つまり「要領が悪い働き方をしている」と言っても過言ではありません。
前回は短時間勤務制度が広がりを見せる中で、課題も多い現状をお伝えしました。短時間勤務者であってもフルタイム勤務者と対等な評価を得るためには、労働の総量で評価するのではなく、1時間あたりの生産性によって目標設定し、評価されるような仕組みへシフトする必要があります。
けれども日本では社員一人当たりの生産性が重要という考え方が根強く、時間当たりの生産性で評価する会社はむしろ少数派です。
短時間勤務者は会社にいる時間が限られ、周囲のフルタイム勤務者にいろいろとフォローしてもらう場面が出てくるのは事実です。ただ、そもそも短時間勤務になる時点で基本給を減らされているので、多少、周囲にフォローしてもらったとしても、しっかりとアウトプットの質で個々に評価されていいはずなのです。よく聞かれる「短時間勤務だから評価を下げる」という話は、本来はあってはならないことです。
短時間勤務の話をすると、ワーキングマザーに限ったテーマだと思われる方がいますが、実はそうともいい切れません。今、シングルの女性であっても将来的に、結婚・妊娠を視野に入れている方は多いでしょうし、男女関係なく大きく関係してくるのが介護の問題です。団塊世代の大量退職とともに、現在の20代、30代の方ももう10年~15年もすると親世代の介護問題に直面することでしょう。親の介護と仕事との両立を探る中で、短時間勤務を選択する人は今よりももっと増えると考えられます。
短時間勤務制度を利用して1日6時間勤務などを選択する人は多いのですが、フルタイム勤務者が8時間働く中で6時間働くことを選択するのであれば、それほど難しい話ではありません。ところが、フルタイム勤務者が残業も含めて10時間~12時間近く働く中で短時間勤務を選択することには、やはり周囲とのバランスという意味で難しさがあります。
短時間勤務者に対して「仕事をしていない」「ラクをしている」といった批判をするフルタイム勤務者は、彼ら自身が現在の自分の働き方に納得していないのでしょう。労働時間の長さや、業務の与えられ方、評価のされ方に何等かの不満を抱えているのだと考えられます。その不満の矛先が短時間勤務者へ向かっているのです。
これまでも自らの労働時間の長さや業務の与えられ方、評価のされ方に納得できないままに働くということはありました。ただ、これまではみんなの働き方が非常に画一的でしたから、それほど気にならなかったのです。最近になって短時間勤務など同じ職場内に多様な働き方が出てきて、フラストレーションを感じている方が多いということでしょう。
これからの超高齢社会における介護の問題、育児と仕事の両立問題を考えると、できるだけ多様な働き方を容認し、一人一人の力を引き出すことが組織には求められます。
将来の働き方を考えると、労働時間の総量ではなく、1時間あたりの労働生産性で評価するような仕組みの導入が強く求められます。
この人にお話を聞きました

三菱UFJリサーチ&コンサルティング女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント戦略室室長。中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。近年は、特に、「職場における短時間勤務の運用方策」や「短時間勤務等多様な働き方に前提としたキャリア形成のあり方」、「仕事と介護の両立支援」に着目した調査研究を行う。著作に、『女性の働き方』」(共著、ミネルヴァ書房)、『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』(共著、ミネルヴァ書房)、『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』(共著、勁草書房)など。内閣府「少子化社会対策推進点検・評価検討会議」委員(2008年)、文部科学省「女性のライフプランニング支援総合推進事業」委員(2009年~2011年)、東京都「次世代育成新行動計画評価懇談会」委員(2010年~)などを務める。http://www.murc.jp/corporate/cnsl_intl/diversity
(ライター 田中美和)
[nikkei WOMAN Online2013年12月16日付記事を基に再構成]
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