雑誌出版社「中抜き」の憂うつ、震源は広告主 「iPad革命」の裏側(3)

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2010/7/8付
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 電子雑誌は、アップルの多機能携帯端末「iPad」の登場で最も注目されたコンテンツの1つだった。しかし、紙の世界に軸足を置く出版各社は、さまざまなジレンマを抱え、デジタルの世界へと大きく踏み出すことができないでいる。その一方で、出版社にとってもっとも恐れていた事態が進行していた。自らの存在意義を揺るがしかねない「中抜き」である。

サッカーの中村憲剛選手を表紙で取り上げたクリニークの電子雑誌「Smile」

サッカーの中村憲剛選手を表紙で取り上げたクリニークの電子雑誌「Smile」

サッカーのワールドカップ(W杯)で、日本中を興奮の渦に巻き込んだ日本代表。その1人、中村憲剛選手は南アフリカ入りする前、iPad向けに配信されたある電子雑誌アプリケーションの巻頭インタビューで、こう語っている。

「できるだけ多くの人たちを巻き込んで、大きな渦を作りたいし、観る人の心を揺さぶりたい。(中略)僕は試合が終わったスタジアムの、勝利をみんなで共有している時間って、すごく好き。選手もサポーターも、みんな笑顔だから。最高です」

史上初の8強入りを目指したパラグアイ戦。後半に途中出場した中村選手は、延長前半に右サイドから鋭いシュート性の球をゴール前に蹴りこむなど、停滞した戦況に動きをもたらし、深夜の日本を沸かせた。そのプレーにかける思いが、電子雑誌で語られていた。

ただし、掲載された媒体は、大手出版社によるものでも、スポーツ専門誌でもない。米国の高級化粧品ブランド「CLINIQUE(クリニーク)」が自前で新創刊した「Smile」という電子雑誌である。

クリニークは、ファッション誌やライフスタイル誌に巨費を投じてきた大手広告主の1つ。その広告主が「iPad革命」の波に乗り、電子雑誌の出版に乗り出した。広告主による出版社の「中抜き」が、密かに始まっていたのである。

iPadの操作性を生かしたインタラクティブな作り

Smile初号のコンテンツは男性向け。「高級化粧品のエントリーモデル」という位置づけのクリニークは男性向け化粧品の拡販にもグローバルで力を入れており、iPadの初期の顧客層とも合致する。

全25ページのアプリは当然無料で、中村選手のほか、スープの専門店「Soup Stock Tokyo」などを手がけるスマイルズの遠山正道社長、「週刊朝日」の表紙写真などで知られる写真家の藤代冥砂氏ら著名人のインタビューを、豊富な写真とともに掲載している。後半では、「What's About CLINIQUE」と題して、クリニークの歴史や男性向けスキンケアの基礎を自社商品とともに解説するページも用意した。

特筆すべきは、米タイムのiPad向けアプリのように、iPadの操作性を生かしたインタラクティブな作りとなっている点。縦横に方向を変えれば、画面が最適なレイアウトへと変化するのはもちろん、写真をタッチすれば動画が始まり、商品紹介の脇にあるボタンをタッチすれば、ブラウザーが立ち上がって商品の販売ページへと誘導する。

「クリニークのブランドイメージは、クリーンでピュア&シンプル。Smileという雑誌のタイトルも内容もブランドコンセプトと合っていて、読めば読むほど、ずれがない」。クリニークブランドを抱えるエスティ・ローダーのクリニーク事業部でマーケティングのトップを務める日高千絵本部長は、自ら手がけた雑誌を手放しで絶賛する。

雑誌への広告費配分を6割に圧縮

クリニークは昨年から今春にかけて、これまで「ほぼ紙だった」という広告費の予算配分を、「かなりアグレッシブに変えた」という。

従来は多くの外資系ブランドと同様、「雑誌から百貨店へ」という顧客の流れを見込み、ファッション誌や美容関連誌、ライフスタイル誌を活用していた。だが、「若い人は、どれだけ百貨店に行くのだろうか。人の消費行動を変えるほど、まだ広告に力はあるのだろうか、と疑問を持つようになった」と、日高本部長は語る。

そこで本腰を入れることにしたのが、ウェブにおけるマーケティングだ。ほぼ雑誌に投じていた広告費の配分を6割に下げ、残りは一気に新規顧客を掘り起こすべく、初めて実施したテレビCMとウェブで分け合う予算を組んだ。同時に、ネット通販にも乗り出した。

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