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COP18、負の遺産抱え交渉難航 ポスト京都へ産みの苦しみ

編集委員 滝順一

国連の気候変動枠組み条約の第18回締約国会議(COP18)が11月26日からカタールのドーハで開催されている。先進国だけが温暖化ガスの削減義務を負った京都議定書の体制からすべての国が同じ枠組みの中で協力し合う新体制へ移行する転換点となる会議だ。新体制づくりの行程表づくりが主たる議題なためそれほど激しい利害対立はないと事前にはみられていた。しかし楽観的な予想を裏切り交渉は難航している。最難題に浮上したのはお金。温暖化対策などに使う資金の支援を途上国が先進国に要求。日本や米国などが拒み、話し合いは暗礁に乗り上げた。

3年前にデンマークのコペンハーゲンで開いた第15回締約国会議(COP15)で、先進国は2010年~12年の3年間の短期資金として約300億ドルの提供を約束、さらに20年までの長期資金として1000億ドルという巨額の支援を約束した。先進国は中国やインドなど新興国も含めすべての国が相応に温暖化ガス減らしに取り組む新体制への移行で合意することを目指し、途上国の懐柔を狙い大盤振る舞いを約束した。当時はCOP15での合意の期待が大きく、いわば交渉進展への期待が膨らませたバブルのような約束だった。しかし交渉は決裂、新体制への移行は持ち越され、口約束の1000億ドルは具体化されずにここまできた。

COP18は3年遅れの転換点だといえる。達成を目指すのは(1)京都議定書第2約束期間を13年1月からスタートさせることと、(2)20年以降の「ポスト京都」への交渉をつつがなくスタートさせることの2点に尽きる。いわば「旧体制(京都)から新体制(ポスト京都)への移行」(欧州共同体の交渉団代表のヘデゴー欧州委員)に動き出す最初の一歩だ。

移行の基本方針は1年前のCOP16(南アフリカ・ダーバンで開催)で決まっており、新体制の交渉スケジュールなどを決めれば今回は成功とみられていた。しかし京都体制で既得権益をもつ途上国側はすんなりと移行を許さなかった。

今週にドーハ入りした中国の交渉団代表の解振華・国家発展改革委員会副主任は「カギとなる課題は資金だ」と4日の記者会見で述べた。京都議定書第2約束期間に参加する欧州連合(EU)などにより高い削減目標を求めると同時に、「12年末で短期資金が切れる」ことを挙げCOP15で約束した1000億ドルの長期資金の拠出計画を具体的に示すよう先進国に求めた。

5日から始まった閣僚級の交渉の冒頭であいさつした潘基文・国連事務総長も長期資金問題に触れ先進国に約束の履行を促した。

しかし先進国のふところ事情は3年前とは違う。危機的な財政を抱え1000億ドルもの資金を提供する余裕はなく国民の理解も得られにくい情勢だ。資金をめぐる閣僚級の話し合いが長時間にわたり繰り返し行われているが、会期を1日残した6日夜(日本時間7日未明)になっても打開点が見えない。資金の問題が引き金となる形で新体制への行程表の話し合いなども交渉全体が停滞の様相を帯び始めた。

 そんななか、英国が単独で15年までに18億ポンド(約2400億円)の提供を5日に表明、ドイツも明確な金額は不明だが資金支援を約束したと伝えられる。他の複数の欧州の国が途上国との交渉の場で支援を申し出たとされる。ただ米国は話に乗らず、日本も「具体額を示すことはできない」としている。

記者会見で先進国に譲歩を求める中国、インド、ブラジル、南アフリカの代表者

日本は12年までの短期資金支援300億ドル(実際には336億ドルが提供されたとされる)のうち133億ドルを「鳩山イニシアチブ」と銘打って提供してきた。日本政府代表団は短期資金の40%を日本が負担したのに「途上国から感謝の言葉もない」と繰り返し主張、資金支援でのこれまでの実績を強調している。

ただ先進国が3年前に1000億ドルを約束したのは紛れもない事実。履行を求める声には正当性がある。今後,先進国全体として踏み込んだ対応を強いられるのは避けられないとみられる。

途上国といっても、温暖化ガス排出量が巨大な中国やインドと、太平洋の島国などとは温暖化対策に関する考え方が違う。途上国のグループ(G77プラス中国)は必ずしも一枚岩でないことが時折あらわになるが、昨年のCOP16はそうした局面にあたり、先進国が主張する新体制への移行が合意できた。ところが資金が焦点になった今回は途上国の利益が一致、一枚岩が復活した。一方、先進国の交渉団のポケットには何も入っておらず、予想外の難航の原因となった。

先進国と途上国との間に大きな違いを設けてきた「京都体制」での基本的な考え方は相変わらず根強い。COP18では京都体制がタネをまいた別の課題も表面化した。

ロシアやウクライナなどが抱えた余剰排出枠(ホットエアー)の問題だ。ロシアなどは京都議定書の下で削減義務を負ったが、その目標は旧ソ連邦崩壊後の経済情勢を勘案して低めに設定された。現実にはさらなる経済の停滞で目標を下回る排出しかなく削減努力をあまり講じなくても目標を超過達成し、余剰枠が生じた。総量は二酸化炭素(CO2)換算で約130億トン。日本の10年分の排出量に相当する。

ロシアなどは京都議定書の第1約束期間(今年末まで)が終わった後も余剰枠を持ち越して使うことを主張している。そうなればロシアなどの排出抑制のインセンティブは弱まり排出枠取引市場への影響も大きい。EUなどが強く反対しており対立が続いている。

京都体制で抱え込んだ矛盾が体制移行期を前に噴き出した感じだ。現状では、交渉日程を2日延長した昨年のCOP16に比べても、COP18の交渉ペースは「遅れ気味だ」と会場ではささやかれる。新興国も含め世界がひとつの枠組みに入る画期的な新体制に本当に移行できるかどうか、交渉の瀬戸際を迎えている。

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