2019年8月26日(月)

日米外交60年の瞬間 第3部

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「宮沢日記」の迫力 サンフランシスコヘ(30)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

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2012/3/10 7:02
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1951年8月3日、サンフランシスコでの講和条約署名をめぐる「挙国態勢」に向けて大きな動きがふたつあった。ひとつは外務省が同日、対日講和条約草案の解説を発表したことである。もうひとつは吉田茂首相が同日夜、民主党の苫米地義三最高委員長を訪ねて会談したことである。

■イタリアより有利な条約と外務省解説

対日講和条約の草案をめぐって当時の新聞は、ダレスの演説やAPの報道などをとらえて詳細に報じてきた。この物語でも同様である。

宮沢(左)は長い間、池田勇人の片腕だった(1961年の池田首相訪米時)=毎日新聞社提供

宮沢(左)は長い間、池田勇人の片腕だった(1961年の池田首相訪米時)=毎日新聞社提供

しかし外務省情報部が3日発表した「日本国との講和条約草案の解説」は、高姿勢の吉田が首相を務める政権といえども、いまでいう「説明責任」を逃れられなかったことを示している。講和は日本にとってそれほど重要だったし、その内容は簡単ではなかった。

日経はこれを1面4段で報じ、1面の半分近くを使い、さらに2面に続けた。1面の見出しを拾い、その内容を簡単に説明しておこう。

「和解と信頼に一貫」=ダレスが「仲直り条約」と呼んだことはすでにこの物語でも述べたが、外務省は、この条約は和解の条約であり、これはイタリアに対してはみられなかった交渉態度である、と説明した。

「再軍備、監視の規定なし」=再軍備に制限を課すのが戦勝国の従来の態度であり、イタリアの場合も制限を設けているが、対日条約ではそれがない。

「"義務より自主"強調」=降伏後の法制改革による安定、福祉の条件を国内に作り出すことを日本自身が表明する。イタリアの場合、これが義務となっていた。

「旧条約は通告で復活」=日本が戦前、各連合国と結んでいた条約は、通告によって復活する。

解説に流れるのは、イタリアと比べ、日本は寛大な条件で講和を達成するとのメッセージである。そしてそれを挙国一致して受諾するため、吉田がついに動いた。高姿勢の吉田が野党党首である苫米地の私邸を夜訪れたのである。

■吉田を説得する忠臣池田

吉田の側近だった池田勇人蔵相の秘書官だった宮沢喜一は以前にも引用した著書「東京―ワシントンの密談」で8月3日の自身の日記をそのまま掲載している。

原文は漢字カナ交じりの文語体で現代の読者には読みにくいので、現代風に改め、掲載する。

この日の政界底流の動きが活写される。

 ―――――――――――――

8月3日 金曜 晴れ、暑し

早朝池田蔵相から電話、箱根の吉田総理から至急会いたい旨の電話があったという。

東京を8時半発池田氏に従って、11時少し過ぎに小涌谷の旧三井邸に。

池田蔵相は首相と30分あまり会談、帰路池田氏は次のように語った。

首相は、講和会議後できればワシントンを訪問したい考えであり、そのために池田蔵相、一万田(尚登)日銀総裁の同行を希望している。なおその場合、両氏はともに講和会議にも全権として出席してもらいたいという。

これに対し池田氏は承知し、ただし一つ条件があると述べた。それは首相が直ちに民主党の苫米地委員長と会談し、全権として会議に参加されるよう要請されたいとのことである。

池田氏は続ける。苫米地氏訪問の件は、一昨夜首相が拒絶したことは十分承知しているが、おそらく首相は、それまでの両党幹事長間のいきさつをよく承知していなかった結果と考え、従来の経緯を縷々(るる)説明した。

その結果、首相は苫米地氏との会談を承認した。池田氏は、場所についてなるべくなら苫米地氏が目黒の首相官邸(注、外相官邸のこと)に来訪するよう工作するが、万一不成功の場合は第3の場所を選ぶかもしれないので一切任せてほしいと請い、首相も渋々同意した。

なお池田氏は余(宮沢)を講和会議に同行する許しを請い、これを得た。

帰路、いかにして苫米地氏にこれを伝えるべきか自動車内で研究した。蔵相は豊田貞次郎氏(元海軍大将)が三木武夫氏と旧知なので、豊田氏を煩わして三木氏に接触するのはよい、ただし豊田氏は追放中なので迷惑のかからないようにしなければならないなどと話した。

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