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ツイッター世論、憲法・外交に関心 盛り上がり重視

ネットと一般の世論は違うとよく言われる。両者の差が現れた興味深い事例が7月の参議院議員選挙だった。参院選を巡って投稿されたツイッター上の意見をデータマイニング大手のデータセクション(東京・渋谷)が分析した「ネット世論」と、日本経済新聞が7月に実施した世論調査を比較すると大きな違いがあった。ネット世論は景気や社会保障、税への関心が著しく低かった一方、憲法や原子力、外交・防衛という賛否両論がはっきり分かれる政策については大きな盛り上がりをみせた。ネットが提示する争点は一般的な有権者の関心事と大きく食い違っており、データの特性に応じた受け止め方、使い方を考える必要がありそうだ。

ネット世論、「景気対策」への関心低く 母集団に違い

データセクション傘下の調査会社ソリッドインテリジェンス(東京・渋谷)によれば、公示日から投票日までの7月4~20日の間に選挙・政治関連の投稿は約400万件、投稿者のID数は260万にのぼったもよう。このツイッター上の話題のうち景気対策は5%を占めるに過ぎない。日経新聞が実施した7月14~16日の世論調査では、景気・雇用対策は投票を左右する圧倒的な関心事だった。日経世論調査では2番目の関心事である社会保障についてもツイッターでは1割にとどまる。

逆に、憲法改正はツイッターの話題の4分の1を占めたが、日経世論調査では他の政策に比べ特別目立った関心は寄せられていない。外交・防衛についてもツイッターでの関心の高さが際立つ。ツイッターでは議論が局所的に盛り上がっていたことが分かる(図1、図2)。

こうした結果の違いは母集団の違いによるところが大きい。データセクションはツイッターの日本語投稿の全データにアクセスでき、このうち政治に関連する投稿を登録プロフィールで分類すると投稿者の4分の3は男性で、年代は30代が4割弱を占める。残りは20代と40代が4分の1ずつだ。この属性分布は特定政策によって大きな違いはない(図3)。

通常、ツイッター投稿の男女比は半々で、20代の女性と30代の男性が投稿者の中心。選挙に限った「ツイッター世論」の特性は30代男性の意見のバイアスが強くかかったデータであり、一般の世論とは全く別の特性を持ったデータとして扱う必要がある。日経の調査は一般の世論調査同様、人口分布に応じて調査対象のサンプルの属性が分散するよう調整している。

重要さより盛り上がり

ツイッターに集まるのは基本的に関心が高いテーマだ。ありふれた日用品の歯磨き粉のマーケティング情報を得ようとしてもなかなか見つからない。政治に関する投稿も、政治に関心が高い層のある種片寄ったデータが集まっている。ネット「世論」というよりは「30代の政治好き男性が注目する争点は何か」と言った方が正確だろう。ソリッド社で分析を担当する重久佑介氏は「景気への評価などある程度全体の趨勢が決してしまったテーマは議論が盛り上がらず投稿は伸びない。憲法や防衛など異論が噴出する話題に投稿が集中しがち。重要だから議論するのではなく、盛り上がるが故に議論が進む。全体の流れとかけ離れた『局地戦』になりがち」という。

ソリッド社の調査では、今回の選挙戦中の投稿で特に盛り上がりを見せたのは各党の政策というよりも「民主党の岡崎トミ子氏」と「反日運動参加」を結び付けたものや、原発政策や福島第1原発事故後の対応について民主党の鈴木寛氏と反原発運動家の山本太郎氏の意見の食い違い、情報の正確さなどに絡むものだったという。

「ネトウヨ」ではなく「左寄り」

とはいえ内容が特に過激な主張に投稿が片寄っているとも言えない。ネットは韓国や中国について批判的で、愛国主義的、保守的な傾向を持つ「ネトウヨ」の影響が強いと指摘されることが多い。だが、ソリッドの分析ではネトウヨとみられる層は今回の参院選では民主党を激しく批判した投稿を重ねたが、そもそもフォロワーが限られているため、増幅効果、全体の論調への影響は極めて小さかった。一方、共産党の政策に対する意見は主要な政策の多くで肯定派と反対派が拮抗していた(図4)。日経の7月の調査で4%という共産党の支持率を考慮すれば、むしろ左寄りの傾向が強いとも言える。ツイッターでは憲法について約4割、原発では約3割、景気対策でも約2割を共産党の政策に肯定的な意見が占める。他党に比べ突出した割合だ。

関心高い層によるバランスのとれた議論

ツイッターでは「パクツイ」と呼ばれる他人の投稿を「盗作」してそのまま再投稿する行為が流行っている。また、政党やそこから委託された組織により意図的に特定の投稿が増やされる可能性もありうる。実際、マーケティングの世界では特定の商品・サービスを他人に薦め、会員登録や購入につながった場合に報酬をもらえる「アフィリエイト」の情報も多く、ネット上の投稿データにはノイズが入りやすい。

だが、実際の政治関連の投稿は「現状ではあまり意図的な投稿は極めて少なく、『政治的に中立』と分類される投稿が45%程度を占めるとみられる。非常に政治に関心が高い層が比較的バランスを取りながら議論している印象」(重久氏)という。

また、各党の具体的な政策に関する投稿を分析すると、選挙戦略がうまくいった政党は有権者の関心が高いポイントをツイッター上であってもしっかり訴求できていたことも分かる。今回の自民党は原発や憲法といった微妙な問題に関するネットでの発信を避け『争点隠し』を狙ったと言われるが、ツイッター上では自民党に絡めて原発や憲法も話題に上っており、しかも評価はネガティブなものが多かった。憲法、外交・防衛で約半分、原発では6割以上が否定的な投稿だった。だが、文字制限のあるツイッターでは話題になりにくいが、有権者の関心が高い「景気・経済」に絡んだ投稿も同時に多く、評価も肯定的だった(図5)。

共産党、税や社会保障で投稿稼ぐ

議席を伸ばした共産党も一般的な有権者が注目する税や社会保障で投稿を稼いだ(図6)。逆に惨敗した民主党はこうしたテーマで話題になることが少なかった(図7)。ツイッター世論の動向確認は選挙戦を優位に進めている政党がネットで盛り上がっている危険な話題をあえて回避するだけでなく、ネット上では争点になりにくいが、有権者の関心が高い政策の浸透度合いを見極める確認手段としても使える可能性はありそうだ。

日経の7月末のネット調査でも投票先を決める際にネットを参考にしたとの回答は19%。20代では34%に上った。政治への関心がそれほど高くない「サイレントマジョリティー」である大多数の有権者はツイッターに投稿するわけではないが、投稿される情報がネットを通じ拡散した結果、情報を共有する可能性は高い。

定点観測でネット世論の特性見極めよ

静岡大学の佐藤哲也准教授は「今後もデータを定点観測し続けて、特定層の政策課題への議論の盛り上がりの『変化率』を見極めるなどといった有効な使い方は可能だろう」と指摘する。ビッグデータの専門家であるKDDI総研の高崎晴夫取締役はこう語る。「ネット上の世論の特性を見極める素養を身につけ、冷静に分析していくことは民主主義が直面している『宿命』だ」。(兼松雄一郎)

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