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EV普及のカギ「無線給電」 循環バス実証で見えたもの

長野市では、同市が民間に運営委託している「ぐるりん号」と呼ぶ循環バスが、長野駅や善光寺、県庁などの中心市街地を巡回している。そのうちの1つの車輌が、早稲田大学などが開発した、プラグ式とワイヤレス式の両方で充電できる電動バスだ。1周8kmの比較的短いコースを40分程度で毎日4回運行している。

電気自動車(EV)の普及は蓄電池の進歩が鍵を握る。蓄電池の低コスト化や、航続距離を延ばすための出力密度の向上が課題だが、EV普及のもう1つの鍵を握っているのが充電技術だ。その有力技術として、「ワイヤレス(無線)給電」に注目が集まっている。

ワイヤレス給電は非接触給電とも呼ばれ、金属接点やコネクター、コードなどを介さずに電力を伝送する技術を指す。コードレス電話や電動歯ブラシなどで既に活用されているが、EVにも応用する動きが盛んになってきた。

蓄電池を減らして車両コスト削減

早稲田大学のグループは長野駅周辺の循環バス路線で、「短距離走行高頻度充電型」と呼ばれる電動バスの実用評価を進めている(図1)。

図1 電動バスのワイヤレス給電スポット(左)。路面の灰色部分に送電装置が埋め込まれている。バスの床下に取り付けた受電装置(右)を上下に重ねるように駐車して、充電する

大型で車重が重いバスの場合、電動化しようすると大容量の蓄電池が必要になり、乗用車以上にコスト上昇や乗車スペースの犠牲を招きやすい。

しかし、短距離走行に限るなら充電回数を増やすことで蓄電池の搭載量を減らせる。その際、頻繁に生じる充電作業をワイヤレス給電によって軽減するというのが「短距離走行高頻度充電」のコンセプトである。

実証試験のグループリーダーである早稲田大学理工学術院環境・エネルギー研究科の紙屋雄史教授は「環境負荷の低減のほか、運転士の作業負荷や運行計画の立て方、乗り心地など、実際のバス路線での毎日の走行を通して電動化がもたらす影響を多角的に評価するのが目的」と話す。

中心部の主要施設や観光拠点などを循環するバス路線は、市民や観光客の手軽な移動手段として地方都市では多く見られ、自治体が運営に関わるケースも多い。排ガスやCO2(二酸化炭素)を出さない電動バスは市街地の公共交通手段に適していると見た長野市が、将来の導入をにらんで実証試験を受け入れた。

プラグ式より「ずっと楽」

実証車輌は蓄電容量で35kWh分のリチウム(Li)イオン蓄電池を搭載する。1回8kmの走行で消費する電力は蓄電容量の4割弱で済む。蓄電池の搭載容量は乗用車型EVの1.5~2倍だが、乗車スペースはEVに改造する前の仕様と同じ31人乗りを維持した。

図2 運転席の上部に取り付けてあるワイヤレス給電の操作パネル。車内のパネル操作だけで充電が完了する

長野駅前を出発して再び戻ってきた電動バスは、付近に設置したワイヤレス充電器に向かう。路面に90cm四方程度の送電装置が埋め込まれており、バスの床下に取り付けた受電装置が、その上に重なるように停車させる。運転席からパネル操作で充電を開始し(図2)、15分ほどで満充電になる。その間、運転士はバスの外に出る必要はない。

ぐるりん号を担当している運転士は6人全員が女性で、充電も自分たちで行う。ワイヤレス充電設備のない夜間駐車場では、通常のプラグ式の充電も経験している。充電作業について尋ねた女性運転士は「太くて重いケーブルでつながった端末を差したり、抜いたりするのに比べてワイヤレスはずっと楽。車内で操作できるので雨や雪の日も負担は小さい」とワイヤレスの利便性を素直に評価していた。

距離に問題ある電磁誘導方式

コンセント不要のワイヤレス給電技術には、「電磁誘導方式」「磁界共鳴方式」「マイクロ波方式」の3種の方法がある。

このうち大きなエネルギーを伝送しやすいのは電磁誘導で、磁界共鳴、マイクロ波の順に難しくなる。反対に、最も遠くまでエネルギーを伝送できるのがマイクロ波で、磁界共鳴、電磁誘導の順に距離を延ばすための難易度が高まる。

技術の成熟度合いで言えば、電磁誘導方式がすでに実用段階に入っているのに対して、磁界共鳴は実証段階、マイクロ波は基礎的な研究開発の段階だ。

電磁誘導はコイルを貫く磁界が変化すると起電力が発生する物理現象である。2つのコイルを並べ、片方のコイル(1次コイル)に電流(交流)を流すと磁界が発生し、その影響を受けたもう片方のコイル(2次コイル)に電圧が生じる。1831年に英国の科学者、ファラデーが発見し、今日、発電機や変圧器など多くの電気機器の動作原理に応用されている。

電動歯ブラシなどの充電で既に実用化している電磁誘導方式だが、電動バスにそのまま適用できるわけではない。電磁誘導方式にはコイル同士の距離が離れると給電が難しくなるという問題があるためだ。路面に敷設した送電部(1次コイル)から電動バスの床下に取り付けた受電部(2次コイル)への高効率な送電をどう実現するかが課題になった。

送電距離延長で路面埋め込みが可能に

図3 電磁界解析による発生磁界のシミュレーションから、コイルの巻き方など送電装置と受電装置の最適設計を探り出した

早大グループは当初、ドイツ製の給電装置を取り寄せて実用性を評価したが、電力を送ることができる距離が5cmしかなく、そのまま電動バスに適用するのは適さないと判断した。当時、イタリア・トリノなどで始まっていた実証試験では、受電部をバスから機械的に下降させ、送電部に近づけて給電していた。だが、これではバスの機構が複雑になるうえ、充電作業を十分に軽減することにはならない。

そこで、早大グループは独自に送電距離を伸ばす開発に取り組んだ。発生磁界をシミュレーションする電磁界解析を駆使して、コイルの巻き方など設計の最適化を追求した(図3)。2005年に10cm、2010年には14cmまで延ばすことに成功した。

道路法上、公道に設置するには交通の障害にならないことが求められる。送電長10cmの段階では、箱形の送電装置を路上に設置して充電する必要があったが、送電長14cmの達成で路面への完全埋め込みが可能になった。長野で使っている装置は、路面から直接バス床下の受電部に35kWの大きな電力を90%以上の効率で給電できる。出力は電動バスの充電に十分適用可能で、効率はプラグ式と変わらないレベルを実現した。

厄介な送受電装置の位置合わせ

だが、電磁誘導方式には使い勝手に問題がある。送電装置と受電装置の中心軸がずれると効率が極端に落ちるのだ。充電するには両者がほぼ正確に重なるようにバスを止めなければならない。運転技量が高いバスの運転士たちでも慣れるのに1カ月以上かかったという。一般のドライバーが日常生活で使いこなすのは容易とは言えない。

この問題を解消する技術として注目されるのが磁界共鳴方式だ。2006年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)が実用化の可能性を発表した新しい技術で、電磁的な共鳴現象を利用してエネルギーを伝送する。同じ周波数で共鳴させる伝送原理のため位置ズレに強く、送電距離も電磁誘導方式より長く取れる。物理現象としては知られていたが、エネルギー伝達への応用はこれまでほとんど例がなく、技術発表時に公開した2m離れた電球を灯す実験は科学者たちを驚かせた。

ちなみにワイヤレス給電の3方式のうち、残るマイクロ波方式は、通信や放送にも使われている電波をエネルギーの伝送にも利用しようとする考え方だ。宇宙空間に太陽光パネルを設置し、地上に送電する宇宙太陽光発電構想を実現する送電技術として研究が進められているが、空間に広がる高エネルギーマイクロ波の人体への影響など解決すべき課題は多い。EVへの給電を想定した至近距離での送電実験も試みられているが、送電の効率はまだ低く、実用化までには時間がかかりそうだ。

MIT発ベンチャーがトヨタなどと連携

ワイヤレス給電の開発や普及の取り組みは、国内外を問わず盛んだ。

米国では携帯電話向け通信技術開発のクアルコムがEV用ワイヤレス給電にも積極的だ。2012年からロンドンでEV50台を利用したワイヤレス給電の実証実験に取り組んでいる。製品は電磁誘導方式だが、送受電器のズレは最大40cmまで対応可能だという。

位置ズレ問題解消の切り札と目される磁界共鳴方式は、技術を実証したMITグループがワイヤレス給電の開発会社、ワイトリシティを立ち上げ、米自動車部品大手のデルファイなどと提携して開発を進めている。国内でもトヨタ自動車やIHIなどが同社と提携して磁気共鳴方式の開発に取り組んでいる。

大きなエネルギーの伝達が課題とされる磁界共鳴方式だが、ワイトリシティでは20cmの距離で3kW程度までの伝送に成功している。大伝送など技術がさらに進めば、走行中のEVへの給電も可能になるとの見方がある。

ワイヤレス給電技術の進展は、蓄電池技術の限界を補う可能性があり、EVに対する評価を大きく変える可能性がある。

(日経BPクリーンテック研究所 中西清隆)

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