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CO2出さない水素製造事業、巨大市場見据え世界で始動

 燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しない水素をエネルギー源として大規模に活用する、「水素社会」の実現を目指すプロジェクトが世界各地でスタートしている(図1)。水素インフラ関連の市場規模は、2050年には年間160兆円に上ると見られる(日経BPクリーンテック研究所調べ)。そうした水素社会を実現するために不可欠な取り組みとして注目されているのが、CO2の排出を伴わない(CO2フリー)水素製造プロジェクトである。背景には、先進国が「2050年までに先進国全体のCO2排出量を80%削減する」という、2009年のG8ラクイアサミットにおける合意がある。水素インフラの関係者はこの合意を基に水素社会の将来像を描いており、そのためにはCO2フリーの水素を作ることが前提条件になっている。

水素は自然界にはほとんど存在せず、炭化水素や水などの形で化合物として存在している。このため、何らかの方法でこれらの化合物にエネルギーを加えて水素を製造する必要がある。現状では、工場で産出される副生水素でまかなっており、足りない場合には化石燃料を改質して製造している。これらの水素製造プロセスではエネルギーを加える過程でCO2を排出してしまう。

これに対して、(1)再生可能エネルギーの電力によって水を電気分解する、(2)化石燃料を改質またはガス化するものの、「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」(改質やガス化時などで発生するCO2を、大気に放出する前に分離・回収して貯蔵すること)というプロセスを経ることによってCO2フリー化する――という二つの方向でCO2フリーの水素を製造する試みが活発化している。

世界で動く28のプロジェクト

日経BPクリーンテック研究所が世界の主要な水素インフラ関連プロジェクトを調べたレポート『世界水素インフラプロジェクト総覧』(2013年10月24日発行)によると、主要なプロジェクト70の内、CO2フリーを目指した水素製造プロジェクト数は28にのぼった。

このうち、再生可能エネルギーを使ったCO2フリー化のプロジェクトは26に及んだ。それをタイプ別にみると風力発電から製造するプロジェクトが最も多く10、再生可能エネルギー全般から水を電気分解して水素を製造するプロジェクトが6、バイオガスから製造するプロジェクトが6、太陽光発電から製造するプロジェクトは3となった。

水力発電から水素を製造するプロジェクトは1つだけだが、これはすでに一部で普及していることから電力需給に使う先進的な取り組みだけをピックアップしたためである。一方、炭田や天然ガス田の産地でガス化や改質に併せてCCSを行うことによってCO2フリー化するプロジェクトは、2を数えた。

ドイツで活発な風力発電からの水素活用

その中でも目立つのは、ドイツにおける風力発電の電力から電気分解で水素を製造するプロジェクトである。ドイツは脱原発に踏み切っていることから、再生可能エネルギーの中でも風力発電の導入を活発化させており、その多くが北ドイツに集中している。

北ドイツには大きな電力需要がないために、工業地帯である南ドイツへ送電する必要があるが、高圧送電線の敷設が遅れている。そこで、北ドイツの風力発電で余った電力から水素を製造して活用するプロジェクトが増えているのである。

例えば、ドイツの首都ベルリンから北に120km離れたブランデンブルク州プレンツラウで進められている「プレンツラウ風力水素プロジェクト」では、合計6MWの風力発電で発電した電力を通常は系統網に送っている。しかし、夜など電力需要が小さく、電力が余剰になる場合には、水を電気分解して水素を製造してタンクに貯めておく。

貯蔵した水素は、必要に応じてバイオマスから製造したメタンなどの可燃性ガス(バイオガス)と混ぜて、コージェネレーション(熱電併給)システムに供給する。コージェネ設備では電気は電力系統網に流し、排熱は地域熱供給に販売する。水素の一部は、ベルリン市内などにある燃料電池車(FCV)と水素自動車向けの水素ステーションにも供給する、といった取り組みをスタートさせている。

水素を都市ガスのメタンに混合して燃料として使うハイタン(Hythane:水素混合都市ガス)のプロジェクトでも、風力発電からの水素を活用するプロジェクトが増えている。代表例は、ドイツの「パワー・ツー・ガス」である。E.ONやGreenpeace Energyといったエネルギー会社が風力発電の余剰電力を使って水を電気分解で水素に転換して、既存のガス配管網に供給している。

こうして余剰電力を有効活用すると共に、クリーンな水素を添加することでSOX(硫黄酸化物)やNOX(窒素酸化物)などの有害物質の排出を削減できる。既存の都市ガスインフラを活用できることから、水素社会へ移行するきっかけになるとみられる。

CO2フリー水素からメタンを製造

水素の形で都市ガスに混ぜるのではなく、都市ガスの成分であるメタンそのものを水素から製造しようという動きも活発化している。ドイツでは、Solar Fuelが再生可能エネルギーによる電力で水を電気分解して水素を作り、それをさらに空気中のCO2と反応させてメタンを製造するプラントを造って実証実験を進めている。

2009年には再生可能エネルギーの出力が25kWの試作機を稼働し、40%の効率でメタンを製造することに成功した。2013年にはそれを20MWにスケールアップし、本格実用化を目指している。同社の場合、製造したメタンをそのまま天然ガスのパイプライン(ガスグリッド)に供給することを狙っている。都市ガスインフラを活用でき、都市ガスをCO2フリーにできるメリットがある。

再生可能エネルギー由来の水素とCO2から作ったメタンを自動車に活用しようという試みも始まっている。自動車メーカーのAudi(アウディ)が進める「アウディ e-gasプロジェクト」だ。このプロジェクトでは、6MWの電力で水を電気分解して水素を生成し、その水素とCO2で年間1000tのメタンガス製造能力を持つ設備を、2013年秋から本格稼働させる(図2)。同社が販売しているCNG(圧縮天然ガス)車の燃料にしたり、公共ガスネットワークにも供給する計画だ。

太陽光発電からの水素を地域やビルに活用

太陽光発電の電力を使って水素を製造する試みも次第に増えてきている。有名なものとしては、フランス・コルシカ島の「MYRETプラットフォームプロジェクト」がある。太陽光発電システムの余剰電力で水を電気分解して水素を製造し、電力需要のピーク時や太陽光発電電力の平準化のために燃料電池で発電し、コルシカ島の系統網に送電する実験を進めている。

太陽光の場合には、ビルや住宅といった需要家の施設にも導入されていることから、施設内で太陽光の電力を水素に変えて活用するプロジェクトもスタートした。例えば、オーストラリアのグリフィス大学では、ビルの屋根に太陽光パネルを設置して、日中、太陽光が照っている時間にはその電力を施設内で直接使い、余剰電力は蓄電池に貯めると共に、電気分解による水素製造に利用する。生成された水素は、水素吸蔵合金に貯める。

蓄電池に貯めた電力は主に夜間にエアコン駆動などに使い、水素は曇天や雨天時に燃料電池を介して電力を供給するといった運用をしている。水素だけで同施設の1日分の電力を賄えるとしている。

化石燃料からCCSでCO2フリー水素化

化石燃料から水素を製造する手法については、天然ガス田や炭田を持つ現地でCCSによって、CO2フリーにする検討が進んでいる。長期的には貯留したCO2を炭素資源とする基礎研究も始まっている。同方法については千代田化工建設や川崎重工業など日本勢がリードしている。

千代田化工建設は、トルエンを水素化したメチルシクロヘキサン(MCH)によって、海外の天然ガス田などで製造した水素を輸送する方法を開発している(図3)。MCHは常温・常圧の液体で、気体水素の体積を500分の1にできる。水素を取り出すプロセスでエネルギーがかかるが、ケミカルタンカーやタンクローリーなど既存の輸送インフラを活用できるメリットがある。

一方、川崎重工業は、オーストラリアの炭田で産出される褐炭を原料に、CCSを併用してCO2フリーの液体水素を現地で製造し、それを船で日本に輸送するビジネスを推進している(図4)。液体水素を選んだのは、不純物を除去するなどの手間がかからず、輸送して直ちに使える点を評価したからだという。液体水素輸送船については、LNG船よりも低温に冷却するなど新規に開発する必要があるが、川崎重工は仕様を詰めており、事業化が可能と見ている。

千代田化工建設は水素輸送ビジネスを2015年度末から、川崎重工業は商用チェーンの本格稼働を2030年からスタートさせるとしている。両者ともに、稼働時の水素の輸入価格を約30円/Nm3(ノルマル・リューベ)としており、安価なCO2フリー水素を大量に供給する考えだ。これらが軌道に乗れば日本が世界の水素ビジネスをリードできる可能性を秘めている。

(日経BPクリーンテック研究所 藤堂安人)

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