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日米外交60年の瞬間 第5部

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池田勇人、一万田尚登が散らす火花 講和発効まで(8)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2013/3/16 7:00
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大きな政治課題である講和条約への署名は国内政局にざわめきを呼ぶ。これまでに吉田、トルーマンの日米両首脳の会見を紹介したが、日本側全権団の有力者である池田勇人蔵相、一万田尚登日銀総裁も1951年9月14日に帰国会見をした。

池田は後に首相になる。一万田も後に蔵相になり、首相への野心持っていた。だからか、ふたりの会見はそれぞれの職務を超える面もあった。

■「国際的視野」を強調した池田蔵相

池田、一万田は城山三郎の「小説日本銀行」でライバルとして描かれている。14日の会見内容をみると、城山の筆が「あの男」と呼ばせた池田に対する一万田のライバル意識が垣間見える。それは大蔵省に対する日銀のやや屈折した心理とも重なる。

一万田は1893年(明治26年)生まれで旧制五高を経て東大法学部卒、池田は1899年(明治32年)生まれで旧制五高から京大法学部卒である。一万田が6歳年上である。東大卒の一万田が、五高の後輩で、大蔵省で傍流にいた京大卒の池田を見下す気持ちになるのは、想像にかたくない。

後に来日したドッジ氏を迎える池田勇人蔵相(左)と一万田尚登日銀総裁(右)。1951年10月30日撮影=毎日新聞社提供

後に来日したドッジ氏を迎える池田勇人蔵相(左)と一万田尚登日銀総裁(右)。1951年10月30日撮影=毎日新聞社提供

風貌をみても、一万田はいかにも鋭利である。一方、池田は鋭いタイプではない。

会見で池田が語った要点のひとつは、「国際的視野」に立った経済運営であり、次のように語った。

「世界各国の人々は日本が第2次大戦にやったことはよくないが、いずれも過去の責任は追及せず、自由国家の一員として各国と協調していこうという考え方であった。したがって今後私が進める経済政策はいままでのように国内的見地ばかりではなく、大きな国際的視野が強まってくると思う」

国際的視野とは具体的にはフィリピンなどへの賠償であり、日米安全保障体制にともなう日本側の財政負担であり、国際通貨基金(IMF)への早期加盟などだった。政治面で自由主義陣営の一員になるのだから、経済面でもそれに応じた責任をはたしていく。その覚悟を語ったわけであり、このための財政負担が増える見通しを述べた。

一万田会見は「金融政策変更なし 公定歩合・日銀が裁量」と見出しがつく、当たり前の内容ではあった。

この物語でも既に触れたように、池田も一万田もサンフランシスコでドッジと会談していたから、記者からの質問もあったのだろう、一万田は蔵相のような発言をしてみせた。

「ドッジ氏とは2回会い、主に財政について話し合った。氏の考え方は従来と変わっていないが、もともと自分とドッジ氏の間には見解の相違はないので、特に新しい話は出なかった。つまり財政は今後とも均衡財政でなければならず、輸出増進に経済政策の重点を置かなければならないことはいうまでもない」

時代が下って2012年12月に誕生した安倍晋三政権が打ち出した「アベノミクス」は政府と日銀との関係が話題になった。政府が日銀の金融政策にどこまで関与できるかという、中央銀行の中立性をめぐる議論だった。

■財政語る一万田日銀総裁

1951年の日銀総裁は逆だった。法王と呼ばれた日銀総裁は金融だけでなく、財政も語った。

1951年
  12月24日
吉田首相がダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)
1952年
   1月18日
韓国、李承晩ラインを設定
   2月15日第1次日韓正式会談始まる
   2月28日日米行政協定に署名
   4月28日対日講和条約、日米安全保障条約発効、日華平和条約署名(8月5日発効)
1953年
   1月20日
アイゼンハワーが米大統領に就任。ダレスが国務長官に
   10月2日池田勇人自由党政調会長が訪米。池田・ロバートソン会談
  12月24日奄美群島返還の日米協定署名(25日発効)

無論、中央銀行総裁は金融だけを語り、財政は一切語れないわけではないが、法王・一万田は、やはり異色の総裁だった。現実に鳩山内閣、岸内閣で蔵相に就任するからである。

講和条約は外交問題であり、経済問題でもあったが、それらをひっくるめて重要な政局問題だった。

政治記者は衆院解散・総選挙の時期について観測記事を迫られる。吉田茂首相は14日の会見で「政府は任期いっぱい政策を担当し、国会解散は行わない」と述べたが、15日の日経には「総選挙遅くも明秋」の見出しの観測記事がある。

話は飛ぶが、結果的にそれは当たり、52年10月1日に総選挙が行われ、吉田の自由党は勝利する。サンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約を日本の有権者は評価したのである。

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