2019年8月18日(日)

日米外交60年の瞬間 第3部

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日経1面に載った米上院議員の死 サンフランシスコへ(9)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/10/15 8:12
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米ミシガン州のグランド・ラビッズで共和党のアーサー・ヴァンデンバーグ上院議員が亡くなったのは、1951年4月18日夜だった。日米間で再軍備をめぐる協議がなされるなかでの米上院の有力議員の死である。日本経済新聞の扱いは、今日の目からみると、興味深い。

■ヴァンデンバーグ決議

ヴァンデンバーグ氏は米上院での超党派外交の提唱者として知られ、上院議長も務めた有力者ではある。しかし妙な言い方になるが、仮にきょう、米上院の議長経験者が亡くなったとする。死亡記事は国際面ないし社会面に載るのが普通だろう。

60年前はそうではなかった。68歳で亡くなったヴァンデンバーグ氏の訃報は、1段見出しのいわゆるベタ記事ではあるが、1面に載った。いまはコラム「春秋」がある場所である。

それだけではない。やはりいま春秋のある場所に「ニューズダイジェスト」という時事用語解説のコラムがあった。いまの3面にある「きょうのことば」にあたるものだ。そこで「ヴァンデンバーグ決議」を扱っている。

占領下の51年当時の新聞編集者は、米議会の動きに今日よりも敏感にならざるを得なかったのだろう。「ニューズダイジェスト」が「ニュースダイジェスト」ではなく「ニューズ」と英語のままの発音で表記している点も時代を感じさせる。

さてヴァンデンバーグ決議はニューズダイジェストに次のように解説されていた。

 ▽…近く米国、豪州、ニュージーランド三国間に締結されるといわれている三国安全保障協定はヴァンデンバーグ決議の趣旨にもとづいたものといわれているが、ヴァンデンバーグ決議とは国連のワク内における安全保障のための地域協定に対する米国の基本的態度を表明したものである。その骨子は次の通り。
 ▽…(1)国連憲章の目的と規定に従い個別的、集団的自衛のための地域協定その他の集団的措置を採る。(2)永続的、効果的自衛と相互援助の原則にもとづき米国の安全に影響のある地域協定その他の集団的措置に参加する。(3)米国の安全を脅威する武力行使が起つた場合は個別的および集団的自衛権を行使する決意を明かにする。
 ▽…この決議案は十八日死去した故ヴァンデンバーグ上院議員によつて提出され一九四八年六月十一日に上院で可決された。

ダレスが「相互援助」という言葉を使うのは、このためである。相互援助は今なら「双務性」という例が多いようだが、お互いを助けるといった意味であり、日本に再軍備を求める根拠となる米側の政治的宣言である。

この決議は1960年の安保改定交渉の過程で再び脚光を浴びる。60年安保交渉は当然、後で詳しく触れるが、ヴァンデンバーグ決議との関連で先取りする形で簡単に説明しておく。

■60年安保交渉の「障害」に

60年安保改定の提唱者、岸信介首相は、51年9月8日、サンフランシスコで吉田茂が署名した旧安保条約を「相互援助条約」にしたいと考え、米側の日本防衛義務を明確にするよう求めた。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

その結果が別掲した新安保条約第5条1項になる。そこまでいく過程でヴァンデンバーグ決議が「障害」になった。

57年4月、日本側の北米2課長(現在の日米安全保障条約課長)が安川壮から東郷文彦に交代するにあたり、在京米大使館の一等書記官であるスナイダーは2人を招いた。この席で安川が日本防衛義務を話題にしたのに対し、スナイダーが持ち出したのがヴァンデンバーグ決議だった。

自助または相互援助により侵略に抵抗する力を強める用意があり、いざという時共通の危険に対して対処する決意のある相手でなければ、相互援助条約を結ぶことはできない、とヴァンデンバーグ決議を根拠にスナイダーは述べた。

話を51年に戻せば、当時の日本は自衛隊すらまだない。自助の手段さえなかったのから、ヴァンデンバーグ決議の縛りを受ける米国相手に吉田が結んだ旧安保条約が米側に軍の駐留と基地使用の権利だけを認め、日本防衛の義務を明記していないのは、やむを得ないことだった。

▼別掲

第五条

各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宜言{宜はママ}する。

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