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鉄道が子どもの成長に必要な理由

電車を見下ろせる橋や線路近くの公園に行くと、必ずと言っていいほど見かけるのが親子連れの姿。子どもは鉄道が大好きだ。だけど寝てもさめても電車のことばかりの子どもたちに、「こんなに鉄道好きで大丈夫だろうか」と疑問や不安に思うパパ、ママも多いのではないだろうか。そんな問いに対して、「鉄道は知育に効果がある」ときっぱり答えてくれたのが、大阪総合保育大学大学院専任講師の弘田陽介氏だ。

教育学の観点から『子どもはなぜ鉄道が好きなのか~鉄道好きの教育<鉄>学~』(冬弓舎)を著した弘田氏は、「子どもの遊びにおいて、鉄道ほど豊かな広がりを持つジャンルはほかにない」と指摘する。

電車にはさまざまな車体のデザインがあり、子どもたちはそれぞれの特徴を見出し、美しさを味わうことができる。実際に乗って、そのスピードを体感し、窓の外の景色を楽しむこともできる。路線図を見て、電車が走っていく姿を想像することもできるし、玩具で電車を走らせる疑似体験もできる。子どもの年齢に応じて多様な関わり方があるのだ。

子どもの「認識力」を高める

そして鉄道は子どもの成長にも一役買ってくれる。

一般的に子どもが電車に興味を持ち始めるのは1歳半~2歳の頃。プラレールやNゲージといった玩具は、実際の電車を縮尺し、デフォルメしたものであるにも関わらず、子どもたちはそれらを実際の電車と同じものだと認識する。

「初等教育において、この『認識する力』は非常に重要。形や数、言葉などの違いを認識し、理解する。この認識力こそ、人間の能力の基礎となる。電車はそれぞれ名前が違うし、形も色も違う。普段から電車に関心を持ち、外で電車の走る姿を観察し、家では玩具を通して電車の記憶を反芻(すう)する。現実の電車と玩具の電車がつながる。それによって子どもの認識力がさらに伸びるのです」。

親の関わり方もポイントだ。子どもが「でんしゃー!」と指差したときに親が無関心だと子どもの興味はそこで止まってしまう。「電車は速いね。〇〇線と〇〇線は形が違うね」という具合に親もきちんと応えることが大切。「子どもの認識力は大人が認めることで発達する」からだ。

3、4歳になると、興味の範囲がさらに広がっていく。電車ごっこをしたり、全国各地の電車の名称を覚えたり。路線の駅名をすべてそらんじる子もいるだろう。「これも子どもの成長には大切」と弘田氏。

「例えば、英単語の暗記や百マス計算などの単純作業は、暗記や計算そのものよりも、この機械的な訓練を通して知性を働かせていることに意味がある。鉄道を介して、駅名や漢字、路線図を覚えることも同じこと。覚えたものが役立つというよりも、むしろ幼いときから知性を働かせ、記憶するトレーニングを積んでいたことが、将来、勉強するうえで大きな力になっていくのです」。

電車の場合、車両の名前を次から次へと暗記したり、図鑑を読んで内容を丸ごと頭に入れたりしてしまう子も多い。また玩具を与えても、一つだけは満足せず、あらゆる車両を集めようとする。これらの行為は「所有原理」に関わることなのだという。

「所有原理とは自分の世界に没頭し、興味があるものを次々と網羅していくこと。電車のことを徹底的に調べ、頭に入れたり、玩具をすべて集めようとしたりすることはまさに所有原理にかかわる心の働きで、自我の形成にもつながる」のだ。鉄道は裾野が広く、しかも奥が深い。だからこそ所有原理を満たしやすいといえる。

この所有原理、実は学問の原理にも通じるという。

「算数一つ取っても、足し算があり、掛け算があり、割り算がある。学問には大きな全体像があり、順番に学ぶべきものがある。順番に学ぶべきものを一つずつマスターし、網羅していくことで全体像を築いていく。これが学問の原理。鉄道好きの子どもが鉄道に没頭し、鉄道に関することを次々と網羅していく行為は学問の原理にもつながっているのです」。

鉄道好きの子どもは鉄道をテーマに自分の世界を作り、玩具を集めたり、知識を吸収したりして、一つ一つ要素を積み上げていく。

「それはつまり全体像を意識しながら、"棚"を一つずつ作っていく行為に磨きをかけているということ。これが学校で勉強するときにも大きな力を発揮します」。

子どもは電車で遊びながら、認識力を高め、自我を形成し、学問の土台を作っていく。「こんなに電車好きで大丈夫?」と不安になることはないのだ。

(ライター 若尾礼子)

[日経Kids+(キッズプラス) 親子の鉄道大百科の記事を基に再構成]

 「日経Kids+(キッズプラス) 親子の鉄道大百科」では「大切なことに気付く鉄道の旅」特集のほか、「親子で過ごすゆる鉄&バリ鉄の時間」、「親子で行きたい東西鉄ビュースポット」、「親子で乗りたい!撮りたい!列車ランキング」などの記事を掲載している。

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