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ニュースアプリ大競争時代へ フェイスブックも参入

ブロガー 藤代 裕之

フェイスブックが新しいニュースアプリ「Paper」を公開した。プロモーション映像ではiPhone(アイフォーン)でニュースを閲覧しているシーンが使われている。国内でもニュースアプリ「SmartNews(スマートニュース)」が300万ダウンロードを超える好評で、スマートフォンでのニュース閲覧は世界的な流れとなりそうだ。新たな市場が生まれ、競争が始まっている一方で、スマホで提供されるニュースには情報の偏りが目立つという課題も顕在化してきた。

ニュースアプリは大競争時代に突入

フェイスブックの新しいニュースアプリ「Paper」を紹介する同社サイト

「Paper」はその名の通り新聞や雑誌のようにページをめくるようにニュースを閲覧できるアプリだ。スポーツや科学といった興味があるテーマを選ぶこともできる。日本国内では既に「Gunosy(グノシー)」「ヤフーニュース」や2ちゃんねるのまとめサイトを閲覧するアプリなどが登場し、ニュースアプリは大競争時代に突入している。

マスメディアの時代は、ニュースは新聞やテレビという既存のマスメディアが流す情報がほとんどだった。ソーシャルメディアでは会話を可視化し、友人や家族が何をしたかなど身近な出来事がニュースとなった。さらに、メッセンジャーやLINEの登場により、より身近な出来事がいつでも飛び込んでくるようになっている。ニュースは膨大になった。

新聞やテレビはコミュニケーションのきっかけにすぎなかった。スマホの登場により、ニュースを運ぶ媒体とコミュニケーションツールが一体化し、身体との距離も近づいた。

電通パブリックリレーションズが昨年9月に公表したインターネット上の「情報流通構造調査」によると、ネットで拡散される情報は、事件・事故が55.2%、日常生活の話題が51.0%、笑ってしまう面白い情報ネタが50.2%、政治系の話題が44.0%、アニメやゲーム、音楽など自分の趣味領域の話題38.2%となっている。

この調査を見ると、既存マスメディアで扱ってきた事件・事故や政治系の話題が多いようにも思うが、これらは性別や年齢によって微妙に異なる。事件・事故や政治系は男性では高く、日常生活は女性が高い。ネットで拡散するのも、既存マスメディアのコンテンツが強いというわけではない。そもそも年齢や性別によって、関心がある情報には偏りがあるということだ。ニュースは広く社会の出来事から、半径5メートルの出来事にシフトしつつある。

ポータルサイトの社会的意味

ほぼ同じ時間帯のスマートニュース(左)とグノシーの画面(筆者のスマートフォンで)

ネットの一部には「すべての人々が知っておくべきニュースなどない」「バランスよく情報を伝えるという考えは編集側のエゴだ」という意見が根強く存在する。だが、バランスの良いニュース編成が人々の情報に与えるよい影響は意外にありそうだ。

2011 年12月の北朝鮮の金正日総書記の死亡についてどう広まったかをインターネットで調べた、李光鎬氏・鈴木万希枝氏によるニュースの普及課程研究がある。金正日死亡ニュースを「知らなかった」と回答したのは0.6%しかいない。ニュースの発生から1時間で34.2%が、2時間で 50.4%の人々に普及していた。情報源はテレビが多かったが、ポータルサイトも大きな割合を占めており、「ポータルサイトは、普及の初期段階においてニュースを広める重要なチャンネルとして機能し、普及速度を早めることに貢献していることが発見された」としている。

金正日死亡のニュースは、身近な生活に直接影響がある訳ではない。既存マスメディアのニュース価値判断からすれば「1面トップ」の扱いだろう。北朝鮮や東アジア情勢、外交に興味がない人がいる中で、知るべきニュースの概要を伝えることができるポータルサイトが新聞やテレビと同じように、バランスよく各ジャンルをユーザーに見せてきたことは、社会的に大きな役割を果たしてきたといえる。

だが、それはPC時代のことだ。スマホ時代は多様なアプリの競争が行われ、ユーザーがニュースを閲覧する手段が分断されつつある。

情報の偏りに気付かない

ニュースアプリやまとめサイトなどは、特定の目的を持って利用することが多い。MITメディアラボを立ち上げたニコラス・ネグロポンテ氏が提唱した自分のための電子新聞「デイリーミー」は、パーソナライゼーションとしてすでに実現している。問題意識を持ち、さまざまな情報を閲覧している人ほど、知らない間にシステムにより最適化され、偏った情報に埋もれてしまう可能性がある。

先ごろ話題となったSTAP細胞を開発した研究者について、「日本の新聞はかっぽう着ばかりに注目し、研究について詳しい説明がない」という見方が広がったが、実は各新聞社ともに紙面では多くを研究に割いていた。ツイッターやフェイスブック、ニュースアプリで紹介される記事は単独で、新聞やテレビ、ポータルサイトが整えていた「パッケージ」が崩れてしまい、研究に割いた記事は目に触れなかったのである。

また、これまで記事を無料でネットに公開していた新聞社が、有料の電子新聞への取り組みや課金のためにネット上に流す記事を絞りつつあることも偏りを助長する要因となっている。記事をネットで見つけても、会員登録を行わなければ一部閲覧できないことも多くなってきた。ニュースアプリも、コンテンツ提供元との調整によって閲覧コンテンツが限られていることがある。

忍び寄る分断化の危機

昨年9月に、法政大学の授業内で学生を対象に「前日見たニュースを3つから5つ挙げ、どの媒体で見たか教えてほしい」というアンケートを行った。最も多くの学生があげたのが、西武の石井一久投手が引退して吉本興業の契約社員になったというニュースで103人のうち16人、次がTBSのドラマ半沢直樹の最終回の視聴率が関東で42.4%と高かったというニュースで、15人だった。

2つのニュースの接触先が興味深かった。石井投手の引退はテレビが7人、ツイッターが5人、ヤフーが2人、2ちゃんねるが1人、携帯サイトが1人だった。半沢の視聴率は、ヤフーが5人、ツイッターが4人、テレビが2人、2ちゃんねるが2人、メールが1人、バイト先の店長(対人)が1人だったことだ。

学生はさまざまなルートでニュースに接触しており、ニュース閲覧の分断化の危機はすぐそこにあるとも言える。スマホの登場により、人々は自分が見たいニュースに触れ、それに賛同する人々とソーシャルメディアでつながる反響室に閉じこもることが可能になった。バランスの良い情報接触を人々のリテラシーだけに求めるのには無理がある。ニュースアプリは、何十万人、何百万人もの人が使うようになっており、ニュースの流通に大きな役割を果たすようになっている。運営者はニュースをバランスよく提供する社会的責任がある。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。

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