/

「緩和効果に限界」日銀の金融政策、新たな局面に

デフレなど経済構造解決、官民に訴えるが…

日銀の金融政策運営が新たな局面に入ろうとしている。連休の谷間の4月30日に開いた金融政策決定会合では「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」をまとめ、2011年度に物価が上昇に転じる見通しを提示した。同時に、経済成長を促すための金融機関向けの新たな貸出制度を創設する方針も表明した。物価が上昇しても本当の意味でのデフレ克服とは言えず、金融緩和は長期にわたって継続する。その一方で金融政策の限界も認め、経済の構造問題の解決を訴える――。おぼろげながら見えてくるのは、こんな姿だ。

展望リポートは、新興国の高成長をテコに国内景気の回復傾向が続き、消費者物価も11年度には3年ぶりにプラスに転換するシナリオを打ち出した。だが、単に明るいだけの見通しを描いたわけではない。象徴的なのが「基本的見解」の冒頭部分。構造問題に関する記述をこれまでになく手厚くした。

新興国の存在感の高まりと、先進国の急速な財政の悪化。そして金融危機の再発を防ぐための金融規制の見直し。「世界経済は、危機以前の状態に戻る過程にあるわけではない」。リポートはまず、グローバルな視点での構造変化や課題をこう整理した。そのうえで、今後の日本経済について少子高齢化や人口減少に起因する内需の減少が避けられないとして「実質成長率や生産性を引き上げていくことが重要な課題」と指摘し、成長力の強化に向けた官民の取り組みの重要性を唱えた。

ここで、デフレ問題が絡む。白川方明総裁は30日の記者会見で「デフレは日本経済が抱える根源的な問題がいわば集約的に表れた現象だ」と表明した。バブル経済の崩壊後の長期低迷から抜け出せないまま、人口減少社会に突入した日本。先行きの成長期待を持てなくなった企業や家計は積極的な経済行動ができなくなっている。それが需要不足の定着につながり、日本の「デフレ体質」を生んだ。総裁を筆頭に、日銀主流派はこうみている。

11年度中に物価が上昇に転じても、日本の経済構造を変えない限り、デフレ体質は根治しない――リポートや総裁会見から導き出される1つ目の結論は、こうなる。さらにリポートでは、中長期の望ましい物価上昇率について「2%以下のプラスの値で、1%程度が中心」とする見解も確認した。シナリオ通り11年度に物価がプラスになっても、直ちに金融緩和の「出口」に向かうわけではないという強いメッセージだ。金融緩和の長期化を市場に事実上約束して緩和効果を強める「時間軸効果」をこれまで以上に意識している。

 一方、構造問題を強調したことは「金融政策の限界」を認め、経済成長力の引き上げを重視する立場をより鮮明にしたことを意味する。これが2つ目の結論だ。成長を促す新たな貸出制度の創設は、単純な追加緩和策ではない。成長分野や研究・技術開発への融資に積極的な金融機関に対し、有利な条件で日銀が資金を供給する仕組みを検討中だが、日銀内には「あまり利用されない」との見方が多い。むしろ成長力の向上に向けた官民の取り組みを刺激しようという狙いが強い。

日銀関係者によると、新制度の構想は展望リポートでの構造問題に関する記述を検討するなかで、にわかに浮上した。政府の税制改革や産業創出策、金融機関の融資先の開拓、民間企業の創意工夫――。日銀はデフレ体質の克服に向け、官民の包括的な取り組みに期待する。だが「何も行動せずに注文ばかりつけても、だれも聞いてくれない」(幹部)。中央銀行として「邪道」とも言える金融機関の融資先に関与する施策にあえて乗り出す背景には、こんな思いがある。

新制度の創設は、「資金量」に目標を置いた量的緩和政策の導入や国債買い取りの大幅な増額など、際限のない金融緩和を迫られることに対し、予防線を張ったとみることもできる。だが政府・与党内では「デフレ克服の責任は日銀にある」との声が圧倒的だ。財政政策の手足が縛られるなかで、潜在的な金融緩和圧力は高まっている。思惑通り緩和圧力をかわし、経済政策の議論を構造問題の解決という日銀の考える「本丸」に導けるかどうかは不透明な面が多い。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン