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素材を生かし、「無垢」を追求するアップルのモノ作り

 現地時間6月11日、米国サンフランシスコで米アップルの「WWDC(Worldwide Developers Conference)2012」が始まる。アップル製品向けのソフトウエアなどを作る開発者向けの定例イベントだが、過去に「iPhone 4」や「MacBook Pro」が発表された経緯があり、競合や消費者の注目も高い。スティーブ・ジョブズ氏の没後初となる同イベントで、果たしてiPhoneなどの次期製品は披露されるのか。それは市場に革新をもたらす機能やデザインを備えているのか。本記事ではWWDCに先立ち、これまでのアップル製品の根底に流れる共通のデザインコンセプトとそれを具現化する加工技術の変遷を追った。

アップルの前CEO(最高経営責任者)であるジョブズ氏の自伝『スティーブ・ジョブズ』(講談社)の中で、デザイン決定プロセスの一端がデザイン担当のジョナサン・アイブ上級副社長によって明かされている。

ジョブズ氏は毎日ふらりとデザイン室にやってきて、そこで作られているモデルを見て、触って回りながらコメントをしていたと言う。公式なデザインレビューがなく、毎日こうしたやり取りを続けながら製品のデザインが決定される。極めて流動的なやり取りだ。

モデルに触りながら体でデザインを感じ取る。そんなやり方で、アップルが得意とするシンプルなデザインの商品が作られるとすれば、おのずと重視されるのは製品の質感や手触りになるはずだ。

流動的なデザインの要は「無垢な素材」

その質感重視の表現でアップルが大切にするキーワードが「無垢(むく)」ではないかと、リーディング・エッジ・デザイン代表で国内外の工業デザインの賞を多数獲得してきたプロダクトデザイナーの山中俊治氏は分析する。

アップルの最新スマートフォン「iPhone 4S」では、1枚のガラス板を金属のフレームでかしめただけのイメージでデザインを行った。そしてアルミニウムの1枚の板を削り出して作る「ユニボディー」構造の製品の数々…。

「無垢な素材の塊からふっと画面が表れて、ユーザーと対話をする。ソリッドなハードと、自在に変化するソフトの対比をデザインに持たせることで、まるで別の世界や未来からやってきた製品のような印象をユーザーに与える」(山中氏)のだ。

進化する「ユニボディー」技術

アップルの「無垢」なイメージを実現する大切な技術の1つが、アルミニウムの板を削り出して筐体を作る「ユニボディー」だ。日経デザイン誌は今回、iPhone 4Sのほか、小型の携帯音楽プレーヤー「iPod nano」、MacやiPodやiPhoneを操作できるリモコン「Apple Remote」などのアップル製品を分解・切断してその構造を山中氏と調査した。

そこで分かったのが、削り出し技術の急速な進化だった。

初代「iPad」の筐体(きょうたい)の内側には、段状の削り出し跡が見られ、真上から粗く削り出すだけだったことをうかがわせる。一方で「iPad 2」では、ほとんど削り跡が見えないように削られていることが分かる。さらに、サイドカッターと呼ばれる側面を削るドリルなど、特殊な形状のドリルを多数使うことで、アンダーカット(一方向からの加工では刃が届かない形状)の部分を多数作り出した。これにより、さらなる薄肉化や部品点数の削減を実現したのだ。

この進化した加工技術をフルに活用して作ったのが、Apple Remoteである。継ぎ目が一切なく、完全に閉じた1本の金属バー。どうやって中に部品を入れたのか「まるで魔法のようなアセンブリーだ」(山中氏)。

Apple Remoteの実際の作り方は、操作部や電池を入れる穴を5つ開け、そこから先ほどのサイドカッターなどを使って、空間を広げ、穴同士をつなげながら1つの大きな空間を作ったと推測できる。そこに基板などの部品を詰め込むという作業を行っているようだ。

こうした周辺機器のデザインまで徹底的にこだわり抜く点も、実にアップルらしいといえよう。

加工メーカーに定期的なプレゼンを求める

アップル自身は工場を持たない。だが、こうした絶え間ない技術の進化を実現するためには、筐体を製造する工場とアップルのデザイナーが一体になった研究開発が必要となる。

例えばアップル製品の筐体を製造する加工メーカーは「我々の存在がアップルにとってどんなメリットがあるのか、アップルの幹部を前に定期的にプレゼンするよう常に求められる」と告白する。

ただの下請けとしてメーカーの指示どおりに作っていたら、アップルとの良好な関係を続けられない。生産性向上の提案や、新しいデザインを実現できそうな技術提案など、協力加工メーカーも必死になってアップルと研究を行う態勢を作っているのだ。

異常なまでの細部へのこだわり

こうした無垢へのこだわりは、素材選びから始まる。アップルのモノ作りに携わる、ある関係者は「アルミやステンレスなど外装に使う素材はすべてアップルが独自に基準を定めて素材メーカーに特別に作らせている、いわば『アップル仕様』。汎用的な素材を使うことを極端に嫌う」と明かす。

さらに、アップルはその素材の使い方にも細心の注意を払う。例えばタブレット端末のiPadやノートパソコンの「MacBook」などで使っている、陽極酸化処理と呼ばれるアルミニウムの表面処理。製品の大きさや、どの程度手に触れるのかなど製品の使用条件によって、色みや輝き方、触り心地などが微妙に違う処理を採用している。これは製品の特性にふさわしい手触りや輝きなど得るためだと考えられる。

アップルはさらに、同じ商品に使うアルミニウムでも、部品ごとに素材の種類を使い分けている。例えば「MacBook Air」。この商品の底面に使われているのは、A5052と呼ばれる圧延材のアルミ。加工性と強度のバランスが優れた素材で、デジタルカメラなど多くの製品で使われている一般的な素材である。しかしA5052は陽極酸化処理を行ったときにわずかに暗く見え、また梨地(なしじ。梨のような少しザラザラした手触りになるよう加工した面)を作ると圧延した方向にほんの少しだけ筋が出てしまう。

通常なら誰も気にしないほどのほんのわずかな欠点だが、アップルはここにもこだわりを見せる。天板など人の目に触れる機会の多いパーツにA5052を使う代わりに、切削性が悪いが梨地が均一に広がり明るく見えるA6063アルミニウムをあえて使用。理想を極限まで追求したデザインを生み出せるよう、どんな細部も見逃さずに素材選択を行っている。

[日経デザイン編『アップルのデザイン』(日経BP社)を基に再構成]

[参考]日経デザイン誌の単行本『アップルのデザイン ~ジョブズは"究極"をどう生み出したのか』(1890円、電子書籍版を5月29日に発売)で、iPhoneやiPadなどのプロダクト自体はもちろん、画面インターフェース、パッケージ、店舗空間、広告・グラフィックデザイン、知的財産権戦略に至るまで、アップルデザインの真髄を解剖した。この単行本に登場するデザイナー、山中俊治氏などを講師とするセミナー「新しい感動と使い心地を与える『デザイン』と『素材』」を6月22日に開催。http://expo.nikkeibp.co.jp/nd/ を参照。

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