市街地で使える無料の公衆無線LAN、京都や福岡で整備相次ぐ
外国人観光客の利便性向上、災害時の連絡手段も念頭に
スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)やパソコンなどを使って、誰でも無料でインターネットに接続できる公衆無線LANサービスを、地方自治体が主体となって整備する例が増えている。京都市が市街地を中心として、630カ所にアクセスポイント(AP)を設置するほか、12年4月にサービスを始めた福岡市は地下鉄全駅をカバーするなどAPを拡充している。外国人観光客などに無料の通信手段を提供することで利便性を高めるほか、東日本大震災を契機として災害時の連絡手段に公衆無線LANを活用することも念頭に置いている。
バス停のほか、地下鉄、コンビニに展開
京都市は4日、無料の公衆無線LAN「京都どこでもインターネット KYOTO_WiFi」を8月中旬から提供すると発表した。まずは京都駅周辺のバス停から順次APの設置を進め、13年3月末までに500カ所を整備する予定。さらに市内のバス停350カ所や地下鉄の全31駅、コンビニエンスストアのセブンイレブン130店舗、役所や観光案内所、観光駐車場などの公共施設120カ所など、計630カ所にAPを設置する計画だ。「中心部の市街地であれば、2~3分歩けばほとんどのところにバス停やセブンイレブンがある。全域を途切れなく網羅するとはいかないまでも、すぐにAPを見つけられるようになる」(京都市観光MICE推進室の畑中伸夫氏)。

公共施設のAPは通信機器・回線を扱う販売代理店のインフィニティ(京都市)が、それ以外のAPはKDDI(au)が運営を担う。京都市では同サービスのAPについて、ほかの公衆無線LAN事業者からの要望があれば共用APとして開放することを2社に求めており、将来はKYOTO_WiFiのAPで複数の有料公衆LANサービスを利用できる可能性もある。APからインターネットにつながる中継回線(バックホール回線)は、公共施設ではNTT西日本の光ファイバー、それ以外ではKDDI傘下のUQコミュニケーションズのWiMAXを使う。
公共施設では利用時間の制限がなく、開館時間中はずっと無料で利用可能。バス停やセブンイレブンなどでは連続利用が3時間に達すると強制切断されるが、ワンタイムパスワードを取得すれば再び接続できる。なお災害時は認証が不要となり、APに接続するだけでインターネットを利用できるようになる。
利用者はまず、使い捨てのパスワード(ワンタイムパスワード)を得るために、AP周辺のステッカーに記載されたメールアドレスに空白のメールを送信する。そのあとスマホやパソコンなどでAPに接続し、返信されたメールに記載されたワンタイムパスワードを、Webブラウザーで入力することで認証が完了する。なお、ワンタイムパスワードの入力前はAPに接続できないため、外国人旅行者もAPの利用開始時のみ国際ローミングなどの携帯電話回線を使い、ワンタイムパスワードを入手する必要がある。
福岡や浦安でも広がる無料無線LANサービス
無料の公衆無線LANサービスを設置する動きは、ほかの自治体でも相次いでいる。
福岡市では、4月27日に無料の公衆無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」を開始。当初は地下鉄空港線の各駅と市役所ロビー、中心部の天神地区にある観光案内所などで提供していた。6月29日には、地下鉄のAPを全線全駅に拡充したほか、福岡空港や博多港のターミナル、博多駅の観光案内所でもサービスを始め、APは合計41カ所となった。このほか、天神の地下街でも民間事業者による無料の公衆無線LANが利用できる。
東京ディズニーリゾートのお膝元である千葉県浦安市は浦安商工会議所と共同で、市内の公共施設やホテル、飲食店を中心に11年度から3年間で2000カ所のAPを新設する計画を打ち出している。12年4月時点で約130カ所にAPを設置したほか、Android(アンドロイド)搭載スマホで利用できる無料のアプリを開発し、12年2月から提供している。
外国人観光客の不満解消を主眼に
いずれの自治体も、外国人観光客が多く訪れる地域。自治体が無料無線LANを提供する大きな目的として、外国人観光客の利便性の向上を掲げている。観光庁が12年3月に公表したアンケート調査によると、旅行中困ったこと(複数回答)の1位は「無線LAN環境」で36.7%。2位の「コミュニケーション」(24.0%)、3位の「目的地までの公共交通の経路情報の入手」(20.0%)を大きく引き離し、ほぼ3人に1人が不満を持っている。日本では、外国人登録のない観光客がプリペイドなどの携帯電話回線を持つことができないほか、国際ローミングやレンタル携帯などのサービスは1日数千円のデータ通信料がかかるなど高額で、外国人観光客が気軽に使える通信手段はほとんどないのが実情だった。
こうした状況を踏まえ、観光庁が外国人観光客向けの通信環境の整備を重点施策として掲げるなど、打開に向けた動きが進んでいる。自治体による無料無線LANの整備もその一環といえる。
国や自治体などの行政以外の動きもある。国際空港では成田・羽田・中部・関西などで、各ターミナルビルの運営会社が、海外のハブ空港への対抗策の一環として無料APの整備を進めている。またスターバックスコーヒージャパンは、7月2日にサービスを開始した無料無線LANサービス「at_STARBUCKS_Wi2」において英語のメニュー画面を用意しており、外国人も簡単に利用できるよう配慮している。
(電子報道部 金子寛人)
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