IPv4アドレス中央在庫がついに枯渇、ただし「これは通過点」
4組織が式典と記者発表会を開催

世界中のIPv4グローバルアドレス管理の大元であるIANA(Internet Assigned Numbers Authority)は米国時間の2011年2月3日、最後に残ったIPv4グローバルアドレス5ブロックを、世界に五つある地域インターネットレジストリー(RIR)にそれぞれ一つずつ割り振った。これをもって、ついにIPv4グローバルアドレスの中央在庫が枯渇した。
今回の割り振りは、以前から決まっていた「IANA在庫が最後の5ブロックになった段階で、各RIRに1ブロックずつ割り振る」というポリシーに従って実行されたもの。既に米国時間の1月31日には、IANAがアジア太平洋地域のRIRであるAPNICに2ブロックを割り振っており、未割り振りの領域は5ブロックとなっていた。なお、ここで言うアドレスブロックは「/8」というサイズで、実際には1677万7216のIPv4アドレスの固まりを指す。
IANA在庫の枯渇を受け、Number Resource Organization(NRO)、Internet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)、Internet Society(ISOC)、Internet Architecture Board(IAB)は米マイアミで、2月3日9時30分(日本時間の午後11時30分)から、「インターネットの歴史における重大な節目となる」という式典とプレスカンファレンス(記者発表会)を開催した。式典では五つのRIRの代表者に対して、最後のIPv4グローバルアドレスブロックの割り振り証書が手渡された(写真1)。
IANAが公開している「IANA IPv4 Address Space Registry」によると、「102.0.0.0/8」がアフリカ地域のAfriNIC、「103.0.0.0/8」がアジア太平洋地域のAPNIC、「104.0.0.0/8」が北米地域のARIN、「179.0.0.0/8」が南米地域のLACNIC、「185.0.0.0/8」がヨーロッパ、中東、中央アジア地域のRIPE NCCにそれぞれ割り振られたもようだ。
「日本の『節分』に当たる日に良き門出」

日本を含むAPNIC地域の代表として登壇したAPNICのDirector GeneralであるPaul Wilson氏(写真2)は、「2月3日は日本においては『節分』とされ、悪を払って新しく春の季節を迎える日。また、今は旧正月(春節)の期間でもあり、寅から卯に年が変わるときだ。新しい挑戦を始める節目には良い日だと思う」とコメント。アジア太平洋地域の行事を引き合いに出して、インターネットも新しい節目を迎えたことを強調した。
Wilson氏によると、「APNICが担当する地域は世界のほぼ半分の人口を占めている。その中には大きな経済成長を遂げつつある国が含まれ、それだけIPv4グローバルアドレスの消費量も大きい」とのこと。
APNICは1月31日に割り振られた2ブロックと今回の1ブロックを合わせ、3ブロック分の在庫を持っていることになる。
ただし、「現時点では他のRIRと比べても最も多くの在庫を持っていることになるとはいえ、我々の予測ではそれもやがて枯渇していくだろう。IPv4だけでなく、次世代のIPv6も含めて、正しいアドレス管理が求められる。そしてIPv6への対応状況がどうなるかが、APNICでも世界の他の地域でも今年の課題となる」(Wilson氏)と、IPv6の重要さを語った。
プレスカンファレンスには、ICANNのPresident and CEOであるRod Beckstrom氏、NROのChairであるRaul Eceberria氏、ISOCのPresident and CEOであるLynn St. Amour氏、IABのChairであるOlaf Kolkman氏が参加。質疑応答ではマイアミの会場に居合わせた報道陣だけでなく、メールや電話を使って世界各地の記者から質問が寄せられた。
「在庫枯渇後に、IPv4グローバルアドレスを取り引きするブラックマーケットが登場するのではないか?」という質問が飛び出すと、Eceberria氏は「実際にブラックマーケットでの取り引きが出てくるかどうかは定かではないが、その可能性はある」とコメント。「既に一部のRIRでは、必要以上に多数のアドレスを持つ組織から、新規にアドレスが必要な組織に向けて『移転』ができるようになっている。『移転』システム以外で取り引きされるIPv4グローバルアドレスも出てくるだろうが、その数は少数だろう」(Eceberria氏)という。
Beckstrom氏は「(IPv4からIPv6へと)プロトコルが変わる節目というだけでなく、インターネットが発展し、世界中の人たちがつながったことを実感できる重要な日と言える。インターネットが立ち上がったときは、まさかここまで大きくなるとは考えられていなかった。35年前、IPv4ネットワークは実験だったのだ。この実験は成功し、想像もつかないほどの成長を迎え、世界中の人たちの生活を塗り替えた。そして、いまIPv6という新しいアドレス体系が必要になるに至った。スマートフォンなど新しい端末がインターネットにつながるようになれば、今後ますますアドレスが必要になる。巨大なアドレス空間を持つIPv6という、新しい世界に移行することが重要だ」と、次世代のIPv6への期待感を語った。

とはいえ、既存のIPv4ネットワークがすぐになくなるわけではない。IPv4からIPv6への完全移行については「数カ月ではなく、数十年単位の時間がかかるだろう」(IABのChairであるOlaf Kolkman氏)と、共存期間がしばらく続くとの見方を示した。
「IANA在庫枯渇は本当の枯渇への前触れに過ぎない」
プレスカンファレンスの模様は、インターネットイニシアティブ(IIJ)、インターネットマルチフィード(MF)、日本インターネットエクスチェンジ(JPIX)、日本レジストリサービス(JPRS)の協力で、日本語の同時通訳を付けてUSTREAMで中継された。中継会場にはAPNIC Executive Council Chairで、JPNIC インターネット推進部 部長の前村昌紀氏(写真3)が登場し、「IANA在庫枯渇は前触れに過ぎない」とカンファレンスの補足説明を行った。
IPv4グローバルアドレスは階層的に管理されており、IANAからRIRへ、RIRから国別インターネットレジストリー(NIR)へ、NIRからローカルインターネットレジストリー(LIR)へ、LIRから企業や個人などのユーザーへと、順番に割り振られていく。未割り振りのIPv4アドレスは、階層構造の上位の組織から順番に在庫がなくなっていく。
LIRであるプロバイダーやデータセンターなどにとっては、NIRであるJPNICの在庫が枯渇したタイミングが、いよいよ新しくIPv4グローバルアドレスの割り振りを受けられなくなる「本当の枯渇」と言える。同じように、エンドユーザーにとっては、プロバイダーやデータセンターの在庫枯渇が「本当の枯渇」になる。なおJPNICとAPNICは在庫を共有しているため、両組織の在庫枯渇は同時に起こる。

前村氏は、「APNICならびにJPNICの在庫枯渇時期は、だいたい2011年中盤と見ている」とコメント。これまでAPNIC/JPNICの在庫枯渇時期は2011年後半と言われてきたが、「APNIC地域ではかつてないほどの勢いでインターネットが拡大し、アドレスの需要が高まりつつあることから、在庫枯渇時期はもっと早まる可能性があると考えた」(前村氏)という。
APNIC/JPNICの在庫の残りが「/8」1ブロックになるまでは、JPNICはこれまでと同じように、各組織の需要に従ってIPv4グローバルアドレスの在庫を分配する方針。ただし、最後の「/8」を残すだけとなった段階で、「新規に割り振るアドレスブロックは最小単位の『/22』に限る」というポリシーを適用する予定だ。
しかも、「IPv4インターネットへの接続を維持しながら、枯渇後の状況に備えるために必要と想定される分のアドレスとして、所定の要件を満たすことで一度に限り割り振りが行われるもの」だという。「/22」は1024個のIPv4グローバルアドレスの固まりのことである。
前村氏とともに会場でカンファレンスの解説を担当した東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏(写真4)は、「IPv4の在庫が枯渇していく中で、持続性のあるサービスをどのように構築していくかを考える必要がある。今回のカンファレンスで明らかにされたポイントの一つは、様々なステークホルダーが協力し、情報交換をしながら役割を果たしていく必要があるということ。日本はこれまで積極的にIPv6技術を推進してきたが、今後も引き続き取り組んでいきたい」と締めくくった。
なお2月4日未明、APNICとJPNIC、IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースはそれぞれ、IANAのIPv4アドレス枯渇に関するプレスリリースを出している。
(日経NETWORK 山崎洋一・田村奈央)
[ITpro 2011年2月4日掲載]
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