2019年8月23日(金)

日米外交60年の瞬間 第3部

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朝鮮交渉が決裂含みに サンフランシスコへ(48)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2012/7/14 7:00
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休戦会談の場所を移すと国連軍が提案するかもしれない――。原稿を書いたチャップマン記者が忙しいなかを取材に駆り立てた事実があった。

サンフランシスコ会議をにらみ、朝鮮では戦闘が激化しただけでなく、戦闘激化を理由に双方の軍事当局者間の舌戦も激しくなっていたのである。

■繰り返す舌戦

1951年9月2日午前11時30分、北京放送が朝鮮人民軍総司令・金日成と中国人民義勇軍総司令・彭徳懐は、リッジウェー国連軍総司令官に抗議声明を送ったと伝えた。

声明は、9月1日午前0時30分に国連軍の軍用機1機が開城(ケソン)中立化地帯に不法に侵入し、爆撃したと抗議した。共産側は8月22日夜にも共産側の代表団宿舎を爆撃したとし、「今度の行為は、このような極めて重大かつ挑発的行為を繰り返した」とした。

声明は「もし交渉を決裂させると決定しているのならば、かかる卑劣な挑発をやめはっきりとその決定を宣言すべきだ」と述べている。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

国連軍側は22日の攻撃との指摘にも、調査の結果として事実関係を否定したが、今回も同様だった。発表の手順も前回と同じだった。

つまり北京放送が共産側の声明を放送するのに先立ってジョイ国連軍首席代表の回答書を発表した。中身にはすれ違いがある。

回答書は8月30日に国連軍が板門店などを攻撃したとの共産側の抗議に対する否定の声明だった。当該地域には国連軍部隊はいなかったとし、「不正規兵がやったと推定するのが合理的」と述べる。共産側の統制不足をつく内容である。

そして重要なのは国連軍側も共産側の抗議を休戦会談再開の妨害と指摘していた点である。共産側も国連側が決裂を意図しているといっていた。兵器だけでなく、言葉を使った戦いが展開されていたのである。

9月1日までに共産側による抗議は全部で7回に達していた。国連軍側はいずれも事実関係を否定した。なかには共産側のねつ造と反論した例もある。

共産側の狙いは明らかだった。国連軍が中立地帯を攻撃したとの抗議は、いわば道義的攻撃である。米国の世論は本来これに弱いから、揺さぶりとなる。そう考えたのだろう。

これを避けるために先手を打つ形で否定声明を発表した。のみならず、国連軍の健闘も積極的に伝えた。

例えば米第5空軍司令部は、9月2日午後、米空軍のF86戦闘機が新義州から平壌南方の間で共産軍のミグ15戦闘機と長時間の戦闘をし、ミグ4機を撃墜したと発表した。ミグ15は数の上ではF86の2倍あったといわれるから、激しい戦闘だったのだろう。短い発表は米側の犠牲があったかどうか触れていない。

■トルーマンがワシントンを出発

歴史の後知恵ではあるが、世界全体の冷戦状況を別にすれば、朝鮮の休戦交渉で双方が食い違っていた点は、いま考えれば、それほど大きくなかった。それは南北の線引きだった。国連軍側は現在の休戦ラインとほぼ同じ当時のラインを主張し、共産側は38度線を要求した。

サンフランシスコに到着したトルーマン米大統領(左)=毎日新聞社提供

サンフランシスコに到着したトルーマン米大統領(左)=毎日新聞社提供

朝鮮休戦交渉の舞台だったケソンも、対日講和条約会議が開かれたサンフランシスコも、ともに米国とソ連、中国など共産主義陣営との冷戦の場だった。当時の出来事を少し拾うだけでも、それはわかる。

熱を帯びた冷戦という表現は、言葉としてはおかしい。が、当時の世界は、そんな状況だった。

しかも朝鮮半島で繰り広げられていたのは冷戦ではなく熱戦だった。熱戦と冷戦を戦う一方の旗頭、トルーマン米大統領は9月3日午前8時(日本時間8日午後10時)大統領専用機インデペンデンスでワシントンをたった。

いまワシントンとサンフランシスコは約5時間の飛行時間だが、プロペラ機の時代である。当時は10時間かかった。同じ国のなかを移動するのに10時間かかったのである。

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