2019年8月24日(土)

日米外交60年の瞬間 第3部

フォローする

対日講和めぐる米英の溝埋まる サンフランシスコへ(13)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/11/12 7:01
保存
共有
印刷
その他

1951年4月は、どんな時期だったか、改めて振り返ってみる。

日本列島の目と鼻の先にある朝鮮半島では戦火が続き、日本自身は講和による独立を目指していた。だから第2次世界大戦の戦勝国である連合国の内政にも、いまよりも敏感だった。したがって、意外に思われるかもしれないが、60年前の日本の新聞は、いまよりもずっと国際ニュースを大事に扱っていた。

■英米の主役交代

ダレス演説を伝えた4月24日付日本経済新聞朝刊1面には2段見出しで「英内閣崩壊の危機」というAP電が載っている。ベヴァン労働相、ウィルソン商相の辞任のニュースである。ウィルソンとは1974年に首相に就任するハロルド・ウィルソンである。アトリー労働党内閣の危機である。

アトリーが政権についたのは1945年7月5日の総選挙の結果である。そのとき英国首相だったチャーチルは第2次大戦終結に重要な意味を持つポツダム会議に出席していた。

英国政治の成熟度を示すのか、このとき、チャーチルは労働党党首だったアトリーを伴っていた。チャーチルには選挙に敗れる予感があったわけではないらしいが、結果は労働党が勝利し、チャーチルの保守党は惨敗して政権を離れた。

戦争が終わっていないのに英国民は政権交代を選択した。理由はさまざまだが、1938年のミュンヘン会議で保守党のチェンバレン首相によるヒトラーへの宥和(ゆうわ)政策もそのひとつとされる。

欧州を戦場にしたきっかけとなった宥和政策の過ちは明らかだった。連合国がドイツを破り、日本も間もなく降伏する状況で英国の有権者は、それを改めて思い出し、保守党から労働党への交代を選択したとする解説がある。

宥和という言葉は、現代では不正義に対する弱腰といったマイナスイメージで語られるが、ミュンヘン会談直後は、文脈によっては中立的ないし積極的プラスイメージで語られることもあったという(冨田浩司「危機の指導者チャーチル」)。平和外交のニュアンスだったらしい。

政権交代から6年、アトリー内閣は51年10月の総選挙で敗れ、保守党のチャーチルが首相に返り咲く。第2次大戦勝利から6年、英国民は大英帝国が衰え、新興国家米国がそれに代わって世界のリーダーになる流れを実感していた。労働党の敗北は、それに抗し得なかったアトリーへの不満だったのだろう。

この物語で何回か触れてきた対日講和をめぐる米英の対立も遠因はそこにある。復興する日本の経済力を英国が恐れ、歯止めをかけようとする光景は、かつての大英帝国ならありえなかった。英国に代わって世界の覇権を握った米国は、冷戦の論理からいっても、日本の復興を必要とした。

■ダレス、小笠原、沖縄返還に言及

時計の針を51年6月に設定し直す。6月7日、ダレスはロンドンにいた。対日講和について意見調整するためである。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

ダレスは英国のヤンガー国務相と会談し、話を詰め、大筋で一致をみた。大陸中国を対日講和に参加させることは英国も断念したようだが、後日、参加させる方式をめぐっては議論が残された。

ダレスはロンドンでの講演で日本にとって重要なニュースを発信した。小笠原、沖縄の返還を検討中と表明したのである。

実際には小笠原返還は68年、沖縄返還は72年だから、かなりの時間を要したが、これらの返還は、日本にとって悲願だった。返還を検討するとしたダレス発言は、冷戦下で日本の基地を安定的に使えるようにするための配慮だった。

ダレスは「冷戦の戦士」と呼ばれた。ロンドン講演でも、ソ連に対する警戒心をあらわにした。ソ連が日本とドイツの潜在力に注目し、共産化を狙っていると述べたのである。

驚くような話ではない。対日講和など第2次大戦後の国際秩序は、それを前提につくられたのである。日米関係も当然そのなかにあった。

日米外交60年の瞬間をMyニュースでまとめ読み
フォローする

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ

電子版トップ連載トップ


日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。