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正念場のブラックベリー、法人向けの致命的トラブルで窮地に

ITジャーナリスト 小池良次

3月初め、米国の専門誌で「2年以内にBlackBerry(ブラックベリー)メールをやめようとしている企業が7割に達している」という衝撃的なニュースが飛び交った。カナダのリサーチ・イン・モーション(Research In Motion、RIM)が製造するBlackBerryは、北米の企業向けスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)市場を開拓した強力なブランドとして定着していた。ほんの数年前まで米アップルの「iPhone」とも互角に戦っていた同端末だが、開発の遅れと相次ぐサービスのトラブルによって窮地に陥っている。

法人メールで浸透したブラックベリー

米投資顧問会社のシンクエクイティ(ThinkEquity)は3月上旬、BlackBerryメールに関するユーザー調査を発表した。「同システムの入れ替えを検討している企業は向こう1年で5割、向こう2年では7割に達している」という内容だ。

1984年に設立されたRIMは、90年代に企業向けメールとBlackBerry端末を組み合わせた「BES(BlackBerry Enterprise Server)」と呼ぶシステムで高い人気を誇った。同システムは、当時は珍しかったプッシュ・メールや、数十種類におよぶ暗号方式への対応などの魅力を持ち、大手企業だけでなく政府機関や弁護士事務所、医療機関などに普及した。

その後、BESはカレンダーや住所管理などの機能を付け加えながら成長し、企業メール・システムの最大手として君臨していった。2009年ころまでは、北米のスマホといえばBlackBerry端末を指すほどだった。

ところがアップルが07年に発売したiPhoneが市場環境を変えた。セキュリティーや長時間使用に耐えられないといった弱点を持ちながらも、素晴らしいデザインと豊富なコンテンツなどで人気を呼んだiPhoneは、徐々に法人市場にも勢力を伸ばした。

 iPhoneに対抗すべく、RIMは赤いボディーカラーの軽量端末「BlackBerry Pearl 8100」などを発表し一般消費者市場に参入した。統計の取り方にもよるが、08年から10年中ごろまで北米ではBlackBerryがiPhoneを押さえてスマホのシェアで首位の座を守っていた。米国の携帯電話会社も「高価格のiPhoneに対し、大衆向けはBlackBerry」として積極的に販売していた。その一方でRIMは、法人向けBESで非北米市場の開拓に力を入れた。

パソコン型のビジネスモデルで苦戦

ところが10年後半、RIMのスマホ戦略は息切れをおこす。

米グーグルのOS(基本ソフト)「Android(アンドロイド)」を搭載するスマホが中・低価格帯で勢力を伸ばし、BlackBerryを圧倒するようになった。アップルやグーグルに対抗して、RIMも独自のアプリケーション・ストアーの構築やコンテンツ整備などを試みたが成功しなかった。

携帯電話とはいえ、OSやアプリケーション開発はパソコン・ビジネスそのもので、メーカーは大量の開発者を抱えて、開発ツールの提供からドキュメンテーションの整備などを徹底しなければならない。これはパソコンやネット事業者なら可能だが、デバイス開発を得意とする端末メーカーには難しい。ましてや長年にわたり携帯OS開発やアプリケーション支援で競争を続けることは不可能に近い。RIMはアップルやグーグルの製品開発スピードについて行けなくなり、徐々に引き離されていった。

10年に登場したアップルのタブレット端末「iPad」も、RIMを悩ませた。RIMは09年前後から地図サービスの米ダッシュ・ナビゲーションやモバイル・ブラウザーを開発するトーチ・モバイル(カナダ)、モバイルOSのQNXソフトウエア・システムズ(カナダ)などを次々と買収して、製品開発に弾みをつけようとした。しかし各社の統合と開発方針の変更に手間取り、かえって開発速度が遅くなっていく。その典型例がRIMのタブレット「BlackBerry PlayBook(プレイブック)」だった。

4日に及ぶトラブルで信用失墜

RIMがPlayBookを発売したのは11年4月のこと。BlackBerryを使っていた法人や個人ユーザーが待ち望んでいた製品だったが、肝心のBESシステムとの同期機能が搭載されていなかった。これが人気不振の原因となった。

PlayBookでプッシュ・メールやカレンダー、アドレス帳、インスタント・メッセージなどを利用する場合、BlackBerryとBluetoothを使って同期させる必要がある。PlayBook単体ではRIMの看板サービスが使えなかった。これでは他社製タブレットと差がなくPlayBookを買う意味がない。

アップルやグーグルは高度な開発能力を駆使して、スマホとタブレットを統合するモバイルOSを投入できるが、ハードウエア・メーカーのRIMにはハードルが高いものだった。BlackBerryのOSとタブレットのOSだったQNXの機能統合に時間と労力をともなうため、初期PlayBookでは同期機能を付けないまま市場に投入した。

こうしてRIMは、スマホとタブレットのダブルプレー展開について行けず、新製品投入はどんどん遅れていった。RIMがPlayBookにBESシステムとの同期機能を搭載できたのは、製品発売から約1年遅れの12年2月のことだった。

さらに11年10月10日から4日間、RIMの看板システムBESが深刻な運用障害に陥った。「メールが届かない」「インターネットにつながらない」という障害は10日に欧州や中東、アフリカ、インドで発生した。翌11日にはブラジル、チリ、アルゼンチンに広がり、13日にはついに北米のユーザーにも障害が及んだ。

 障害の発端は、欧州に設置していたBES用のコア・スイッチが容量オーバーで倒れたこと。その障害を早期に復旧できず、そのしわ寄せが米国に置いていたスイッチにも波及した。欧州では丸4日間サービスが使えないユーザーがいたほどで、RIMの基幹サービスは大きく信用を失ってしまった。

企業体力を超えた積極策が裏目に

RIMはスマホ市場のパイオニアとして、iPhone登場後も積極的な戦略を展開した。アップルとグーグルが台頭し、撤退する企業が相次ぐなかでもRIMは戦いを続けてきた。しかし、近年はそうした積極策が裏目に出た。

高度な開発力を必要とするモバイルOS開発は、マイクロソフトでさえ苦戦している。RIMという端末メーカーにとっては負担が大きすぎた。さらに法人市場では欧州や中東、南米などに事業を急拡大し、そのインフラ整備が急増するトラフィック需要に間に合わなかった。

冒頭の調査で示したとおり、法人ユーザーはRIMから離れようとしている。ITシステムが企業の業績を左右する現在、息切れが見えるRIMでは万が一の時「事業継続性」を確保できないからだ。米国の携帯電話会社も新製品投入が遅れるRIMを横目に、ミドル・レンジでは韓国のサムスン電子やLG電子、米モトローラ・モビリティーなどの製品に力を入れている。

3月29日に発表された12年第4四半期決算でRIMは1億2500万ドルの赤字を計上し、その危機が一般市民にも知れ渡った。併せて同社はジム・バルシリー前共同最高経営責任者(CEO)の取締役辞任を筆頭に大幅な経営陣の刷新を発表し、経営再建を目指すことを明らかにした。

既にモバイル業界は、スマートフォン+タブレットにクラウドコンピューティングを加えたトリプル・サービス戦争に突入しているが、クラウド戦略でもRIMは出遅れている。通信業界では、プライベートエクイティファンドによる買収の噂が飛び交っており、カナダの名門ハイテク企業を取り巻く環境は厳しさを増している。

RIMにとって、今年は生き残りをかけた正念場となるだろう。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)「クラウドの未来」(講談社新書)など。

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