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中国山東省で「低速EV」産業のダイナミズムを見てきた

(1)多種多様、(2)低価格、(3)強気で楽観的――。中国の山東省で勃興しつつある低速電気自動車(低速EV)産業の特徴を3つの言葉で表現しろと言われればこうなる。

同省の省都・済南市で、低速EVの展示と即売に特化したイベント「中国(済南)国際新エネルギー自動車、電気自動車および部品展覧会」が2012年8月18日から3日間にわたって開催された。これを機に筆者は現地に赴き、低速EVの技術や市場動向について調査してきた。ごく一部ではあるが、そのエッセンスをご紹介したい。

低速EVが「よりどりみどり」

低速EV産業の特徴の第1点である驚くほどの多様性は、イベントの会場に足を踏み入れた途端にすぐに理解できる。車種として乗用車や業務用車両が実に多彩な仕様で造られているのはもちろん、車両の構造(大きさや用途、車室の有無など)、素材や部品の選択といった点でも極めて幅が広い。

このようにバラエティーに富む低速EVを多少強引にでも分類するならば、一般的な自動車に近いタイプ(最高時速50km程度)と、同30~40kmの簡易タイプの2つということになろう。

前者の一般的な自動車に近いタイプにおいては、車輪が4個で定員4人の大きさを備え、鋼製の車体にリチウム(Li)イオン電池を搭載した製品の登場が目立った。中国の低速EVが用いている電池の主流は、まだ鉛蓄電池である。安価で流通量も多いからだ。Liイオン電池を搭載する例はまだ珍しいが、電池のサイクル性能が1桁上のLiイオン電池の採用によって商品価値を高めて、競合製品と差異化を図ることが可能になる。今回のイベントでも、時風集団や宝雅集団などの大手企業を中心にLiイオン電池の搭載車を展示した企業が少なくとも数社は見られた(図1)。

図1 山東久力電子科技が展示したLiイオン電池搭載EV。ベース車両はBYD社製 (撮影:テクノアソシエーツ)

電池だけでなく、ガソリンエンジンと発電機を搭載し、航続距離を延長可能な「レンジエクステンダー型」の低速EVも登場した。例えば済南順航車業は、発電機を低速EVのオプションとして販売している(図2図3)。低速EV本体の車両価格は2万元(日本円換算で約25万円)、発電機は1200元(同約1万5000円)である。同社代表の李振亮氏は、同社顧客の90%が発電機付きの低速EVを購入すると胸を張る。

図2 済南順航車業の低速EV (撮影:テクノアソシエーツ)
図3 済南順航車業の低速EVではオプションで発電機を選択可能。だいだい色の鉛蓄電池の左側にあるキャップの付いた部分がガソリンを燃料とする発電機 (撮影:テクノアソシエーツ)

日本の大手自動車メーカーのハイブリッド車から見れば技術的には簡便だし、発電して走行する際のエネルギー効率もそれほど高くないだろう。それでも、レンジエクステンダーは低速EVの実用性を低価格で格段に向上させることができる。その意味では、既に顧客の信任を得た優れた手段といえそうだ。

激安価格の簡易型低速EV

2つのタイプのうち、簡易タイプの低速EVの代表例は、車輪が3個、定員3人の大きさで、繊維強化プラスチック(FRP)製の車室を備える製品だろう(図4)。このタイプの低速EVは済南市内など大都市の車道を走ることは通常できないが、農村地帯や郊外であれば運転免許も車両登録もなしで乗り回すことが黙認されている。

図4 済南世紀星の小型低速EV (撮影:テクノアソシエーツ)

記事の冒頭で挙げた低速EV産業の2番目のポイントである「低価格」も、この簡易タイプの低速EVで顕著だ。屋根や車室のない3輪低速EVなら、なんと3000元(約3万6000円)程度で買える。上述のようなFRP製の車室付きでも、たかだか1万元(同約13万円)と安い(図5)。一般車に近いタイプの低速EV(鉛蓄電池を使用した一般的なモデルで最多価格帯が3~4万元程度)より段違いに低い価格で、所得があまり高くない世帯でも購入可能なレベルである。

図5 商河県の集落で売られていた3輪の小型低速EV (撮影:テクノアソシエーツ)

このような低価格が可能になるのは、まず人件費が安いからである。沿海部などでは高騰したとは言え、山東省の郊外などでは賃金水準もまだ先進国の半分以下だ。二輪車や農作業車などの製造で力を付けた部品メーカーが、低速EV向けの部品やモジュールを製造し、低速EVメーカーに低コストで供給する体制も整っているからだろう。実際、今回のイベントでは完成車のメーカーに混じって、モーターや電池、制御装置、車軸、車体などの部品や部材、サブシステムの製造企業も数多く出展、それぞれ製品を展示していた(図6)。

図6 済南市の低速EV展覧会に出展していた部品業者 (撮影:テクノアソシエーツ)

先行きを楽観視する強気な経営者

低速EV産業の第3のポイントである「強気で楽観的」は、今回の低速EV調査で特に印象的だった点である。取材で出会った低速EVメーカーの経営陣は総じて低速EVの将来を楽観的に見ており、自社の販売台数や市場シェア拡大に関して強気な予測をしていた。筆者が話を聞いただけでも、一般車タイプか簡易タイプかにかかわらず、この1~2年程度で低速EVの生産規模は倍増すると考えていた。

例えば、済南世紀星車業の代表である李家緒氏は、「電動車の市場成長率は年30%だ。現在約5000台の当社の生産規模は3年くらいで2倍の年産1万台になる」と鼻息が荒い。低速EV大手の一社である宝雅集団で山東宝雅新能源汽車の執行総裁・社長を務める王洪君氏は、「低速EVの燃費は1kmあたり1円以下と普通のクルマよりもずっと経済的だ。中国全土で普及するかどうかは政策次第だが、国の方針とも一致する」と低速EV産業の将来性に自信を示す。

同社は、製造能力が年産20万台の乗用車向け新工場を済南市の北約100kmの徳州市に2011年10月に完成させた。同工場では中国国内向けに鉛蓄電池の低速EVを、輸出用にLiイオン電池を搭載したEVを製造している(図7図8)。

図7 山東省徳州市にある宝雅新能源汽車の最新鋭EV工場の製造設備 (撮影:テクノアソシエーツ)
図8 徳州工場で案内時に使用した電気自動車。右は宝雅新能源汽車の王洪君・執行総裁兼社長 (撮影:テクノアソシエーツ)

現時点では、省都の済南市内でもガソリンなどの化石燃料を燃やして走る従来型の自動車がほとんどを占める。低速EVの存在感は高まっているものの、農村や郊外で見かける程度でしかなく、産業規模としてはまだ限定的である。

しかし今後、中国政府の政策やガソリン価格の高騰によってEVが急速に普及する可能性は決して低くはない。Liイオン電池のコストが鉛蓄電池並みに下がれば、低速EVも軒並みLiイオン電池を採用し始めるのは間違いない。その場合、日本や欧米の大手自動車メーカーが製造する高速なEVと山東省の低速EVの差は曖昧になろう。やがて、低速や高速といった区別さえ意味がなくなっていく。

日本の大手自動車メーカーでは、低速EVなど現時点で比較にもならない存在と考えている経営陣が大半かもしれない。しかし将来、足をすくわれないように、快進撃を続ける低速EVの行方にも目配りしておく必要がありそうだ。

(テクノアソシエーツ 大場淳一)

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