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デジタルで攻めるKADOKAWA コミックを世界へ無料同時配信

大手出版KADOKAWAのデジタル事業の中核を成す新サービスがいよいよ始動する。同社が得意とするコミック200作品5000ページ分を世界各国で無料で読める「コミックウォーカー」を22日に立ち上げる。スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に対応し、アプリ(応用ソフト)上でボタン一つでせりふを日本語から英語や中国語に切り替えられる。将来開始する有料メニューに加え、掲載した作品を電子書籍や紙で単行本化することで収益化を図る。

同社は昨年10月、持ち株会社の角川グループホールディングスを再編し、主力連結子会社の9社を吸収合併して発足した。「少年エース」や「ヤングエース」など23ものコミック媒体を持つグループの強みを生かし、惜しみなく作品を新サービスに投入。デジタル事業を拡大させる狙いだ。2014年中に月間で閲覧する利用者数で100万ユニークユーザー、閲覧されたページ数(ページビュー)で1億と日本最大規模のコミックサイトに育てる。

衰退するマンガ文化に危機感抱く

KADOKAWAのデジタル事業の中核となる「コミックウォーカー」を22日に立ち上げる。3日に都内で開いた記者会見で発表した。井上伸一郎代表取締役専務(左から2番目)は「老若男女問わず読んでもらえる100万部のデジタル雑誌を作る」と鼻息が荒い

「電車内でコミック雑誌を読みふける人をすっかり見かけなくなった。このままでは日本のマンガ文化が衰退してしまう」。KADOKAWAの井上伸一郎代表取締役専務は、新サービス投入のいきさつをこう語る。デジタルネーティブな若者たちにコミックに触れる機会を設けつつ、日本ならではのマンガ文化を全世界に輸出する「一石二鳥」を狙ったのが今回のコミックウォーカーだ。

紙の雑誌で連載する中から約150作品を選び、刊行から約2週間遅れで無料公開。次の号が刊行されたら内容を差し替えて鮮度を保つ。欠かさずアクセスすれば、紙よりは遅いが無料で読み進められるというわけだ。新規読者の窓口を広げるため、連載の1~3話程度は読めるよう工夫した。コミックウォーカーだけでしか読めないオリジナルのものも約50作品用意する。

アプリのほかブラウザーでも利用できる。画面は「機動戦士ガンダム」の英語版の一コマ。イラスト/大和田秀樹 (C)創通・サンライズ
アプリ上のボタンを押すだけで中国語(画面)にも切り替えられる。大半は当初日本語のみ対応だが、順次多言語に対応した作品を増やす。イラスト/大和田秀樹 (C)創通・サンライズ

掲載が終わった話についてはグループで展開する電子書店「BOOK☆WALKER」などへの導線を用意。電子書籍での購入を促し、定期購読する読者の輪を広げる。オリジナル作品は新レーベルを冠して発売する計画だ。有料メニューでは、プレミアムな大型作品を用意するという。

台湾・中国進出で蓄えた翻訳ノウハウ活用

集客目的で一部人気作品はカラー化で配信。画面は「機動戦士ガンダム」。イラスト/安彦良和 (C)創通・サンライズ

多言語化については台湾子会社の協力を得る。KADOKAWAは早くから台湾や中国に進出し、情報雑誌やコミック雑誌を刊行した実績がある。現地に設立済みの編集部には中国語への翻訳ノウハウが蓄積されており活用する。英語化についても「外部を頼らず内製できる体制を整える」(コミックウォーカーの責任者である古林英明統括部長)という。

当面は大半が日本語のみの対応で、公開と同時に3カ国語で読めるのは40作品に限られる。ただ順次増やしていく計画だ。古林統括部長は「いずれフランス語対応にも挑戦したい。フランス語圏は書店網が整備されていないアフリカにも広がっており、彼らにも日本のコミックを届ける」と野心をにじませる。

集客効果を狙って、一部作品のカラー化にも乗り出す。連載から35年がたった今もファンが多い「機動戦士ガンダム」や、社会現象を起こし映画化されるなど再び人気が高まっている「新世紀エヴァンゲリオン」のカラー版を同サービス限定で配信する。ガンダムの主人公の声を担当した声優の古谷徹氏は「世界20の国や地域に行った際、各地で(ガンダムなど)日本のマンガやコミックが人気を集める事実を肌で感じた。デジタルの力を借りて、世界のファンに最新コミックを届けられる意義は大きい」と評価する。

ボロもうけするアングラサイトに一撃狙う

実はKADOKAWAが最新コミックの世界同時配信に踏み切るのは、海外で横行する違法なコンテンツ流通を撲滅したかった事情もある。例えば集英社が刊行する週刊コミック誌「週刊少年ジャンプ」の場合、月曜日発売にもかかわらずその前週の水曜日にはアングラサイトに英語化されて出回っているのが現状。ネットに流す犯罪集団がおり、書店に並ぶ前になんらかの形で雑誌を手に入れ、世界に散らばる数千もの翻訳チームが分担して一斉に英語化してしまうのだ。

有力なアングラサイト3つだけでも月間ユニークユーザーは900万人に上り、ページビューは20億に及ぶ。彼らはネット広告で収益を得ており、その金額は年間で約12億円に及ぶ。日本の出版業界は本来取り込めるはずの読者を取りこぼし、巨額の収益機会を逸していた。

社会現象を起こし最近映画化で再び人気が高まる「新世紀エヴァンゲリオン」もカラー版を配信する。イラスト/貞本義行 (C)カラー・GAINAX

一方で海外ファンの間では不満がくすぶる。コミック雑誌に掲載されてから数カ月以上先にならなければ作品が読めないからだ。紙を媒体に使う以上、日本で単行本化した後、それを翻訳して海外の出版社を介して流通させるにはどうしてもタイムラグが生じてしまう。

「エヴァ」の世界同時発売の成功が背中押す

背中を押したのは12年11月に欧米や中国、ブラジルなど世界15の国や地域で発売した「新世紀エヴァンゲリオン」の13巻の成功だ。紙に加えて電子書籍でも初めて世界同時に市場へ投入したところ各地でヒット。「デジタルで正規のものをスピーディーに現地に届ければ、世界に広がるコミックファンの心をつかむことができ、結果としてアングラサイトもつぶせるはず」(井上専務)と判断した。

多言語に対応した無料のコミックサービスは、ソーシャルゲームのディー・エヌ・エー(DeNA)も昨年12月に「マンガボックス」を開始し、累計300万ダウンロードと好調に利用者数を伸ばしている。作品数はまだ38と少ないが、講談社や小学館などの協力を得て人気作品をラインアップしたのが奏功したようだ。

これまで漫画やアニメは日本の文化を世界に発信する「クールジャパン」の主役とされてきたが、収益化の面で必ずしもうまくいっていなかった面がある。KADOKAWAなどデジタルを武器にした新たな取り組みがスタートしたことで、違法なコンテンツ流通から読者を引きはがす機運が高まる。正規のコンテンツへ読者を誘導することで確実に収益に結びつけられれば、出版社にとってのクールジャパンは大きく前進することになる。

(電子報道部 高田学也)

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