2019年8月23日(金)

日米外交60年の瞬間 第3部

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朝鮮停戦交渉に弾み サンフランシスコへ(17)
日米外交60年の瞬間 特別編集委員・伊奈久喜

2011/12/10 7:01
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1951年7月1日、北京放送が伝えたニュースが世界を駆け巡った。北朝鮮と中国が停戦交渉に応じると発表したのである。

北京放送と聞いて、独特の甲高いアナウンサーの声を連想できる日本人は、50歳代以上だろう。1972年の日中国交正常化がなるまで、北京放送は、中国が対外発信するために重要な口だった。

「日本の皆さん、同志の皆さん。こちらは北京放送です。日本の佐藤反動政府は……」といった放送が受験勉強をしながら深夜のラジオ放送を聴く若者たちの耳にしばしば入った。

■ベール脱いだ彭徳懐将軍

朝鮮戦争停戦会談が開かれた開城(1951年7月米軍撮影)=朝日新聞社提供

朝鮮戦争停戦会談が開かれた開城(1951年7月米軍撮影)=朝日新聞社提供

RP(ラヂオプレス)は、北京放送を聴き、ニュースがあれば流す報道機関である。1日の北京放送もRPが流した。ちなみにいまはRPの仕事は、北京放送ではなく、平壌放送を聴いて北朝鮮からのニュースを流すことに重点がある。

1日にRPが流した北京放送のニュースは短い一文である。「朝鮮人民軍総司令金日成、中国人民義勇軍総司令彭徳懐は協議の末1日連名で国連軍総司令リッジウェー将軍からさきに提出された朝鮮戦争の休戦についての提案に受諾する旨発表した」

いま朝鮮戦争は南北朝鮮の戦いのように誤解されがちだが、この一文は、北朝鮮だけでなく中国がこの戦争の当事国である事実を改めて確認させる。いま6カ国協議の議長国を務める中国にとって北朝鮮をめぐる問題は、外交問題、国際問題ではなく、半ば自国の問題である。

比べるにはやや無理もあるが、日本にとっても古代史の時代から、朝鮮半島は、安全保障の上で重要な地域だった。朝鮮半島は6年前まで日本の統治下にあった。太平洋戦争の勝者であり、ソ連との冷戦を戦い、朝鮮半島で中国との熱戦を戦う米国にとっても同様である。

金日成、彭徳懐がリッジウェーにあてた回答によれば、ふたりは停戦交渉を7月10日から15日の間に開城(ケソン)で始めると提案した。

1951年
4月11日
トルーマン大統領がマッカーサー元帥を連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍・極東陸軍総司令官から解職。後任にリッジウェー中将
4月16日ダレス特使再来日
6月20日日本政府、第1次追放解除を発表
8月6日日本政府、第2次解除を発表。鳩山一郎ら追放解除される
9月1日米、オーストラリア、ニュージーランド、太平洋安保条約に調印
9月4日サンフランシスコ講和会議始まる
9月8日吉田首相、対日講和条約、日米安全保障条約に調印
12月24日吉田首相、ダレスに台湾の国民政府との講和を確約(「吉田書簡」)

ケソンは38度線の南側にあり、朝鮮西海岸に近い。北朝鮮が南侵し、朝鮮戦争の火ぶたが切られた都市であり、両軍が争奪戦を演じていた。51年7月時点では国連軍管理下にあったが、現在は北朝鮮の支配下にある。平壌(ピョンヤン)と京城(ソウル)を結ぶ街道上にある重要拠点でもある。

彭徳懐という名前も当時はニュースだった。朝鮮に派遣された義勇軍の司令がだれであるかは、それまで謎だったからだ。

彭徳懐は当時50代前半。湖南省出身で27年から共産党に参加し、湖南で初めて人民政府をつくった。抗日戦争を指揮し、当時、人民革命軍事委員会副主席、第1野戦軍総司令だった。

中国が義勇軍を派遣したばかりの段階では第4野戦軍総司令だった林彪が指揮していたとされていたが、大敗北を喫し、交代したのではないかと当時の日経は解説した。

朝鮮の戦線は交渉に向かう機運がでてきたが、当時の世界も様々なところで紛争が起きていた。

■英・イランにも紛争

英国はイランにある石油開発に関して国際司法裁判所にイランを提訴し、ペルシャ湾にフリゲート艦を差し向けた。隣のイラクの都市、バスラには戦闘機約300機、パラシュート部隊2000人、その他部隊4000人を待機させた。

イランのエンテザーム駐米大使は、英国の挑発行動を非難し、米国は調停に乗り出す構えをみせていた。

アジアではタイで海軍部隊による反乱が起きていた。1日、それがようやく鎮圧され、ビブン首相が釈放された。バンコクの治安も回復した。ちなみにタイは、この種の軍事クーデターがしばしば起こる。近年でもタクシン首相を追放するクーデターが2006年に起こった。

ベトナムでも戦争が続いていた。台北の国民政府国防部は、ホーチミン率いる共産軍に日本人捕虜62人が使われていると発表した。参謀将校14人、軍医6人、砲兵6人、工兵その他36人と具体的数字を含んでいた。

世界のあちこちで、きな臭さが漂っていた。

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