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読書革命前夜…買っていいのか、電子書籍端末

 米アマゾン・ドット・コムの電子書籍端末「Kindle(キンドル)」の日本上陸が間近だ。これに対し、日本企業からも新しい電子書籍端末や電子書店が相次ぎ登場。さらに、官民ファンドの産業革新機構の出資を受けて出版デジタル機構が発足し、340社以上の出版社が賛同するなど、今年、電子書籍を巡る環境は大きく動いている。本記事では、主な電子書籍端末と電子書店、出版社の最新動向を追った。月刊誌「日経トレンディ」での取り組みを例に、紙の雑誌を電子化する舞台裏も紹介する。
図1 国内で発売中または発売予定の主な電子書籍端末。画面サイズは、右端のソニー「リーダー」と中央の楽天「コボタッチ」が文庫本、左端の東芝「ブックプレイス」が新書本といった位置づけ

シャープが運営する電子書店「ガラパゴスストア」。今年(2012年)8月、シャープは、アップルのiOS用アプリを公開し、ガラパゴスストアで購入した電子書籍をiPhoneやiPadなどでも読めるようにした。それまでは、ガラパゴスストアで購入した電子書籍が読めるのはAndroid(アンドロイド)OSを搭載したスマートフォンやタブレット端末に限られていた。

ソニーが運営する電子書店「リーダーストア」も、ここにきて戦略を転換した。これまでリーダーストアで電子書籍を買える端末は、ソニー製の端末だけだったのに対し、今秋から他社のアンドロイド端末にも広げると発表した。

「キンドル近日発売」を6月下旬に日本の自社サイトで表明し、水面下で動いていたアマゾンは間もなく具体的な動きを示しそう。これに伴い、日本の電子書籍ビジネスの動きが一段と活発になってきた。なお、アマゾンは現地時間9月6日に、米国でイベントを予定しており、年末商戦向けの新型キンドルを発表すると見られている。日本向け製品も含まれるか、業界関係者は注目している。

好ダッシュ見せたコボが修正版を投入

図2 1万円を大きく下回る価格が魅力の楽天「kobo Touch(コボタッチ)」。 楽天が買収したカナダのコボ社が開発した電子書籍端末で、7980円という値段が魅力だ。ボタン類はホームボタンと電源スイッチしかなく、大半の操作は画面タッチで行う。バッテリー駆動時間は約1カ月。ソニー製品と同様に、6型16階調グレースケールの電子ペーパーを採用した。背面は独特な風合いで、ブルー、ライラック、シルバー、ブラックの4色がある。関連書店「コボイーブックストア」の配信書籍数は約3万9000冊(8月末時点)

日本でのアマゾンの動きに対し、いち早く先手を打ったのは、ネット通販大手の楽天だ。今年7月2日にカナダのコボ社が開発した電子書籍端末「kobo Touch(コボタッチ)」を、これまでの専用端末の価格を大きく下回る7980円で売り出すと発表。同19日から出荷を開始した(図1図2)。

コボタッチは、ディスプレイに6型電子ペーパーを採用。外部ボタンを少なくして画面タッチ中心で使う操作性が特徴だ。4色がそろっているキルト地風の背面デザインも面白い。

売れ行きは発売後1カ月で出荷台数10万台とされ、国内の専用端末としては破格。楽天の曽根崇イーブックジャパン事業副事業長は、「7980円と手頃な価格であること。また、メーカーではない楽天が出すという話題性が受けた」と背景を分析する。

ただ、発売後はトラブルが相次いだ。例えば、初期設定ではコボタッチをつないだパソコンをインターネットに接続する必要があるが、発売当初、サイトへのアクセスが集中し、処理が進まなかった。付属の説明書があまりに簡略で、混乱したユーザーも少なくない。

曽根氏は「電子書籍を買う人はパソコンやインターネットに詳しいだろうという読みの甘さがあった」と準備不足を認める。楽天では今回の事態を受け、初期設定の手順を詳しくまとめた説明書を同梱するとともに、無線LAN接続だけで初期設定できる修正版を8月27日から出荷し始めた。

ソニーの新型リーダー、注目点は価格

図3 電子ペーパーの欠点を大幅に改善したソニーの「リーダーPRS-T2」。無線LAN対応「リーダー」の後継モデル。操作ボタンを画面下部に移動し、押しやすくした他、画面レイアウトもわかりやすく整理した。電子ペーパーの欠点である画面のリフレッシュレート(白黒反転)も、15ページに1回と大幅に減らした。バッテリー駆動時間は約2カ月で、本記事で紹介する3台のなかで最長だ。カラーはブラック、ホワイト、レッドの3色。直営書店「リーダーストア」の配信書籍数は約6万3600冊(9月3日時点)。9月21日発売予定で、希望小売価格は9980円

2010年から電子書籍端末「リーダー」の国内販売を手がけるソニーも、使い勝手や性能を大きく向上させた新製品を9月3日に発表した(図3)。この9月21日発売予定の新型リーダー「PRS-T2」は、昨年発売された無線LAN対応リーダーの後継機という位置づけだ。ボタンの位置変更や画面レイアウトの見直しで操作性を向上。特に大きな改善点として、搭載する6型電子ペーパーのリフレッシュレート(白黒反転)を大幅に減らしたことが挙げられる。

電子ペーパーは液晶と比べ、バッテリーの消費量が格段に少ないが、画面の書き換えの際に、一瞬、画面が白黒反転する欠点がある。白黒反転を見つめているのは目に負担だ。従来機ではページをめくるたびに白黒反転するのに対し、新型機では15ページに1回になり、気にならないレベルまで改善した。前出のコボタッチは6ページに1回の頻度で白黒反転するが、それを2.5倍上回った。

注目点は価格。ソニーマーケティングの小川直樹氏は「これからはソニー、アマゾン、楽天の戦いになる。ソニー、頑張っているなといわれるぐらいの価格にした」と話す。PRS-T2の希望小売価格は9980円と1万円を切っている。

図4 見やすい新書サイズの東芝「BookPlace(ブックプレイス)DB50」。OSにアンドロイドを採用した専用端末。電子書籍の読み上げ機能が大きな特徴。本体は新書本を一回り大きくしたサイズでやや重さがあるが、バックライト付き7型液晶を搭載し、夜間や屋内で画面が見やすい。操作の大半は画面タッチで行う。上部に操作ボタンを備えるが、補助的なもの。バッテリー駆動時間は7.5時間。関連書店「ブックプレイスストア」の配信書籍数は約9万5000冊(9月3日時点)。ストアに登録すると5000円分のポイントがもらえる特典付き。実勢価格は2万1100円

また、ソニーのリーダーストアが対象端末を他社のアンドロイド端末へ広げるなかでの専用端末の位置づけについては、「今は電子書籍への過渡期。電子書籍をたくさん読む人は、電子ペーパーを備えた目が疲れない専用端末に戻ってくる」とみる。

一方、東芝が発売中の「ブックプレイス DB50」は、電子書籍の購入と読書に特化したアンドロイド端末(図4)。メールやブラウザーは備えているが、アプリのインストールはできない。特徴は音声読み上げ機能を備えることにある。国内企画・マーケティング部の杉野文則参事は「電車の中でヘッドフォンで聞いたり、子供への読み聞かせに活用したりできる」と利用シーンを説明する。

サイズは、新書本を一回り大きくした縦長。カラー液晶を装備するため、重めに感じるが、漫画や写真集などを見たときの楽しさはカラーならでは。電子ペーパーのようにスクロールしたときの残像や白黒反転もない。

図5 電子書店を運営するブックライブが開発中の電子書籍端末

専用端末は今後も発売されそうだ。秋の発売予定で、通信機能を備えた専用端末を準備しているのが電子書店を運営するBookLive(ブックライブ、東京都台東区)。「対象は紙での読書体験が豊富な世代。箱から出してすぐ使えるようにしたい」と、同社の河西広太郎チームリーダーは語る。いわば電子書籍端末の"らくらくホン"だ(図5)。

今度こそ「電子書籍元年」が到来

「5年後には100万冊を電子化」と掲げる出版デジタル機構が、今年4月に事業をスタートした。官民ファンドの産業革新機構が150億円、大手出版社や印刷会社が20億円を出資。賛同する出版社は340社を数える(8月22日時点)。

電子化されている本が少ないといわれる日本の出版界。出版デジタル機構の野副正行社長は、今日の出版界の実情をこう説明した。「これまで出版社は印刷や取次を外部委託し、本の編集や宣伝に専念してきた。資金的な体力がなくてもフットワークで成り立ってきた」

図6 出版デジタル機構は、書籍の電子化における制作、販売促進、配信、管理などを支援。5年後に100万冊を電子化し、市場の拡大サイクルを作り出すことで、出版市場の10%、2000億円の市場を創出するとしている

しかし、電子化となるとこれまでのノウハウは通じない。インフラへの投資も必要だ。特に少人数で運営されている中小の出版社は参入が難しい。

出版デジタル機構がサポートするのは、電子書籍出版に関わる全般。書籍の電子化だけではなく、販売促進、配信、管理なども手がける(図6)。

野副氏は「米国の問題点は、書籍の電子化は進んだが、出版界全体の売り上げは落ちていることだ。日本では、過去の優れた著作も電子書籍で復刻させるなど、紙と電子でむしろプラスにしたい」と意欲的だ。現在の出版市場の10%にあたる、2000億円の市場を創出するとしている。

図7 主な電子書籍のフォーマット

また、EPUBやXMDFなど互換性のない電子書籍フォーマットの障壁を越えるサービスも登場してきた(図7)。シャープが今年7月に事業化した「ブックインザボックス」は、従来型の携帯電話向けの電子書店が、スマートフォンへ進出する際の基盤を提供する。

従来型携帯電話向けの電子書店は約400あるといわれ、採用するフォーマットやシステムは異なっている。一からシステムを作り直すのには、大きな投資と時間が必要だ。そうした障壁を軽減し、早期に出店しやすくするのがブックインザボックスの狙いだ。

図8 大日本印刷とインプレスR&Dが実用化に向けて実験中の「オープン本棚」。電子書籍を購入した電子書店の制約を超えて一元管理できる

大日本印刷とインプレスR&Dが開発する「オープン本棚」も、フォーマットの障壁を越えるものだ(図8)。電子書籍が普及した時代に読者は複数の電子書店から書籍を購入することになる。オープン本棚は、異なる電子書店で購入した電子書籍をクラウド上で一元管理する仕組み。読みたい本を指定すれば読むことができるし、好きな項目を作って整理することも可能。年内には実用化の予定だ。

日本の出版社は書籍の電子化に及び腰だといわれてきた。しかし、出版大手の講談社が紙の書籍と電子書籍を同時に出版することを表明するなど、歯車は動き出している。そこにアマゾンがキンドルを発売することで、今秋、本当の「電子書籍元年」が始まり、読書革命が広がっていきそうだ。

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「雑誌のレイアウト」は変えるべきか

紙の誌面レイアウトを変え、スマートフォン画面に合わせた新しい表示スタイルをつくるべきか――。現在、雑誌出版社にとって非常に悩ましい問題だ。画面サイズの大きなタブレット端末や電子書籍端末を使うのであれば、紙の雑誌と同じレイアウトの電子雑誌も読みにくくはない。だが、画面が4型前後しかないスマートフォンは違う。誌面の拡大縮小を繰り返して読むことになり、ページ全体の把握もしづらい。

図9 リフロー(再構成)型は、誌面イメージ型と比べて、読みやすさとデータ量の小ささで有利

小説やマンガなどとは違って、文章や写真、表などが複雑に組み合わされる雑誌の場合、リフロー(再構成)型の電子書籍は制作が難しく、コストも高くつく(図9)。そのため多くの出版社は制作に二の足を踏んでいるのが現状だ。

無視できないスマホ市場

だが、iPhoneをはじめとしたスマートフォン市場の拡大は著しく、スマートフォンが電子書籍を読む端末の主役となる可能性が急浮上してきた。専用の電子書籍端末市場が立ち上がっても、スマートフォンでの電子書籍市場の規模はその上を行くかもしれない。

これまでは紙の雑誌と同じレイアウトの電子雑誌を販売してきた日経トレンディも、今秋(11月号)からリフロー型をメニューに加える。試作版[注1]を作った経験から、リフロー型を作る際に注意すべき点が見えてきたので、以下で紹介する。

リフロー型の「日経トレンディDigital」は、iPhoneの小さな画面でも記事を読みやすくする表示レイアウトを、電子書籍開発会社のヤッパと共同開発。また誌面の文章や写真、表、グラフなどを、iPhoneの画面やスクロール操作に合わせて再構成した。混み合う電車の中でも視認性を高めるため、本文の文字サイズは大きくした。

[注1]9月中は、日経トレンディ2012年10月号(9月4日発売)の一部の特集や記事をアプリで無料公開。詳しくは、http://trendy.nikkeibp.co.jp/mag/trd/ を参照。

単にリフロー型の電子書籍にすると、雑誌出版社が長年「売り」だと考えてきた誌面レイアウトの良さが消える。今回は、雑誌らしい誌面レイアウトをできるだけ残すことにも苦心した。例えば、紙の誌面のフォントや色使いを最大限取り入れた「特集一覧」と呼ぶ目次機能を新設し、見やすさや楽しさを表現。収録記事すべてを一覧表示する総合目次は、別途設けてある。

図10 電子雑誌「日経トレンディDigital」はiPhoneとiPadに対応。画面は「特集一覧」機能 [左]iPhone版は隙間時間での利用を想定。データ量を小さくし、複数の購読号を保存しやすくした [右]iPhoneとの画面の大きさの違いを考慮し、iPadではより見やすくした

ただし、リフロー型電子雑誌の限界もある。例えば紙の誌面デザインでは、写真や表の大きさを変えて、その重要度をひと目で理解できるようにしている。だが今回は、必ずしもこういった再現はできていない。

日経トレンディDigitalは、iPhone・iPadアプリとして配信する(図10)。アンドロイド端末よりiPhone対応を優先した理由は、電子書籍の購入率だ。一般的にiPhone向けの電子書籍は、アンドロイド向けの数倍から10倍以上売れることも珍しくない。iPhoneユーザーはクレジットカードの登録がほぼ必須で、音楽や映画などのデジタル商品の購入にも慣れていることが背景にある。

また、iPhoneのOS(iOS)には雑誌配信システムが組み込まれ、最新号の自動ダウンロードや定期購読といった機能をアプリに搭載できる。現状、アンドロイドではiOSと同様の便利機能は実装しにくい。

iPadの存在も大きい。iPadユーザーは電子書籍との親和性が高い。iPadの利用シーンは平日の帰宅後や休日など、従来の紙の雑誌を読む時間と重なるのだ。こうしたユーザーに向けて、今回のアプリはiPadにも最適化。iPhoneよりさらに記事が読みやすくなるように配慮した。

日経トレンディDigitalは、最大5台のiOS端末で閲覧できる。通勤時などの隙間時間にはiPhoneで、休日などはiPadで読む、という読書スタイルを広げるのが狙いだ。紙の雑誌とは違う電子雑誌ならではの良さを、この点に求めた。

(日経トレンディ編集部)

[日経トレンディ2012年10月号の記事を基に再構成]

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