発症リスクは25倍「遺伝性乳がん」を知る検査 日本の現状
乳がんの最適治療(2)
乳がん患者全体の5~10%が遺伝性
乳がん患者の約8割は家族歴に関係なく発症しています。しかし血縁者に乳がん、卵巣がんの患者が複数いる場合、乳がんになりやすい体質を受け継いでいることがあります。これを「家族性」乳がんと呼びます。また、遺伝子の変異が判明している乳がんを、「遺伝性」乳がんといいます。
「米国の統計では、乳がん患者全体の5~10%が遺伝性とされています。日本でも近年の研究で、米国と同等の割合で存在するというデータが出ています」と話すのは、聖路加国際病院(東京都中央区)ブレストセンター長の山内英子さん。遺伝性乳がんとされる患者のほとんどが、BRCA1とBRCA2という2種類の遺伝子のどちらかに変異を持つことも分かっています。


欧米のデータでは遺伝性の場合、50歳までに乳がんを発症するリスクは変異を持たない場合に比べ16~25倍。「若年で発症しやすい、両側に発症しやすいといった特徴も」(山内さん)。関係する遺伝子は卵巣がんの発症にもかかわります。
科学的に調べる手段としては血液を用いての「遺伝子検査」がありますが、現在保険適用はなく、20万~30万円程度の費用がかかります。また、自分の遺伝情報を知るという考え方が日本にはまだなじみがなく、遺伝性と分かったときの対策も含め社会的な環境が十分に整っていないのが現状。「ただ、もしかして自分も…と心配な場合は、検査を行う医療機関に相談(遺伝カウンセリング)をしてみると、不安や疑問解消の糸口になるはず」と山内さん。費用は聖路加国際病院の場合、1時間3000円です。
□ 40歳未満で乳がんを発症した血縁者がいる
□ 年齢を問わず、卵巣がんになった血縁者がいる
□ 年齢を問わず、血縁者に原発乳がんを2個以上発症した人がいる
□ 血縁者に男性乳がんになった人がいる
□ 乳がんになった血縁者が自分を含め3人以上いる
□ BRCAという遺伝性乳がんの遺伝子変異が確認された血縁者がいる
□ 抗がん薬、分子標的薬、ホルモン療法薬のいずれもの治療が難しい(トリプルネガティブ)といわれた乳がんの血縁者がいる
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上のリストで一つでも該当する人は、家族性・遺伝性乳がんの可能性が。一度乳腺の専門家に相談するといい。
遺伝子変異があるとリスクは跳ね上がる

欧米の研究では、BRCA遺伝子(1、2のいずれか)に変異がある場合の乳がんの発症リスクは、そうでない場合と比べ、50歳までで16~25倍、70歳までで8~12倍になるというデータが。両乳房の発症や再発率が高いことも分かっている。(データ:NEJM;357,2,:154-62,2007)
すでに乳がんにかかっている人へ
日本でもここ数年、医療側の遺伝性乳がんへの関心が高まり、臨床遺伝専門医という遺伝性疾患の専門性が高い医師が増え、遺伝カウンセリングの体制も整いつつあります。
もしあなたが乳がんで、遺伝子検査を受ければ、娘や姉妹など身内の乳がん発症リスクを早期に知ることにつなげられるかも。「当院の場合、検査をしていなくても、カウンセリングで遺伝性の疑いが高い人に対しては、通常より対象年齢を引き下げての検診を呼びかけています」と山内さん。
もしこの遺伝子検査を受け、陽性だった場合は、家族・親族に発症リスクが高いことを話して積極的な検診を促しましょう。カウンセリングも受けてもらうようにすれば、発症リスクを抑えるための、より具体的な情報が得られます。「自費になりますが、例えば治療に使うホルモン療法薬を予防的に服用するなどがあります」(山内さん)。
遺伝子検査は気軽に受けられる検査とは言えませんが、身内の将来のために何か対策を打ちたいと考える人にとっては一つの手段かも。相談先は、HBOCのウェブサイトで得られます。

http://hboc.jp/facilities/
遺伝性乳がんの予防に取り組む医師や検査機関が共同で開発したサイト。全国の遺伝カウンセリング・検査実施医療機関の情報などが掲載されている。

聖路加国際病院(東京都中央区)ブレストセンター長/乳腺外科部長。順天堂大学医学部卒業後、聖路加国際病院外科医員、ハーバード大学などでの乳がんの研究、ハワイ大学などでの臨床経験を経て2010年より現職。家族性・遺伝性乳がんの啓発活動に力を入れている。
(日経ヘルス編集部)
[日経BPムック「『乳がん』といわれたら――乳がんの最適治療2013~2014 完全版」の記事を基に再構成]