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ニッチ市場を大きく育てる 異彩放つゲーム会社の戦略

ジャーナリスト 新 清士

スマートフォン(スマホ)向けソーシャルゲームの新しいソフトウエアプラットフォーム「ブシモ」。このプラットフォームを開発・事業化し、成果を上げ始めた中堅ゲーム会社がブシロード(東京・中野)だ。6年前に設立された同社はトレーディングカードゲーム(TCG)の開発・販売が主力で、2012年7月期の連結売上高は約150億円。TCGはコンピューターを使ったソーシャルゲームと違い、紙製のカードを使って実際に人と人が向き合って対戦するゲームだ。TCGで成長してきた同社はなぜスマホゲーム市場進出を決めたのか。同社の戦略は混迷が続くゲーム業界で異彩を放っている。

ジャスダック上場後に挫折を経験

ブシロードの木谷高明社長

ブシロードの木谷高明社長はブシモを採用した理由について「本当は競争が激しいスマホのソーシャルゲームに進出したいとは思わなかったが、エンターテインメント産業にかかわる者として今、かかわらない方がリスクが大きいと判断した」と語る。

木谷社長の経歴はユニークだ。業績が良かったころの山一証券でトップクラスの営業マンとなった後、1984年に独立。アニメやゲームといったオタク市場向けの商品を扱う会社「ブロッコリー」を設立した。売上高は順調に伸び、100億円を超えたところで01年にジャスダックに上場。しかしその後、業績が悪化。支援のため他社の資本が入り、07年に経営責任を取って同社を退職し、ゼロからの再出発としてブシロードを設立した。

ブシロードが展開しているトレーディングカードゲームの一部

TCGは男子中高生に人気のあるゲームジャンルだ。紙に印刷された様々なカードには、それぞれ特有の特別ルールが書かれている。それをうまく組み合わせて自分のカードのチームをつくり、相手と競い合う。ルールが非常に複雑なポーカーのようなゲームといえる。

ゲームを始めるには、まず1300円前後のトライアルデッキと呼ばれる50枚のカードパックを購入し、ゲームを遊ぶうえで必要最小限のカードの組み合わせを手に入れる。その後、必要に応じて8枚300円程度で販売されている新しいカードを追加購入し、自分のチームを強くすることができる。

紙のカードは1枚当たりの印刷費が10円前後と安価のため利益率は高く、ヒットすると大きな利益を生みだす。

日本玩具協会によると、TCGの12年の市場規模は855億円。「ポケモンカードゲーム」(ポケモン)、「遊戯王ゼアル オフィシャルカードゲーム」(コナミ)、「ガンダムウォーネグザ」(バンダイ)、「デュエル・マスターズ」(タカラトミー)などが激しい競争を繰り広げている。

 ブシロードは設立わずか6年にもかかわらず市場シェアは20%。これは同社がスタート時に独自の立ち上げ方で成功したためだ。

「ヴァイスシュヴァルツ」公式ページ 

TCGを手がける企業は一つのコンテンツをカード化し、それだけを集中的に販売するケースが多い。ところが同社は「涼宮ハルヒの憂鬱」や「魔法少女リリカルなのは」など、ニッチな深夜アニメのTCGへのゲーム化権を次々に購入。そうした何種類ものコンテンツを「ヴァイスシュヴァルツ」という同じシリーズのTCGとして積極展開した。

ニッチなコンテンツはある程度の人気があっても、視聴者が限られていることもあり、TCGでの展開には向いていないと考えられていた。ところが、特定のコンテンツが好きな一部ユーザーに、こうしたニッチなTCGは受け入れられた。ブシロードが深夜アニメの放送時に大量のテレビCMを投下し、認知度を上げたことも奏功した。人気コンテンツのTCGのなかには数十万パックも売れる商品が登場するなど、それまでの業界の常識を覆した。

ゲームショップをTCG専門店に転換

11年には同社のオリジナルのTCG「カードファイト!!ヴァンガード」の展開を開始。連動するアニメ番組の放送も開始した。このTCGは1年間で1000万パックが売れるという大ヒット商品になった。

木谷社長は「TCGはインフラビジネス」と強調する。08年ごろから家庭用ゲーム機向けのソフトウエアの中古ショップは、市場の縮小に伴って売り上げが減少、厳しい状況に追い込まれていた。ブシロードはそこに目を付け、各地の中古ショップに対してTCGの専門ショップに業態転換するよう促していった。店内にカードの販売コーナーを設け、ユーザーが気軽に友達と対戦を楽しめるように机と椅子を置いた場所を提供するだけでいいため、ショップにとって初期投資コストは小さい。

「カードファイト!!ヴァンガード」の最新のシリーズ

ただ、TCGの販売ノウハウを持っていないショップが多いため、木谷社長は自ら全国各地を説明して回り、浸透を図った。現在、ブシロードのTCGユーザー向けの大会を実施しているショップは全国で1000店舗に及び、大会参加者数は推定でのべ25万人にまで増えているという。

一方、テレビアニメのヴァンガードの内容にも工夫が凝らされた。荒唐無稽な世界で争う漫画的な展開ではなく、アニメの中でユーザーにゲームの遊び方を説明し、ゲームショップの運営ノウハウも紹介するような内容にしたのだ。ブシロードはユーザーとショップをじっくり"教育"し、独自のTCGの流通インフラを広げていった。

木谷社長の基本戦略は、常識の逆を選ぶことだ。そのときブームになっている市場に他社と並んで進出するのではなく、誰もがビジネスにならないと考えているニッチな市場を見つけ出し、そこを寡占状態にして参入障壁をつくることを狙うのだ。

目立たないブース「それでいい」

同社は昨年1月、新日本プロレスリングを買収した。木谷社長自身、プロレスファンだったが、周囲からは「もはや古くさくて人気のあるコンテンツとは思われないプロレスを手に入れて、どうやってビジネス化するのか」と厳しい声も多かった。

ブシロードは買収した新日本プロレスもTCGとして展開している

ところが、木谷社長は「逆だ」という。「プロレスには他に有力な団体がないため類似コンテンツがない。競争が存在しないので宣伝広告費もあまり必要ない。うわっと盛り上がり、安定的に利益を出せる段階が目の前にまで来ている」。この分野では事実上、同社の独占状態にあるというわけだ。誰もが無視しているようなニッチ市場を囲いこむことに成功したケースといえるだろう。

ブシロードは昨年9月開催の東京ゲームショウにブシモを出展したが、業界ではあまり注目されなかった。木谷社長は今回の取材の最中、「東京ゲームショウのブシモ出展ブースはどのように見えましたか」と筆者に質問した。そこで「率直に言ってブースは目立たず、今からの立ち上げは厳しいという印象でした」と答えると、木谷社長は「よし、それでいい」と納得の表情をみせた。

スマホにおいても、誰もが着目していないニッチ市場を静かにつくりだして注目される前にブランドイメージを確立し、周囲が気付いたときにはすでにブシロードは重要なプレーヤーになっている、という基本戦略に沿っているからだった。

同社はブシモ関連事業をスタートしてから半年で、同社の持つ既存コンテンツを含め9タイトルでブシモを展開している。そのうちパズルゲーム「バウンドモンスターズ」に関して大量にテレビCMを投下している。これはゲームのみならず「ブシモ」という名称の浸透を狙ってのことだ。

お金を払わなくても楽しめる仕組み

同社らしい成功例も生まれている。ソーシャルゲーム会社のKLabとスマホ向けに共同展開している「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」というアイドルユニットを育てるリズムゲームがその一つだ。これはもともと10年に始まった出版社やレコード会社などの共同プロジェクトをソーシャルゲーム化したものだが、これまでのソーシャルゲームの仕組みと大きく異なる点がある。

それはゲーム中に登場するキャラクターすべてに声優の声が入っているところだ。従来のソーシャルゲームでは、声優の音声を獲得するためにユーザーがお金を払う仕組みにすることが常識だった。

ゲームを進めるうえで、声優が歌う楽曲を買わなければならないというシステムにもなっていない。例えば、スマホ用リズムゲーム「太鼓の達人プラス」(バンダイナムコゲームス)では、新しい楽曲を手に入れるためには、追加でお金を払う必要がある。しかし、ラブライブはゲームを進めるとお金を払わなくても新しい楽曲が手に入る仕組みになっている。もちろん、ゲーム内アイテムを購入した方がゲームを速く進められるが、お金をかけずに楽しめるインパクトは大きい。

 この仕組みが評判を呼び、ラブライブは米アップルのコンテンツ配信サービス「アップストア」で6月にリリースされると、トップ売り上げランキングで最高2位を獲得。現在も安定的に10位以内と人気を得ている。すでにニッチなファンをつかんでいたコンテンツとはいえ、それらのユーザーに確実にアピールしてヒットにつなげている。

「ソーシャルゲーム事業は株やFXみたい」

「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」ブシモの公式ページより

ただ、木谷社長はスマホ向けゲーム市場への進出を楽観視しているわけではない。ラブライブの成功は「予想以上のこと」と考えているからだ。

そもそもスマホ向けゲーム市場は参入障壁が低く、競争が非常に激しい。「ソーシャルゲーム事業は株やFX(外国為替証拠金取引)を24時間休みなくやっているようなもの。経営者は精神的に疲れてしまうので、一生の仕事にするのは相当厳しいだろう」(木谷社長)とみる。

また、常に利益の最大化を目指すソーシャルゲームの考え方に対して木谷社長は「利益が出ないとすぐにサービスをやめるという経営判断に陥りやすい」と疑問を投げかける。「エンターテインメントはウエットな部分があり、仮に赤字コンテンツでも少なくとも1年以上は継続的にサービスを続けることが、結局はブランドを引き上げることになる」からだ。同社はこの方針をTCGでも採用している。

ブシモ関連事業は7月には単月黒字にできそうだが、今後も安定的に売り上げを確保できるかは不透明だという。それでも、静かにブランドをつくりあげてニッチなユーザーの信頼を獲得していく基本戦略は変えるつもりはない。

木谷社長にブシロードで上場を狙っているのか質問してみた。すると「ブロッコリーのときは売上高100億円で上場し、未熟な部分があった。今後は売上高が500億円ぐらいになったら考えるかな」との答えが返ってきた。それほど遠い先のことではないかもしれない。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶応義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。立命館大学映像学部非常勤講師も務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。

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