サンマを味わい、東北を思う(震災取材ブログ)
@神戸
秋の深まりとともに、サンマのおいしいシーズンがやってきた。東日本大震災の被災地となった岩手、宮城両県の沿岸にある漁港でも水揚げが本格化している。9月後半、岩手県大船渡市の仮設商店街「おおふなと夢商店街」を訪れた際には、ちょうど「踊る!さんま夢祭」が開かれていた。旬の時期を迎えたサンマを手ごろな値段で販売するとともに、商店街関係者とボランティアらが無料で炭火焼きとすり身のみそ汁を振る舞っており、大勢の来訪客に交じって私も堪能させていただいた。

そんな折、旧知の特定非営利活動法人(NPO法人)「阪神淡路大震災1.17希望の灯(あか)り」(神戸市)代表で俳優の堀内正美氏から、こんな知らせをもらった。「被災地・大船渡のサンマを食べて現地の方々を応援しませんか」
堀内さんが購入を呼びかけているのは大船渡市の鮮魚販売、森食品(森巌代表)の商品。大ぶりのサンマ10尾のセットなら2500円で、東京までは送料無料、それより西は300円という。同店は震災で店舗も工場も津波に流されたが、昨年11月、大船渡魚市場そばに仮設の店舗を建て営業再開を果たした。
堀内さんが森さんと知り合ったのはNPOのメンバーやボランティアとともに各地から神戸に集めた生活物資を被災者に贈るなどしていた支援活動がきっかけだ。昨年の震災直後、自分と同じ性別・年代の人を想定して洋服や生活用品を1セットにしてバッグに詰め、3万7000セット以上を提供者の手紙とともに被災地に贈った。
「阪神大震災の時、各地から寄せられた支援物資が役所などに滞留した。仕分けに回せる人手がなく必要な被災者に行き渡らなかった」(堀内さん)。そんな反省を教訓に生まれた取り組みで、無償輸送の協力を申し出てくれた神戸ヤマト運輸(神戸市)とともに現地に運び、すぐに役立つ物資として避難所などで歓迎された。
救援から復旧の段階に入ってからも、堀内さんたちの被災地通いは続き、復旧・復興に向けて被災者を励まそうと、大船渡市の南隣、陸前高田市の「気仙大工左官伝承館」に昨年12月、神戸から分灯したモニュメント「3.11希望の灯り」を建立した。同館の武蔵裕子さんは「今では観光名所になり、月に2000~3000人が訪れるようになった」。

神戸・東公園にある「1.17希望の灯り」は阪神大震災後、全国から寄せられた火種をもとに今もともり続ける。同様のモニュメントはその後、福島県南相馬市にも建立。近く岩手県大槌町にもつくられる。阪神の被災者を支援しようという全国各地からの思いを、今度は東北の被災地支援につなげようという試みだ。最近はせんべいなど「希望の灯り」のロゴマーク入り商品なども考案。地道に長く、東北の被災地に関わりを持ち続けようとしている。サンマの購入をという今回の堀内さんの呼びかけも、そんな思いに裏打ちされている。
震災から1年半が過ぎ、東北から離れた地域では被災地の現状が報じられる機会も量も全体的に減少している。現地を訪れると、被災者の人たちは震災への関心が薄れることをとりわけ懸念する。思い起こせば、私が取材にかかわった1995年の阪神大震災でもそうだった。
だが、離れていても様々な形で被災地支援はできるし、被災した方々に心を寄せることは可能だ。堀内さんは「時の移ろいとともに特に遠い地域では被災地が忘れられがちになる。だが、そこで生きている、生きていかなければならない人がいる。その人たちの思いを応援できる」と強調する。
堀内さんの薦める大船渡のサンマもよし、スーパーに並ぶ他の被災地区のサンマもまたよし。どこかで見かけたら、ご飯や酒のともにしてみて、被災地に思いをはせてはいかがだろうか。
(川上寿敏)