大敵は「感電」、衝突ハイブリッド車の救出訓練に潜入
自動車やチャイルドシートなどの安全性能評価試験を行っている独立行政法人の自動車事故対策機構(NASVA)では、HVやEVについて「電気自動車等の衝突時における感電保護性能試験」という、電気についての安全性を評価する実験を手掛けている。
これまで、この評価試験でチェックしてきた範囲は乗っている人が感電しないという「車室内」だけだったが、平成26年(2014年)度からは対象が「車室内・外」と変わり、「車外」も含まれるようになった。事故によりバッテリーの電気が車外に漏れると、救助活動などに支障を来す恐れがあるからだ。
今回、感電保護性能試験の様子や、HVの事故を想定したレスキュー隊による被害者救出訓練を取材した。
実験できるのは年間10車種ほど
NASVAでは、市販車を使った安全性能評価試験を実施し、その結果をWebサイトなどで公表している。この実験結果は、自分の所有する車や、購入を考えている車の安全性を確認するのに役立つ。
ただし、実験に使う車はNASVAがディーラーから実際に購入したものであるため、予算の制約から市販されているすべての車をテストするわけにはいかない。実験できるのは、1年間で人気の車種を中心に10車種ほどにとどまる。このほか、自動車メーカーからの要請で車を提供してもらい、試験を行うこともあるという。
乗員保護性能試験には、車の前面がすべてぶつかる「フルフラップ前面衝突試験」、前面の約40%分がぶつかる「オフセット前面衝突試験」、横からぶつかる「側面衝突試験」がある。この3タイプの衝突試験のために、同じ車種を3台購入して実験に臨む。

車体外側の電気の流れもチェック
今回取材したのはオフセット前面衝突試験。運転席と後部座席にダミー人形を乗せ、時速64kmで運転席側を衝突させるというもの。乗員を保護できているかどうかは、ダミー人形に取り付けたセンサーが受けた衝撃の測定値と、車内の変形具合から、5段階で評価する。

感電保護性能試験では、車に高電圧自動遮断装置がある場合はきちんと作動したかどうか、高電圧バッテリー(RESS)の電解液漏れの有無、高電圧バッテリーがしっかり固定されていて車内に飛び出していないことなどを確認する。
乗員が感電しないように電気の流れもしっかりチェックする。チェックする範囲が平成25年(2013年)度までは車内のみだったが、今後は車体の外側も含まれるようになる。ちなみに、多くの車では高電圧バッテリーはトランク周辺に配置されていることが多い。
衝突試験は一瞬で終了
実際の衝突試験は、茨城県つくば市にある日本自動車研究所の衝突実験場で実施した。実験場には車をぶつけるバリアーや、車を牽引して走らせる駆動装置、様々な計測機器などが立ち並ぶ。
取材当日の試験に用いられたのは、ホンダの「アコード ハイブリッドLX」だ。NASVAのスタッフからいろいろ説明や注意を受けた後、いよいよ実験が開始されたが、衝突試験は一瞬で終わってしまった。

その瞬間を撮影しようとカメラを構えていたが、あまりに短すぎてあっけなく感じたほどだ。衝突の後、NASVAのスタッフが試験の結果を確認し安全性をチェック、それからやっと車に近づいての撮影が許可された。



ボンネットは感電の危険箇所
次に、つくば市消防本部によるEV/HVを使ったレスキュー訓練の様子を取材した。こうしたEV/HVの事故の場合、レスキュー隊員も感電する恐れがあるため、それに応じた訓練が必要になる。
しかし、実際にHVを使ったレスキュー訓練ができる機会はあまりないという。そこで今回、初の試みとして、衝突試験に使われてあとは廃棄するだけになった車両を訓練に有効活用することになった。訓練に使われたのは、トヨタの「 クラウン ハイブリッド アスリートS」だ。


EVやHVには、車種ごとにレスキュー時の取り扱いマニュアルが用意されていて、隊員はこれを参考にしてレスキュー作業を行っている。たとえばクラウンハイブリッドの場合、トヨタのWebサイトでマニュアルが公開されている。EVやHVに乗る場合も、万が一に備えてこうした注意事項に目を通しておいた方がよさそうだ。
このマニュアルによると、ボンネット部分などが「高電圧による感電の恐れがある箇所」となっている。レスキュー作業は、まずこうした部分を電気を通さない耐電シートで覆うことから始まった。

レスキューのノウハウ蓄積はまだこれから
レスキュー作業に当たる隊員は、耐電服や耐電仕様のグローブ、長靴を着用している。さらに、漏電がないかどうかを確認するためのスティックを使って、感電しないようにチェックしながら作業を進めていく。
こうした作業が必要なため、EVやHVでは一般の車に比べてレスキューにかかる時間が若干長くなるという。


現在のところ、EVやHVの台数そのものがまだ少なく、当然ながら事故自体も少ない。こうしたレスキューのノウハウの蓄積はまだまだこれからだという。
NASVAによるとまだ台数が少ないため、実際にEVやHVの事故で感電によって重大な被害が起きたことはほとんどないというが、今後普及が進めば増加する可能性もある。
EV/HVの購入を考えている人は、こうした自動車アセスメントの結果に目を通したり、マニュアルに目を通しておくなどして、高電圧バッテリーを搭載した車で事故に遭った時の注意点をあらかじめ知っておくとよいだろう。
(IT・家電ジャーナリスト 湯浅英夫)
[日経トレンディネット2014年3月18日付の記事を基に再構成]
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