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ディーゼルは日本で再浮上するか 乗用車向け最新技術

東京モーターショーでも脚光

乗用車のエンジンとして長らく日本で敬遠されてきたディーゼルエンジンに、再び注目が集まっている。マツダは自社開発ディーゼルを来年春に発売の多目的スポーツ車(SUV)「CX-5」に搭載。3日から一般公開された「東京モーターショー2011」に展示している。すでにディーゼルを主力エンジンとしている欧州メーカーも技術力をアピールする。「排ガスが環境に悪い」「振動が気になる」「出力が弱い」――。日本人が抱いてきたディーゼルの「常識」は、様々な技術の進歩で大きく改善。車体価格やランニングコストも安く抑えられる。マツダは、ハイブリッド、電気自動車に続く究極の「第3のエコカー」と位置づけるが、果たしてディーゼルは日本で再浮上するのか。それとも、ニッチな技術にとどまるのか。最新の「クリーンディーゼル」の現状を取材した。

「新しいディーゼルを生み出した」と話すのは、マツダで四半世紀の間、エンジン開発に携わってきたパワートレイン開発本部の仁井内進主査。マツダが2005年から「次世代環境技術」として開発に着手した「スカイアクティブ」のガソリンおよびディーゼルエンジン開発を担当してきた。「国内では乗用車でディーゼルエンジンのシェアは1%に遠く及ばない」という状況の中で、なぜディーゼルエンジンに注目したのか。

仁井内氏は、「どれだけハイブリッドや電気自動車が普及しても、乗用車のベースになるのは内燃機関」と強調。長い開発の歴史とノウハウの蓄積があるエンジンの優位性にさらに磨きをかけることで、様々な方式の動力源による乗用車の環境対応競争を乗り切る構えだ。環境対応には多額の開発投資が必要。トヨタなど大手に比べ資金力で劣るマツダが、乗用車向けエンジンの現実的な選択肢としてディーゼルなど既存技術の高度化に焦点を当てるのは自然な流れでもあった。

ディーゼルとEV、HVの主な特徴
ディーゼルエンジン車電気自動車(EV)ハイブリッド(HV)
長所二酸化炭素(CO2)排出量が少ない、ガソリンに比べ燃料の軽油は1割ほど安価(11月時点でリットルあたりガソリン142円に対し128円)走行時にCO2、NOxなどを排出しない低燃費(現行プリウスはリットルあたり32キロメートル)、排ガスがクリーン
短所排ガスに含まれる窒素酸化物(Nox)などが多い、出力が劣る1回の充電での走行距離が短い、充電時間がかかる、電池自体のコストで車体が高価複雑な設計機構、電池の製造工程でCO2排出量が大きい

欧州では主流エンジン

すでに海外市場ではBMWやメルセデス・ベンツなどが高性能のディーゼルエンジンを載せた乗用車を欧州市場で展開。「走りやすく、燃費効率がいい」と消費者に受け入れられている。欧州では乗用車に占めるディーゼル車の比率は5割以上、フランスでは7~8割に達するという。

実は日本でもかつて乗用車でディーゼルエンジンが普及した時期があった。80年代には8%程度までシェアが高まったが、90年後半からは下降線をたどり、現在では極めてニッチな存在だ。1990年の自動車税改正で排気量2000CC以上のディーゼル乗用車が増税対象となったことや、99年には東京都などが基準値以下のディーゼル車の走行を禁止するといった規制などが原因だった。ディーゼルから排気される窒素酸化物といった大気汚染物質が問題視された結果だった。

 ところが、日本の乗用車市場からディーゼルが事実上閉め出されている間に、欧州でディーゼルの弱点を克服する技術革新が起こった。デンソーが世界で初めてトラック用向けに燃費効率を高める燃料噴射装置を実用化したのに続き、世界部品大手の独ボッシュは1997年、ディーゼルエンジンの燃料室に最適なタイミングで燃料を噴射、空気を送り込むための乗用車向けの機構、「コモンレール」を発表。欧州の完成車メーカー各社が相次いで採用した。

コモンレールのほか、排気ガスを浄化する高度なフィルターなどの新技術も登場し、窒素酸化物などの排出や振動を大幅に抑え、運転性能も高めたディーゼルエンジンが続々と誕生。ディーゼルは欧州で乗用車向けクリーンエンジンの代表格に浮上した。

自動車技術者の間ではもともと、ディーゼルは環境対応エンジンとしての潜在力が高いと期待されていた。燃料として使う軽油は、その熱量に対してエンジンが動力に転換できる「熱効率」が比較的高いからだ。ところが、従来のディーゼルは燃料と空気を高圧で圧縮、燃焼させるため、窒素酸化物(NOx)などの物質を多く排出する弱点があった。さらに、ガソリンエンジンよりも頑丈な部品が必要で重く、騒音や振動も大きい。出力が劣るのも敬遠される理由だった。

新技術で弱点克服

しかし、欧州メーカーは日本勢が注力したハイブリッド方式などよりディーゼルに注目し、コモンレールなどの新技術でディーゼルの弱点を克服したわけだ。メルセデスベンツは、尿素を排ガスに吹き付け浄化する「ブルーテック」と呼ぶ技術をすでに搭載。「燃費やトルクの高さが評価され、販売も好調」と説明する。「東京モーターショー」の会場にも、同技術の紹介ブースを設置する。メルセデスは日本でステーションワゴンとSUVの計3車種のディーゼル搭載車を販売。「普及を促すため、戦略的にガソリン車に比べ18万円しか変わらない価格を設定している」(商品企画・マーケティング部の柿沼信行氏)。新世代ディーゼルの中核技術を担うボッシュは「規制が厳しかった米国でもBMWやメルセデスベンツのディーゼル車の販売が好調」(ディーゼルシステム事業部開発部門の小西康正ゼネラル・マネージャー)と話し、欧州以外でも今後の市場拡大を見込んでいる。

国内で購入できる主なクリーンディーゼル車とCX-5
燃費(キロメート
ル/リットル)※
最大トルク
(N・m)
車両価格
(円)
メルセデス・ベンツE350ブルーテック(3.0リットル)
※セダンタイプ
14.5540798万
メルセデス・ベンツM350ブルーテック(3.0リットル)11.5540814万
日産エクストレイル(2.0リットル)14.2360308万7千
三菱パジェロ GR(3.2リットル)10.4441360万2千
マツダCXー5(2.2リットル)18.6420

 日本勢は規制も逆風となりディーゼルの技術開発は停滞。ただ、「日系各社が蓄積してきたディーゼル技術は世界的に見ても高い水準」(ボッシュ担当者)という。マツダの仁井内氏も「日本では一度ギブアップしたが、10年もすれば技術は進歩する」と力を込める。

日本でも売り込む

 期待の新車「CX-5」に搭載する「スカイアクティブ-D」は、マツダにとって7年ぶりのディーゼルエンジン。「低圧縮比ながら燃費と出力を改善した」(仁井内氏)のが最大の特徴だ。圧縮比は通常16~17という数字を14まで下げた。燃料の噴射タイミングに工夫を重ねることで、NOxやススの発生量を抑え、マツダの従来ディーゼルに比べ、燃費を2割改善した。大小2個の過給機(ターボチャージャー)を採用することでトルクも向上。「知らずに乗ったらガソリンエンジンとの違いは分からない」。仁井内氏は静粛性にも自信を示す。

通常、ガソリンエンジン搭載車種に比べ、購入時の価格が1~2割高くなってしまう点も改善した。コスト高の要因となっていた排ガスの後処理工程を不要にしたのだ。これまで、ディーゼルエンジンの後処理工程は、レアアース(希土類)など高価な素材を触媒に使用。日本メーカーによるディーゼルの開発が停滞した背景にはレアアースの高騰もあるという。

マツダの山内孝社長は、新しい環境技術を搭載した「CX-5」のSUV世界販売台数を年間16万台に設定。国内の半分はディーゼルエンジン搭載車として販売を見込んでいる。

三菱自動車も2010年10月、多目的スポーツ車(SUV)「パジェロ」で6年ぶりにディーゼルエンジン搭載の同車種を復活させた。「スキーなど遠出する人を中心に人気で、当初150台の販売を計画していたが、実際の販売は200~250台ほどで好調」と商品企画部の前川裕史主任は話す。

ホンダは日本国内ではEV(電気自動車)やハイブリッド車を重視する一方、海外でディーゼルエンジンを強化する戦略。企画室の原幾朗主任研究員はディーゼルを「地域特化型」のエンジンと表現する。主戦場は欧州やインドなどだが、「フィリピンやタイ、オーストラリアなどアジア太平洋地域でも需要が拡大している」とみる。

トヨタも1日、BMWからディーゼルエンジンを調達することを発表し欧州市場での拡販を狙う。2010年にインドに投入した戦略車「エティオス」にもディーゼルエンジンを設定。耐久性の高さなどを売りにして攻勢をかけている。

ハイブリッド、電気自動車と戦線を拡大していくクリーンエンジンの競争。世界規模で見ればディーゼルもそこに確たる地位を確立しつつあるのは間違いない。「普及には整備士の育成が不可欠」(ボッシュ担当者)との指摘もあるが、軽油で走るディーゼルの経済性は大きな魅力。マツダの新エンジンが起爆剤となり、日本でも選択肢の1つとして検討する消費者が増えそうだ。

(電子報道部 杉原梓)

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