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品位ある節約

林望さん

──独自の節約哲学を説いた『節約の王道』がベストセラーになりました。『イギリスはおいしい』などでのダンディーなリンボウ先生のイメージと、節約本は意外な組み合わせでした。

林望(Nozomu Hayashi)さん 作家・書誌学者。63歳  1949年東京生まれ。東京芸術大学助教授を経て、50歳から作家に専念。ライフワークのひとつである源氏物語の執筆に取り組み、2010年より『謹訳源氏物語』を刊行。(撮影:竹井俊晴)

イギリス貴族の日常生活は驚くほど地味なものです。むやみにおカネを使わず、生活を質素にすることこそ品位のある暮らし方だと考える風潮があります。

一方、僕を含めて大半が中流階級の日本で、ブランド品がばんばん売れる。全く珍現象ですよ。それでいて、そこそこ裕福なはずなのにおカネがないと嘆いている。

本当に今の生活が合理的なのか、どこか間違っているところはないのか、無駄なことに無用のおカネや力を使っていないかを直視しようと、この本で提案したかった。ちまちました節約ノウハウには興味がないんですよ。大切なのは、生活全体を根本的に、徹底的に見直すことです。

──例えば食材の買い出しは、基本的な食材を冷蔵庫がいっぱいになる分だけ買って、完全に使い切ってから買い出しに行くそうですね。

あれは僕自身がいろいろやって一番いいなと行き着いたやり方です。家では日々の食事は基本的に僕が作っていますから。

食材を買うときに10円、20円にこだわるのに、結局冷蔵庫で腐らせてしまう人が結構いるようですが、それでは元も子もないでしょう。食材を使い切る習慣を身につけて、それを続けていけば、自然に食費の無駄遣いがなくなります。

服はユニクロ、車は年収の1カ月分

──洋服は一度に3着まとめ買いできる値段のものが身の丈にあっているという尺度も面白い。

もっぱらユニクロの服を愛用しています。ベーシックなデザインで着心地が良く、しかも安い。

なぜ3着かというと、それくらい苦も無く支払える額のものでないと、自分のものとしてしっくり着こなせないと思うからです。もちろんファッション業界で働いていて、服が人生であるような人は別としてですよ。要するに、洋服代はいくらまでが適当だなんてふうには決めつけられないけれど、自分の身の丈に合ったおカネの使い方を自覚して、モノを選んでいるかということです。

──自動車の選び方にもルールがあるそうですね。

年収の1カ月分というのが、自分の身の丈にあった車の購入価格の上限だと思っています。例えば年収600万円の人なら50万円。これは社会人になってからずっと守っている「枠」です。だから30代のときは本当にオンボロの中古車しか乗れなかったですよ。けれども別にいいんです、車なんて動けば。

僕は車の運転がとても好きなのですが、法外に高い車を持ちたいとか、持っている人がかっこいいとか思ったこともありません。フェラガモのスーツ着て、フェラーリに乗っている人なんかを見ると、憐憫(れんびん)の情すら覚えますよ(笑)。そんなことにおカネ使ってと、説教したくさえなりますね。

──学者には、おカネに無頓着な人が少なくないようですが、林さんは少数派でしょうか?

いや、僕も割合無頓着ですよ。だからこそ「枠」を作ってしまうんです。例えば、銀行でおカネを下ろすときは必ず3万4000円と決めているんですが、これはお財布にたくさんおカネを入れておくと使ってしまうから(笑)。4000円という端数をつけるのは、一度一万円札を崩してしまうと、あっという間になくなっちゃうからです。何より、このやり方が僕にとって合理的なんです。例えば1日1000円しか使わないというルールを決めてコツコツやろうとしたら、財布を開くたびにおカネのことを考えなくちゃならない。僕にとって買い物は最大のレクリエーションですから、それじゃ嫌なのです。

3000円で売っていた本、今なら300万円

──欲しい!と思ったものと出会ったときは我慢しない。

だからこそできるだけ無駄を省いて、買いたいなと思ったときに買えるようにしておきたいんです。まだすごく若いとき、大学院生のころですが、奈良の小さな古本屋さんで、ある本を見つけたんです。江戸中期の小説で、当時の値段で3000円でした。今でいうと1万、2万円でしょうか。ところがそのときは旅先で4000円しか手元になかったんです。帰りの切符は買ってあるけど、ここで3000円を使ってしまうと1000円しか残らない。それでそのときは、「まあ、いいか」と諦めてしまいました。

ところが後になって、それが本当に珍しい本だと分かりまして。今なら300万円はする本だったんです。

──それはくやしい。

安いか高いかだけじゃなくて、せっかく僕の前に「買ってください」といって出てきてくれた本を、買うことができなかったのが一生の無念で…。

以来、自分の研究や著作に役立つと思った本は無理しても買い続けてきましたね。もう、本に関しては無理してきました。その代わり、それ以外は自分の範囲内で暮らすように心がけました。小市民的とか、男らしくないとかいわれてしまうかもしれません。でも、おカネの使い方は僕にとっては生き方そのものでもあるんですね。自分の人生で何が肝心なのかという基準を設けて、肝心なことには使い、そうでないことには徹底的に使わない。そのメリハリのつけ方に妥協しない。これが節約の王道だと思っています。

──不景気は身の程を知るチャンスだともおっしゃっています。

景気が悪いと、無い袖は振れないってところから発想せざるをえない。これを機会に「やめられない」たばこやお酒やブランド品をやめてみちゃどうだい、っていうのも提案したいことですね。

──心します。

いきなり一生飲むなとはいいません。まずは半年だけやめてみてごらんなさい。そうすると今までどれだけ時間を無駄にしていたかってことをすごーく実感すると思います。酒飲みが酒飲んでしゃべってることっていうのは要するに全部たわごとですから(笑)。

[日経マネー別冊「私のマネー黄金哲学」(2010年5月)の記事を基に再構成]

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