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自前の送電網使い需給に応じて料金変動

北九州プロジェクト

 「北九州スマートコミュニティ創造事業」では現在、自前の送電網を使って電力を供給することにより、実際の需要家向けの電気料金を変える実用レベルに近い実証実験を展開している。新日鐵住金が持つ天然ガスコジェネで発電し自営線を使った電力供給が行われており、50事業所、230世帯におよぶ需要家を対象に実証実験が行われている。その中核を成すのが、発電、蓄電などのエネルギー設備と需要家を情報網でつなぐ「地域節電所」、つまりCEMS(地域エネルギー管理システム)である。電力システム改革を見据えたエネルギー需給の将来像を、地域内でエネルギー需要と供給を最適化する実証プロジェクトを通じて垣間見る連載「ニッポンの『賢い電力』」の第2回は、北九州スマートコミュニティ創造事業を紹介する。
図1 北九州市東田地区全景。八幡製鐵所創業の地で、製鐵所遊休地の再開発により誕生した新市街地である。スペースワールド駅を中心に、商業施設、企業、マンションが建設されている(撮影:日経BP社)

北九州スマートコミュニティ創造事業の舞台は、北九州市の東田地区(図1)。特徴は、33MW(メガワット)の天然ガスコージェネレーションシステム「東田コジェネ」を持ち、そこから自営線(自前で整備した送電網)によって地域内の各需要家に「特定供給制度」によって電力を供給していることだ。

一方で、九州電力の系統網とも連携している。系統網のバックアップを受けたうえで、自営線のマイクログリッド(系統から独立して稼働する電力ネットワーク)によって電力供給を行う先駆的な試みである。工業団地や再開発地域など、開発時に自営線を設置できるケースでは、コジェネによる熱供給も含めて、地域におけるエネルギービジネスのモデルケースになると期待されている。

その中核は、「地域節電所」と呼ばれるCEMS(地域エネルギー管理システム)である(図2)。

図2 CEMSのオペレーション室。需要家個々の電力使用量をモニターし、需給調整を行う(撮影:日経BP社)

地域内の蓄電設備、メガソーラー、需要家の各施設に導入されたEMS(エネルギー管理システム)と情報連携して、地域内の需給を調整する(図3)。EMSは、ビルに設置されたBEMS(ビルエネルギー管理システム)、各家庭などに設置されたスマートメーター、HEMS(家庭エネルギー管理システム)、工場に設置されたFEMS(工場エネルギー管理システム)と需要家ごとに最適化されている。

図3 北九州実証におけるCEMS全体像(出所:富士電機)

域内の「同時同量」を実現

地域内の需給調整は、発電量と消費量を合わせる「同時同量」を図る。同時同量は、停電はもちろん、電圧低下や周波数変動といった問題を起こさない電力品質の維持のためには不可欠な機能で、これまで電力会社による大規模系統網で行われてきた。北九州プロジェクトでは、この同時同量を東田地区という小規模な地域内で実施する。それを可能にするのがCEMSである。

CEMSは2012年から稼働を開始し、地域内における同時同量の実験が進められてきたが、「毎30分値で需給バランス(周波数変動)を3%の誤差に収めることができた」とCEMSを開発した富士電機の発電・社会インフラ事業本部エネルギー流通事業部スマートコミュニティ統合技術部の桑山仁平担当部長は言う。通常は5%以内なら許容範囲とされているので、電力品質としては合格点とみなされる。

そのうえでCEMSは、(1)再生可能エネルギーなど地域エネルギーの大幅な活用、(2)需要家の積極的な参加、(3)大規模系統網との協調連携――といった機能を担っている。

地域のエネルギーを最大限活用

(1)の地域エネルギーについては、太陽光や風力などの再生可能エネルギーに加えて、工場からの排熱・複製ガスなど地域内で生み出すエネルギーをできる限り多く活用することによって、低炭素化を実現する。CEMSの機能としては、翌日の計画を立てる際に、まず翌日の天気(気温、日射量、風量など)を基に再生可能エネルギーの発電量を予測し、それを優先的に使うようにする。

図4 コミュニティ設置型の蓄電システム(撮影:日経BP社)

そこで課題になっているのが、予測精度を上げることだという。「天気予報のメッシュ(地域を多数の正方形で区切ったときのひとつ)を細かくすると予測精度が上がることは分かっているが、処理速度やコストなども勘案してどの程度のメッシュにしたらいいかというノウハウを蓄積している」(桑山氏)という。

さらに、再生可能エネルギーなどの「新エネルギー」を大量導入する際に有力な手段となるのが蓄電システムである。蓄電システムは、再生可能エネルギーの発電量が需要量を上回ると充電して余剰分を吸収し、逆の場合は放電により需要を賄う。同プロジェクトでは、八幡東区に蓄電量300kWの次世代鉛蓄電池を設置したほか、各所に地域単位のエネルギー管理を担う蓄電池を設置している(図4)。

現在の新エネルギー比率は、33MWの発電能力に対して5%程度だが、これを今後10~20%に増やしていくためには、これらの蓄電システムを有効に活用する計画だと桑山氏は語る。

製鉄所が発生する水素使ってピークカット

地域エネルギーの有効活用という面で近年注目されるのは、製鉄所で発生した水素をCEMSと連携する試みである。北九州では水素利用社会システム構築実証事業「水素タウンプロジェクト」が先行しているが、これと連携することによって、太陽光が大量導入された際などにおける地域需給バランスを調整する実証実験もスタートさせている。

「水素タウンプロジェクト」では、いのちのたび博物館に100kWのリン酸型燃料電池が設置済みだ。パイプラインで供給された水素で発電すると共に、吸収式冷凍機の熱源としている。この燃料電池をCEMSと連携して、地域内の電力需要が大きい時には通常時の出力から負荷を上げて運転してピークカットに貢献する実証実験を2013年度からスタートさせている。

電力価格変動するDR実証スタート

(2)の需要家の参加については、需給状況に応じて実際の電力料金を変動させて電力需要を抑制するDR(デマンドレスポンス)が柱である。震災後の電力供給不足を受けて、夏場などの需要ピークをカットするために電気料金を上げて需要を抑制するのが狙いだ。今後はゴールデンウィークなど太陽光発電が余剰になったときに、逆に電気料金を下げて需要を喚起するようなDRも実施する。

ピークカットのためのDRは、日本でもオール電化住宅に導入されているTOU(時間帯別料金)をベースにCPP(緊急ピーク時課金)を加えたパターンで実験が始まった。CPPとは、緊急ピークが予想される日時の前日に、需要家に対してCPP料金を通知してDR要請を発動するものだ。CPP料金は、その時間帯の通常の料金単価を3~10倍に上げる。需要家は、割高な単価での料金支払いを減らすために、その時間帯に節電したり、ほかの時間帯に電力利用をシフトしたりする。

北九州の実証では、2012年度の夏と冬に、TOUを導入済みの約180世帯に対してCPPを実施した。通常のピーク時(夏は13~17時、冬は8~10時と18~20時)は1kWh当たり15円なのに対し、気温に応じて同50円、75円、100円、150円の4レベルで上げた。夏は7~9月、冬は12~1月の各3カ月間に、CPPを10回実施した。その結果、CPP料金を3.3倍の50円に上げた場合のピークカット効果は18~19%。これを10倍の150円に上げると、21~22%に達するという結果が得られた。DRにはピークカット効果があることが確認されたのである。

(3)の大規模系統網との協調連携は、非常時や東田コジェネの最適運転モードの際などのバックアップとして頼っているために不可欠な機能である。万が一、地域内で事故が起きた時に大規模系統網に影響を与えないような運用についても検証している。

サービスの3レイヤー

北九州スマートコミュニティ創造事業の中核を成すCEMSは、富士電機が開発を手掛けた。このCEMSは、需要家へのサービスという視点からは以下の三つのレイヤーからなる。

(1)災害が起こった時に再生可能エネルギーや蓄電システムによって、水、物流、エネルギーなどのインフラや行政施設など重要施設にエネルギーを供給すると共に、他の系統網に悪影響をもたらさない強固なライフライン、(2)CEMSを中核に需要家側のEMS、スマートメーターを連携させて、DRによって省エネ化と再生可能エネルギーの大量導入を可能にするインフラシステム。このシステムは、地域の発展に対応する拡張性を備える、(3)災害時対応や省エネ、再生可能エネルギーの大量導入の実現に必要な装置をうまく組み合わせて稼働させることによって可能になる、新しい行政サービスやアメニティサービス――である。

EMSのパッケージソフトをリリース

富士電機はCEMS以外にも、業務用や産業用途向けを中心にさまざまなEMSをこれまでに開発している。2011年には、それらの機能を集約したEMSのパッケージソフト「エネルギー・ゲート(Energy Gate)」を開発し、リリースし始めた。同ソフトを使えば、さまざまな現場のニーズに合わせて、EMS環境を迅速(じんそく)かつ安価に構築できるという。

同社はエネルギー・ゲートを、新電力や大口需要家などオンサイトでEMSを導入しようとする事業者向けに提供していく。さらに、中小の事業所や企業などEMSの設備やシステム本体を導入する資金力のない事業者向けに、クラウド環境も提供していきたいとしている。複数の中小事業所を取りまとめてエネルギー管理を行うBEMSアグリゲータ向けにシステムを提供することも検討する。

エネルギー・ゲートを使えば、電力需給調整だけでなく、製造業の生産性を向上する手法の提案にも踏み込むことが可能という。北九州プロジェクトでは、シーツなどのリネンのクリーニング事業をてがけるワタキューセイモアの東田工場において、エネルギー・ゲートを使った生産計画を考慮したEMSの実証実験がスタートしている。

ワタキューセイモアでは、CEMSからの価格情報を受け取り、電気料金の安い時間帯にエネルギー消費量の大きい品目を、電気料金の高い時間帯にエネルギー消費量の小さい品目を処理するように各リネンのクリーニング計画を組み換える。これにより、ピークシフトを実現し、電気料金を削減すると共に、地域全体の負荷平準化にも寄与することを狙う。

さらに富士電機は、エネルギー・ゲートの開発や運用によって培ったノウハウを活かして、自らエネルギーサービスに乗り出すことも検討している。

エネルギー・ゲートはまた、需要家の各種データを高いセキュリティーの元で集積する機能を持っている。このため、安否確認やセキュリティー関係、オンデマンドバスなど、エネルギー関係以外のサービス事業にもデータをクラウド環境から提供することができる。他サービスへのデータ提供事業というビジネスモデルも考えられるとしている。

(日経BPクリーンテック研究所 藤堂安人)

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